台風10号で、避難所の入り口に掲示された「受け入れ不可」の貼り紙です。
新型コロナウイルスの影響で、受け入れ人数を減らしたため、九州などで定員に達してしまう避難所が相次いだのです。
避難してきた人に別の避難所へ行くよう、案内する自治体もありました。
NHKが避難所の受け入れ状況を取材したところ、定員に達した避難所の数は、九州・山口の116の市町村で少なくとも514か所にのぼりました。
実は、こうした事態は、去年、台風19号で、都内各地の自治体で起きていました。
NHKの取材で、東京23区と氾濫した多摩川沿いの市、あわせて37の自治体のうち13の自治体で、避難所やその駐車場に住民や車が入りきらず、別の避難所に移動させたことがわかっています。
ことしは新型コロナウイルスの影響もあり、避難所に入れないという事態は人口の密集する首都圏では、さらに深刻なものになるおそれもあります。
今回、浮き彫りなった課題について災害時の避難行動に詳しい静岡大学の牛山素行教授は
まず、自治体が検証すべき課題があると言います。
牛山 教授
「今回、さまざまな警告によって 避難者が非常に多かったために避難所が満杯になったのか、コロナ禍で収容力が少なくなっていたから満杯になったのかという事実関係を把握することは重要で、これまでの災害と比較し、背景や課題を自治体側、住民側のそれぞれについて検証することが必要だ」
そのうえで自治体の役割について以下のように指摘します。
牛山 教授
「どの自治体もすべての住民を避難所に受け入れられるわけではなく、住民の数に対してどれぐらい不足しているかについてきちんと公表すべきだ。そのうえで商業施設など公的機関以外の施設を避難所として確保することや、災害時の避難所の混雑状況について インターネットを活用してリアルタイムで発信することなどが重要になる。混雑状況の発信は小さい自治体では人手不足などで難しい部分もあるため、国や都道府県がノウハウの提供や予算の面で支援していくべきだ」
コロナ渦での避難所の混雑をどう解決すべきか、一部の自治体では取り組みが始まっています。
多摩市では、去年の台風19号のとき、10か所の避難所を開きましたが、避難者が3人の場所があった一方、1300人余りが集中して別の避難所への移動を迫られる人も出ました。
このため多摩市では、避難所の混雑の状況をスマートフォンの地図で確認できるシステムを作り、8月24日から運用を始めています。
システムでは、避難所内に「空」「やや混雑」「満員」の3段階のボタンがあり、避難所の職員が選択すると、地図上にその状況が反映され、住民が避難所を選ぶ参考にすることができます。
城所学 課長
「スマホを使える若い方たちが、システムを使って空いている避難所に行ってもらえればスマホがない高齢の方には、近くの避難所に入ってもらえ、避難所に入れないケースを減らせると期待している」
一方、川崎市は富士通と連携してAI=人工知能を使ったシステムの実験を進めています。
避難所の入り口などに設置したカメラの映像から、AIが避難者の人数や避難者同士の距離を分析し、避難所の混雑状況や新型コロナウイルスの感染リスクを判定します。
8月31日には、台風19号のとき、避難者で混雑した小学校で実証実験も行われました。
人が密集して感染リスクが高まっていると判定すると警報音が鳴り、市の職員が避難者役の人たちに対して、互いに距離を取るよう指示していました。
また、避難所が混雑しているという情報は、市の災害対策本部にも送られ、本部の職員が避難所にいる職員に指示して近隣の空いている避難所に移動してもらうよう伝えていました。
飯塚豊 室長
「去年の台風19号では大勢の避難者の対応に追われ災害対策本部に情報が集約できなかった。コロナ禍での避難所の運営にAIによる見える化をどう生かすか検討を続けたい」
また、東京都は、災害が起きた場合、感染拡大を防ぎながら多くの避難所を確保するため、8月に被災者の住環境の支援を行うNPO法人と協定を結び、大規模な災害が発生した際に間仕切りなどを提供してもらうことにしています。
静岡大学の牛山素行教授は、自治体だけでなく、住民の側も、避難のあり方を考えておくことが必要だと指摘しています。