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コロナ禍でどうする帰宅困難者

  • 2023年3月8日

東日本大震災から12年です。首都圏で課題になっている一つが帰宅困難者の問題です。今年1月に新宿の大規模受け入れ施設でコロナ禍に応じた訓練が行われました。そこでは密にならない誘導など様々な課題が。コロナ禍の帰宅困難者について取材し、どう行動すればいいか考えていきます。

帰宅困難者向け受け入れ訓練

東京・新宿区にある超高層オフィスビル。およそ80社のオフィス、20店舗ほどの商業施設が入り、およそ1万人が利用しています。災害時には、帰宅困難者をおよそ3000人受け入れる場所として登録されています。

この場所で、帰宅困難者向けの受け入れ訓練が行われました。新宿区やビルの所有会社などでつくる協議会が主催し、このビルで働く人や周辺に暮らす人、およそ70人が参加しました。

目的は、2つ。
①「帰宅困難者のおかれる状況を、我が事のように考えてもらうこと」
②「コロナ禍での受け入れを確認すること」
です。

帰宅困難者の状況を体感する工夫

訓練の監修をしたのは帰宅困難者の避難を研究している工学院大学の久田嘉章(ひさだ・よしあき)教授です。

久田教授
「首都直下地震が、心配されていますのでもし起こった場合にはしばらく電車公共機関が止まって帰れなくなってしまう人たちが、たくさん現れます」

今回の訓練の想定は、首都直下地震。鉄道はすべて運休し、ガス、水道は止まっていることになっています。

訓練の参加者は、帰宅困難者を受け入れる施設の誘導役と、帰宅困難者役にランダムで分けられます。災害時には、帰宅困難者でも受け入れ施設をサポートするために、誘導役になることも想定されるからです。帰宅困難者役は、高齢者、妊婦、外国人、体調不良の役など細かな設定がされています。

母親役になった場合には、決められた時間に、「赤ちゃんのミルクを、作りたいんですけど、どこかお湯がありませんか」と助けを求めるセリフを言うことになっています。

災害は、いつどこで起こるばかりかライフステージの、どの年齢で起こるか、わかりません。設定を細かくすることで、想像力を膨らませてもらうのが狙いです。

いざ、訓練がスタート。まず受け付けで、実際に被災した時と同じように名前などを記入。食料を受け取って、避難場所に移動します。

そして、帰宅困難者役は、設定にしたがって役割を演じ始めます。言葉がわからないという外国人役の人が不安を感じて、状況を知りたいと受付にやってきました。すると…英語が話せる役という人が声をかけ、会場の案内役の人が話す内容を通訳して外国人役の人を安心させました。

参加した外国人役は「日本語で話しかけられても全然分からず不安になると思う。当事者の気持ちになれた」、通訳役の女性は「自分はあまりできないかもしれないと思って助けないよりは、できなくても声をかけてみることが大事だとわかった」と話していました。

車いすを使う高齢者役で参加した人は「配慮がもう少しあった方がよかった。付き添いの人はずっと立って待っていたので椅子が必要だとか、具体的な課題が見えてよかった」

妊婦役の人は、おなかの重さを体感できる器具を付けて参加。「妊婦さんだとおなかが大きく、混み合うと足元も見えなかったりするので、かなり危険を感じた。一緒に歩くなど、困ってるかなと思う時にお声がけしたい」

受け入れ施設の誘導役として参加した人は、「受け入れ側も被災者。帰宅者困難者はお客さんではない、受け入れ施設にわがままをいうのはよそうと気づいた」と運営する困難さを感じたといいます。

久田教授
「どうしても人手は足りなくなる。そんな中で余力のある人同士助け合って、乗り切ることが大事」それぞれの当事者意識を持つことで、災害時に率先して助け合う、共助の気持ちをもって欲しい」

コロナ禍での受け入れを確認

今回の訓練で重要視したのが「コロナ禍」での対策です。入口には消毒液を準備し、帰宅困難者のスペースは、従来の1シート10人から6人に減らして、間隔をあけるようにしました。

さらに…負傷者用のスペースだけでなく、発熱などがあり、感染が疑われる人のための隔離スペースも設け、入れる人も4人まで減らしました。

しかし…想定外のことが。
入り口付近には、行列が発生し密となってしまったのです。そこで、急遽テーブルを増やして対応することになりました。

避難所に入るにあたり、体調などを書き込むため、想定よりも受付に時間がかかったといいます。実際の災害時には、より一層密になることが予測できました。

ビル所長の小林哲夫さんは「ここまで本格的な訓練は初めてだったので、難しさを感じた。今後、さらに訓練を重ねていかなければいけない」といいます。

受け入れ施設の確認システム

今回の訓練では、コロナ禍を考慮して1シートの間隔を広げて定員数を減らすなどの影響で、2850人の受け入れ数を、4割ほど減らさざるを得ないこともわかりました。
こうしたことは、どの受け入れ施設でも起こりうることで、一つの施設に人が集中しない対策が必要となっています。

この課題を解決しようという取り組みが始まっています。災害発生時の避難のあり方を研究している
工学院大学の村上正浩(むらかみ・まさひろ)教授です。

新宿駅界隈の帰宅困難者を受け入れる施設がどこにあるか探すことができるシステムを開発中。受け入れられる区民センターなどの行政機関や企業などが示されます。受け入れ状況もわかり、スムーズに避難できるようになっています。一か所に集中せずに分散させる狙いもあります。

またどの場所でなら、ガスや電気などのライフラインがあるかわかるようになっています。さらに、実際に災害が発生したら、どの施設が安全で受け入れ可能か、電気や水道が使えるかなどの最新の状況がわかるようにもなっています。

村上教授
「自主的にどの施設が受け入れ可能かを判断をして、移動できることが、このシステムの一番のポイント。現在は新宿エリアで実験的に運用しているが、将来的には全国の都市に広めていきたい」

群衆雪崩に巻き込まれないように

では実際に、私たちが帰宅困難者になったらどう行動すればいいのでしょうか。
キーワードは「あなたのために、帰らない」
これは東京都が作成しているポスターですが、「あなた自身が、群衆雪崩に巻き込まれないために帰らない」というメッセージです。

群衆雪崩とは、人が密集した時に、1人が倒れることで周りが雪崩を打つように転倒してしまうことです。災害時の首都圏でも、この群衆雪崩が起こる危険性があると、東京大学大学院の廣井悠(ひろい・ゆう)准教授は指摘します。

こちらは4年前の渋谷のハロウィーンの様子です。1㎡あたりに6人以上いる「超過密状態」といって、群衆雪崩が起こる可能性がある状況です。

廣井教授が作成した危険度をあらわしたマップです。この紫の線の部分は、首都直下地震が起こった際に、超過密状態になる危険があり、新宿や渋谷、赤坂など、都内に30か所以上あるといいます。

廣井教授
「大都市で一気に人が動くと、群衆雪崩のリスクがある。『帰らない』ことが我々にできること。自分の命、助けられるはずの命を助けられない、つまり、消防車・救急車などの活動を阻害することのないように、『帰らない』をきちんと徹底することが重要」

とはいえ、家族のことが心配になるなど、帰らないことを徹底することは心情的な難しさがあるといいます。ただ、一旦冷静になって、まずは「様子を見るため立ち止まる」「状況をまず把握する」などして、一斉に帰宅して人が密集する状況を避けてほしいということです。

 

【編集後記】
災害発生時には、避難する人が、けがなどがなく安全が確保できていれば、他の避難する人を助けることも必要になります。取材を通して「受け入れる側の立場になって考えることの重要性」を実感しました。群衆雪崩の危険性から「帰らない」ことを徹底する一方で、日ごろから「滞在できる施設がどこにあるか、どう対応するか」自分事として考えておく必要があると実感しました。

小村美記リポーター

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