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伊集院静・山﨑努・河﨑秋子・佐々涼子 中江有里書評“信念の人”

  • 2023年1月11日

伊集院静がつづる愛犬との日々。
日本の移民難民問題を10年追ったノンフィクション。
実存する感染症に立ち向かう研究員と地元の人たちの物語。
山﨑努、自身の演技論・俳優論が育まれた半生。
新年に、信念がある生きかたを!素敵な人たちに出会える4冊をご紹介。

【番組で紹介した本】

『君のいた時間 大人の流儀Special』
著者:伊集院 静
出版社:講談社

Yuri’s Point
愛していたペットを亡くした著者が「君」がいた日々をつづったエッセイ集。愛犬「ノボ」を語るとき、ほんの少しそっけなく毒もあるのに、深い愛が感じられる。父の教えや母の優しさ、妻とともに看取った犬たち…飼い主は犬にとって絶対的存在である一方、飼い主である著者にとってノボは子ども時代へ導いていく存在、そんな風に感じた。遠く離れているときほど自宅のノボの様子が気になってしまう。人間の6倍の速さで生きて亡くなる犬。「別れることも生きた証」。ペットロスの方だけでなく、大切な誰かを亡くした人にも共感を呼ぶ一冊。

『ボーダー 移民と難民』
著者:佐々 涼子
出版社:集英社インターナショナル

Yuri’s Point
日本への移民・難民の問題について、構想から約10年かけて追ったノンフィクション。
かつて日本語教師として在留外国人と接してきた著者は、難民問題に取り組む弁護士・児玉晃一氏への取材を通して、日本で難民として認められない人々が収容される出入国在留管理庁、通称「入管」の実態と、放免された外国人の現状をつづる。日本の難民の認定率は低い一方、技能実習生として働きに来た外国人は在留期間が限られているため受け入れられている。しかし待遇や賃金の問題でこれからの日本は働き口として選ばれない未来を予測している。人間の心の奥に潜む境界(ボーダー)を浮き彫りにする一冊。

『清浄島』
著者:河﨑 秋子
出版社:双葉社

北海道礼文島でかつて実際に起きた謎の感染症「エキノコックス症」と闘った研究者と、島民をモチーフに描いた小説。昭和29年、北海道立衛生研究所の研究員である主人公は単身礼文島に渡り、感染症の原因究明と撲滅に向けて動き出す。島民との交流が生まれる一方で、更なる流行拡大を防ぐためにある苦しい決断を迫られる…。

Yuri’s Point
私たちが経験した新型コロナウイルスのように、未知の病に遭遇した時の人々の行動や心理とはこういうものかということが描かれている。未知の病気に対する人間の恐怖は、簡単に差別を生む。
私たちは、専門家は最初から何でも知っていると勘違いしがちだが、専門家も同時に未知の病との戦いをスタートさせている。月日が経ち研究が進み治療法が確立することで、少しずつ怖い病気ではなくなっていく。
これからも、新しい病気は次々生まれるだろう。人間も動物も、寄生虫やウイルスといった生命体も、同じ地球に共に生きているということを認識しておくことが重要だと思う。

『「俳優」の肩ごしに』
著者:山﨑 努
出版社:日本経済新聞出版

俳優、山﨑努さんによる自伝。貧しかった少年期から養成所時代を経て、俳優として成長していく過程を、自身の演技論、俳優論と重ねる形でつづっている。

Yuri’s Point
ご自身のことなのに俯瞰から眺めるように書いているので、自伝でありながら「ツトムくん」が「ツトムくん」について書いた評伝のようにも感じた。
子どもの頃、終戦によって戦地から引き揚げてきた父を全速力で走って迎えたツトムくん。それを自身で「おれ、おしばいしてるな」と感じたというエピソードが印象的。日常生活の中で、私たちも無意識に芝居をしている。そうすることで他人との調和がとれている。山﨑さんはそれを、子供の頃から本質的に知っていた人だと思う。

 

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【案内人】
☆女優・作家・歌手 中江有里さん

1973年大阪生まれ。1989年芸能界デビュー。
数多くのTVドラマ、映画に出演。02年「納豆ウドン」で第23回「NHK大阪ラジオドラマ脚本懸賞」で最高賞受賞。NHK-BS『週刊ブックレビュー』で長年司会を務めた。NHK朝の連続テレビ小説『走らんか!』ヒロイン、映画『学校』、『風の歌が聴きたい』などに出演。
近著に『万葉と沙羅』(文藝春秋)、『残りものには、過去がある』(新潮文庫)、『水の月』(潮出版社)など。
文化庁文化審議会委員。2019年より歌手活動再開。

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