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“戦争の愚かさ” 語り継ぐ飛行学校

  • 2020年8月13日

埼玉県桶川市にあった旧陸軍の飛行学校。老朽化のため一時は取り壊しも検討されましたが、戦後75年の夏に特攻の歴史を語り継ぐ施設として生まれ変わりました。存続した背景には、飛行学校を通じて戦争の愚かさを伝えたいという女性の思いがありました。

特攻訓練も行われた旧陸軍飛行学校が平和祈念館に

今月オープンした「桶川飛行学校平和祈念館」。1500人以上の若者が操縦技術を学んだ旧陸軍の飛行学校を改修して作られました。飛行学校では終戦間際には特攻の訓練も行われ、ここで学んだ多くの若者が戦地で命を落としました。

祈念館には当時の航空兵が使っていたゴーグルや戦闘服などを展示。生徒たちが寝泊まりしていた寄宿室の様子も忠実に再現し、戦争の記憶を伝えています。

飛行学校を残し 戦争の愚かさを後世に

老朽化のため、一時は取り壊しが検討された飛行学校。施設を残すために奔走した臼田智子さんです。きっかけは、父親の伍井芳夫さんの存在でした。

臼田智子さん

飛行学校で教官を務めていた伍井さんは特攻隊として出撃し、32歳で命を落としました。出撃する4日前に、妻にあてた手紙が残されていました。

「至極元気なり。思い切ってやるぞ」

手紙には、出撃を恐れず死ぬことに迷いがないとつづられていました。
ところが、父親は次々と教え子が戦死していくことに責任を感じて、みずから特攻に志願したというのです。

父親の伍井芳夫さん

臼田智子さん
「教え子が戦争で亡くなる。やはりたまらなかったと思いますね。言い尽くせないほどの時代の残念さですかね」

臼田さんは、飛行学校を残すことで、多くの命が失われた戦争の愚かさを後世に伝えていきたいと考えるようになりました。

臼田智子さん
「多くの人が命を失ったという場所でもあることは確かですよね。そういう思い入れを皆さんが持っていただけたら2度と戦争が起きないのかなという思いもあります」

飛行学校を語り継ぐために

臼田さんは元航空兵や遺族たちと “飛行学校を語り継ぐ会” を結成。全国各地をまわって署名を呼びかけ、1万4000を超える賛同を得ました。署名の提出を受けて桶川市は取り壊しの方針を再検討。戦争遺跡としての価値を見直し、保存することを決めたのです。

建物の改修費用を補うため、市が活用したのが「ふるさと納税」です。返礼品は飛行学校の練習機をあしらったピンバッジなど。350件以上の寄付が寄せられ、1000万円余りが集まりました。
(※返礼品は終了)

桶川市市民生活部・関根訪さん
「なかなか桶川市だけで維持していくのは難しいので、寄付などを引き続き、続けていって活用できるように努めていきたい」

戦争のない幸せが続いてほしい

祈念館のオープン当日。臼田さんも祈念館を訪れました。館内には臼田さんの父親のコーナーも設けられていました。立ち止まって見入る人たちに臼田さんが声をかけます。

臼田さん
「教え子が戦地に行って亡くなってしまうんですね」
来館者
「壮絶なものを感じますよね」

 

臼田智子さん
「この場所を見て、戦争のことを少しでも知らない人たちが感じていただき、戦争のない幸せが、これからは未来まで続いてほしいという思いを私は持っていますし、そうあってほしいと思っています」

桶川市は、多くの人に訪れてもらいたいと、平和祈念館を無料で公開しています。

  • 古市 駿

    NHKさいたま

    古市 駿

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