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松任谷由実を描く『小説ユーミン』ほか 中江有里ブックレビュー

  • 2022年12月5日

今回のテーマは「ルーツをたどって」。
物事にはすべてルーツがあります。
突然生まれたかのように見えるものでも、実は何かの流れを汲んでいたり、きっかけがあったり・・・。長い歴史からみると一瞬にも思える私たちの人生もさまざまなことがあり、今があります。そんなことが感じられる4冊をご紹介します。

【番組で紹介した本】

『この父ありて 娘たちの歳月』
著者:梯久美子
出版社:文藝春秋

Yuri’s Point
娘は父からどのような影響を受けたのか。
ノンフィクション作家の梯久美子さんが9人の女性たちの貴重な証言と資料から、父娘が歩んだ物語を記しました。
修道女の渡辺和子さんは9歳の時に2.26事件で襲撃された父・渡辺錠太郎教育総監が絶命する様子を物陰から目撃しました。その時の心情とは。父との日々を書くことが9人の女性に運命づけられたものだったのかもしれない。貴重な証言が胸に残ります。

『大人だって、泣いたらいいよ 紫原さんのお悩み相談室』
著者:紫原明子
絵:わかる
出版社:朝日出版社

Yuri’s Point
お悩み相談は数ありますが、本書の読みどころは回答者である紫原さんのキャラクター。真面目で親切で実践的に、お悩みにこたえていきます。相談者を否定せず、共感を持って接する姿勢と、選ばれた言葉に頷かされました。恋愛、結婚、離職、転職など個人の問題はなかなかこれという解決法がなく、落としどころも見つかりませんが、時に優しく背を押し、あるいは引き留める言葉が、本当の自分の心に気づかせてくれるきっかけになりそう。
経験を重ねた悩み多き大人だからこそ、響く一冊です。

『すべてのことはメッセージ 小説ユーミン』
著者:山内マリコ
出版社:マガジンハウス

今年デビュー50周年を迎えたシンガーソングライター、ユーミンこと松任谷由実の少女時代を描いた小説です。
八王子の裕福な呉服店に生まれ、ピアノに触れ、古典芸能の清元を学び、ミッション系の女子校に入学。
グループサウンズが一斉を風靡するなか、由実は、高度経済成長期の東京を、好奇心いっぱいに回遊しはじめます。
きらめく才能はいかにして世に出たのか…デビューまでの軌跡を描いた物語です。

Yuri’s Point
松任谷由実さんは、17才で作曲家デビューし、人生のほどんどをユーミンとして生きてきました。
何者でもなかった荒井由実時代はごく初期のことですが、その時代が今のユーミンの土台を作っています。
感性の鋭い若い頃にどんなものと出会うかはその先の生き方を決める。この本はそこをていねいに描いています。
並行して描かれているのが、日本の音楽史と当時の女性としての生き方です。一人の女の子がいかにして世に出たのかという視点で読んでも面白いので、ファンの方はもちろん、そうでない方も楽しめる作品だと思います。

『言葉の周圏分布考』
著者:松本修
出版社:集英社インターナショナル

方言の全国市町村アンケートをもとに、数多くの言葉の分布図を作成し、日本語の伝播の歴史と背景にあるストーリーを考察しています。知的興奮とともに、ふるさとの言葉のなつかしさを味わえる一冊です。

Yuri’s Point
言葉は生活と密接に関わっています。例えばおにぎりの分布図を見ると、「ヤキメシ」という地域があります。関西でヤキメシと言ったらチャーハンのこと。でも、歴史を辿っていくと、おにぎりというのは味噌(みそ)をつけて焼いて食べるものだった地域があるのです。言葉だけでなく、おにぎりは形も地域によって違い、関西では俵型のおにぎりが一般的でした。三角形のを食べたのは東京に来てからかも?そんな風に自分の記憶を辿ったり、色んな地域出身者と分布図を見ながら話すのも楽しい、会話のきっかけになる本です。

 

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【案内人】
☆女優・作家・歌手 中江有里さん

1973年大阪生まれ。1989年芸能界デビュー。
数多くのTVドラマ、映画に出演。02年「納豆ウドン」で第23回「NHK大阪ラジオドラマ脚本懸賞」で最高賞受賞。NHK-BS『週刊ブックレビュー』で長年司会を務めた。NHK朝の連続テレビ小説『走らんか!』ヒロイン、映画『学校』、『風の歌が聴きたい』などに出演。
近著に『万葉と沙羅』(文藝春秋)、『残りものには、過去がある』(新潮文庫)、『水の月』(潮出版社)など。
文化庁文化審議会委員。2019年より歌手活動再開。

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