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おんなの選択 認知症の人にアートを・林容子さん

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仕事と子育て
おんなの選択
ひるまえほっと
東京
2017年6月2日

左から、武内陶子アナウンサー、清水明花リポーター

(清水明花リポーター)
今回注目する女性は、アートマネージャーの林容子さんです。
アートマネージャーとは、アーティストが作った作品や芸術品を多くの人に見てもらえるように、展覧会やイベントなどを企画する方のことです。林さんは1990年代から国内外で活躍してきました。

最先端で大規模なアートプロジェクトを手がけてきた林さんがいま取り組んでいるのが、認知症の人やその家族に向けたアートプログラムです。
認知症によって家族となかなかコミュニケーションが取れなくなったり、感情を表に出すのが難しくなったりした方がこのプログラムを受けていると、いきいきとした表情を取り戻したり楽しくおしゃべりしたりできると、大きな反響を呼んでいます。
アートの新たな役割を模索する林さんの“おんなの選択”に迫ります。

■認知症の人とその家族が対象のアートプログラム

東京上野の国立西洋美術館です。
ここで、認知症の人とその家族を対象にしたアートプログラムが開かれました。

林さん
「本日は“アートリップ”、アートの旅へようこそお越しくださいました」

この日は5組の家族が参加。
参加している男性は全員、若年性認知症と診断されています。
これから林さんの案内で絵画を鑑賞します。

林さん
「最初の作品はこちらの作品になります。みなさまこの絵をじっと1分くらいご覧いただいて、何か自分の目に入ってきたものや、この絵には何が描かれているでしょうか?」

ただ絵を見るだけではありません。
林さんは絵に何が描かれているのかと参加者に問いかけていきます。

参加者「裸の女性が」
林さん「裸の女性が気になる? そりゃそうですよね。裸の女性、気になりますよね」
参加者「なかなかいい」
林さん「なかなかいいですか、あの女性は」

参加者「ちょっとほかの景色とミスマッチしているというか、現実的ではないなと」

参加者「あそこ(青い服)の男性の右側にいるのは、たぶんあれなのかな、悪魔かな」
林さん「どうして悪魔だと思いました?」
参加者「悪魔というか、ちょっと入れ知恵するとか」
林さん「入れ知恵をするね」

直前まで表情がなかった人たちも、林さんの問いかけで会話が広がっていきます。

こちらの男性は、12年前52歳の時に若年性認知症と診断されました。
プログラムが始まるまでは落ち着かない様子でしたが、プログラムが始まると、林さんの言葉に一生懸命耳を傾け始めます。

林さん「鳥はなぜお好きですか?」
参加者「好きというよりは、色がきれいだな」

表情が変わりましたね。

Q:体験していかがでしたか?
参加者「楽しかったです」
家族 「うれしそうにして、にこやかに“この色が好き”と絵を見ている夫を見て、私自身もふだんの疲れとか緩和されます」

別の参加者の家族
「家では同じことを何回も言って、ふつうの感じではないんですけれども。(プログラムに参加して)こんな感じで思いが伝えられるんだとか、表現がこんなにできるんだとか思いますね」

このプログラムは10年ほど前にアメリカで生まれました。
6年前、林さんが初めて日本に持ち込みました。

林さん
「私自身にとってアートの力を最も強く感じる現場、やり方はこれだと。認知症の方や家族にすばらしいインパクトを与えていけると。絵を見て対話するのはやったことがなかったから、おもしろいプログラムだと思いました。こんなことができるのかと、目からウロコでした」

■海外で学び、社会とアートをつなげる仕事を志す

林さんがアートに興味をもったのは小学生の頃。
美術品好きの母親に連れられ、頻繁に展覧会に行っていました。

大学では美術史を専攻。その後、名門コロンビア大学大学院に進学します。

そこで学んだのは、アーツ・アドミニストレーション。アート作品をどのように運営して利益や価値を生み出すかという、当時最先端の学問でした。

林さん
「こういうジャンルがあるんだと思って、芸術は作る人・研究する人・見る人だけじゃなくて、アーティストが製作したものを社会で生かしていく、つなげる、社会とアートをつなげる仕事があるんだと発見して、『これだ!』と思いました」

■ “現代アートの伝道師” と呼ばれる存在に

30歳で帰国後、日本でアートイベントを始めます。
まず取り組んだのは、街の中にアートを展示する“パブリックアート”。
“生活の中でアートを楽しむ”という提案です。

林さん
「ビルボード(広告看板)が10枚、2段にだ~っとここら辺まであったんですよ」

六本木の広告板に設置した海外アーティストの作品です。貼り付けられているのは、たくさんの閉じた目。無数の広告やネオンが氾濫する雑然とした景観に対して、“見たくない”というメッセージを発信しています。

ほかにもさまざまなプロジェクトを手がけます。
風を受けて回る彫刻をモンゴルやブラジル、フィンランドなど、世界6か国に設置するプロジェクト。

横浜港には巨大な立方体を設置。
太陽光やレーザー光線で色が変わり、まるで宇宙船のようだと話題になりました。
林さんは、“現代アートの伝道師”とまでいわれるようになったのです。

■入院がきっかけでアートの新たな役割を発見

華やかな成功、しかし林さんは次第に疑問を抱くようになります。
規模が大きい展示は注目が集まる一方、“人の生活を豊かにするアートにはなっていないのではないか”と感じていたのです。
そして多忙を極める中、林さんは体調を崩し入院。

そのとき病室に持ち込んだ1枚の作品。この絵が運命を変えます。
林さんの部屋におもしろい絵があると聞きつけ、お医者さんや他の患者さんも集まってくるようになりました。
アートの新たな役割を発見したのです。

林さん
「どうしても病気のことを考えてしまいがちですが、作品があることによって、一瞬病院にいることを忘れることができるんじゃないかなと思いました」

当時海外では当たり前になっていた医療施設の中でのアート展示。これを日本の施設でも広めたいと考えました。

美大生とともに病院や介護施設にアート作品を設置する活動を開始。施設の人からも好評で、8年間続きました。

しかし、大きな挫折を味わいます。林さんがいくらアートを広める活動をしても、他の施設へ普及していなかったのです。

林さん
「このままこれをずっと続けていて、私がやめたときに終わりになるんだなと思いまして、ずっとこのまま続けるのは意味があるんだろうかと思ったんです」

■再び旅立ったアメリカで運命の出会いが

アートと社会をどうつなげていくか迷っていた林さんは、一から学び直そうと再びアメリカへ旅立ちます。
そこには運命の出会いが待っていました。

ニューヨーク近代美術館(MoMA)で行われていた認知症の人のための絵画ツアーです。アートを見て楽しそうに会話をする認知症の人たち。林さんは胸が熱くなったといいます。

林さん
「目からウロコで、こんなことができるんだ、ありえるんだという感動で涙が止まらなかった。日本全国の美術館で、その地域の認知症の方とご家族の方、介護士の方たちが参加して、アートと対話できたらどれだけすてきだろうと、夢を見ちゃったんですね」

これこそがやりたかったことだと、林さんはMoMAに直接交渉。日本でも実施したいと訴えます。
しかし、簡単には許可は下りません。プログラムはMoMAが独自に開発したもの。これまでアメリカ以外で実施されたことはなく、遠く離れた日本での実施は無理だと判断されたのです。

しかし、林さんは何度もアメリカに通います。プログラムのトレーニングを受け、マニュアルの翻訳も自分が担当すると約束。熱意はMoMAに伝わっていきました。
最初の交渉からおよそ2年、ようやく許可が下りたのです。

■長い道のりを乗り越え念願の日本初開催

さあいよいよ、と思った矢先に今度は日本で苦戦。実施させてくれる美術館がなかなか見つからなかったのです。
そんな中、理解を示してくれたのが、東京にあるブリヂストン美術館の学芸員・貝塚健さんでした。

貝塚さん
「美術館の役割はさまざまにあると思います。社会の中での存在価値を常に考えて、問い直さなくてはいけないという使命があります。林さんから話をいただいたとき、“美術館は何ができるのか”と問いかけられた気がしまして」

林さん「この絵の中でどんなところ、何が見えますか?」
参加者「月夜の夜」

念願の日本初開催。長い道のりを乗り越え、ついに実現させました。
このプログラムは大成功。参加者やその家族からたくさんの感謝の声が寄せられました。

林さん
「今まで長いこと、スペクタクル(壮大)なアートや、(六本木の)交差点もやってきたけれど、“生きる張り合いになる”と言われたことは無かったんですよ。“おもしろかった”とか“びっくりした”とか“すてき”とかはあるけれども、“生きる張り合いになる”と言っていただいて、非常に興奮しましたよね」

■進行役を育成し全国の美術館や高齢者施設へ

社会とアートをつなぐ。
夢の実現に向け、林さんはいま次なる一歩を踏み出しています。

「この絵の中でいちばん目を引くのはなんでしょう?」

プログラムの進行役の育成です。プログラムを実施できる人が増えれば、いままでより多くの認知症の人に利用してもらえると考えたからです。
どんな質問をすれば1枚の絵からコミュニケーションが広がるのか、アメリカで学んだ技術を教えています。

参加者「魚河岸があったんじゃないの?」
進行役「日本橋のすぐ横は、とれたての魚が毎朝揚がる魚河岸」

これまで40人ほどが進行役になり、全国の美術館や高齢者施設で活動しています。

林さん
「ご家族と認知症の方との間に起こる変化の目撃者になれる、この感動で今はいっぱいです。(認知症のプログラムは)アメリカの全土で100館以上(の美術館)でやっていますから、そういうふうに1日も早くなれるように、今はそこに集中しています」

■研究機関とともに認知症への効果を検証

(武内アナウンサー)
アートで対話をしていって、その人を引き出すという新しいプログラム、現代アートの伝道師と呼ばれた林さんがここに行き着いているということに心が震える思いですね。

(清水リポーター)
林さんのアートへの情熱で、MoMAのアメリカ限定のプログラムを日本に持ち込むことができました。
この行動がきっかけで、今は世界10か国以上でアートプログラムが実施されているんです。林さんのもとには、台湾やシンガポールの美術館の人も相談にきていて、実際に台湾では行われ始めているそうです。

(武内アナウンサー)
林さんだけで終わらないで、どんどん世界に広がっているというのがすばらしいですね。

(清水リポーター)
林さんは、アートの鑑賞と高齢者への効果を国立長寿医療研究センターとともに検証しています。報告書では、“認知症の危険因子であるうつ状態の改善にアートプログラムの効果が確認された”と報告されました。長期間にわたっての調査がのぞましいとのことで、これら林さんは調査を続けていきたいということでした。
林さんは6年間この活動を続けていて、日本では10か所の美術館で行われるようになってきています。

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