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吟行(ぎんこう)秋を詠む ~正岡子規ゆかりの地で~

  • 2021年9月27日

家のお庭でも、近所に散歩したときでも手軽にできる俳句の楽しみ方「吟行」。
吟行は外を散策しながら、俳句の種を探して、句をつくって楽しむもの。
若手俳人の神野紗希さんに吟行・俳句づくりのポイントを教えてもらいながら、正岡子規ゆかりの地を巡ります。

吟行の魅力

▼季節の変化を直接知り、風や気温など、手触りを確かめることでフレッシュな俳句ができる。

▼松尾芭蕉の奥の細道も、全国を巡る長い旅、まさに吟行の旅。カメラのシャッターを押すように、風景を切り取ることのできる俳句は言葉のアルバムになる。

▼今はコロナ禍で、特別な場所に行きにくいですが、自宅周辺、近くのスーパーに出かけるときなど、どんな場所でも吟行はできる。

子規が暮らした地で一句:子規庵

歳時記とアプリを活用して自分の季語を見つけよう

子規庵

まず訪れたのは、東京台東区にある子規庵。子規が26歳のときから家族と暮らした場所です。
建物は太平洋戦争の空襲で焼失しましたが、子規の弟子たちによって再建されました。

正岡子規は、明治22年、21歳のとき病に倒れます。当時は不治の病の結核でした。それでも創作活動を続け、2万を超える俳句を残し34歳の若さで亡くなりました。寝たきりだった子規が眺めていたであろう景色を、今わたしたちも、見ることができます。

ガラス越しに見える、糸瓜(へちま)棚。子規は親しみを込めて「へちま殿」と呼んでいました。
亡くなる前の日にも、へちまを題材に句を詠んだといいます。

糸瓜(へちま)咲(さい)て痰(たん)のつまりし佛(ほとけ)かな

子規も詠んだこの場所で俳句に挑戦です。
子規が大好きだったという庭に出てみました。庭には夏の季語の「くも」がいたり、話していると「アゲハ蝶」がとんできたり、さまざまな生き物と出会いました。スマホの画面を植物にかざすと名前を教えてくれるアプリも使い、句をつくっていきます。

子規庵で見た景色からどんな俳句を思いついたんでしょうか。
 

古谷アナ

眼に刺さる 瓦ガラス戸 ふよう殿

神野さんひとこと
とてもにぎやかでいいですね、実感がしっかりこもっていて、ふよう殿というところも、ふようの花へ心を近づけているのが分かります。
俳句だと見えているものを詠むというのが基本なので、例えば「眼に刺さる」を「子規庵の」というふうに情報を入れて「子規庵の 瓦ガラス戸 ふよう殿」にすると、来ていない人にも、秋の子規庵の光が見えてくるようなとっても素敵な句になると思います。

高橋リポーター

黄色の葉 カレー食べたい 秋の夜

神野さんひとこと
とても面白い発想。黄色の葉っぱからカレーが食べたいという飛躍、ここにちゃんと高橋(※高はハシゴダカ)さんの個性が出ていていいと思います。一点直すなら、秋の夜という季語が、夜に黄色の葉って少し見えにくいかなという感じがするので、秋の昼にしてもいいと思います。

神野さん

 

揚羽(あげは)ふわり 子規さんと呼ぶ 親しさに

神野さんひとこと
庭を歩いていて、くもがいたりとんぼがいたりおしゃべりしているときに、糸瓜棚にふわっとアゲハが来てくれましたよね、子規さんも、「僕も入るよ」って来てくれたみたいな感じがして…
その子規さんの親しさを一句にしてみました。

子規も食べた団子屋さんにて一句:老舗の団子屋さん

季語を設定、食べ物は五感フル回転で詠んでみよう

子規の妹が買いに来ていたという団子

続いて向かったのは、子規庵から歩いておよそ5分のところにあるお団子(だんご)屋さん。江戸時代から続く老舗で、子規もこちらのお団子を食べていたといいます。
子規ゆかりのお店ということで、店内には「俳句ポスト」があり投句できるんです。俳句の都、松山市が設置しているもので、3か月に一回選句されます。

ここでは月の綺麗な季節なので「月見だんご」をお題に俳句をつくります。
お団子をいただいて俳句をつくるので、五感を働かせ、どんなにおいかな、どんな色かな、どんな味かなというのを上手に拾ってつくってみましょう。
 

古谷アナ

指先の みたらしなめとる 炎天下

神野さんひとこと
なめとるという表現が生々しくていいと思います、俳句はできるだけ生々しいほうが、美しくしすぎないほうがいい。生きている実感がそこに宿りますから。
中八(なかはち)といって、真ん中が8音になっているのがちょっと気になるので、「炎天」から始めて「炎天の 指のみたらし なめとりぬ」というふうにやるという手もあります。

神野さん

俳人や 月見団子の 焦げが好き

神野さんひとこと
俳句をする人はちょっと面白いところに目をつけたり、少し欠けたものとかそういうものが好きなんですね。ここも焼団子に焦げ目がついているのがすごくおいしくて、その焦げのところがきっと正岡子規さんも好きだったんじゃないかと、焦げのところに注目するのが俳句的な発想かもしれないなと思って詠みました。

子規ゆかりの神社:元三島神社

テーマから連想して詠んでみよう

元三島神社

最後に向かったのは、鶯谷駅からすぐのところにある元三島神社です。
こちらも子規と関わりが深い神社で、子規が詠んだ句の石碑がたてられています。

俳句を詠む前に参拝、まず手水舎で手を清めます。コロナ禍でも、お参りにきた人に少しでも楽しんでもらおうと菊などの花を浮かべているそうです。

子規ゆかりの地を巡った、秋の吟行。しめの一句のテーマは「祈り」
一日のできごと、ここで感じたこと、それぞれの思いを句にこめます。
 

古谷アナ

祈る手の 汗のにじみや 三島前

神野さんひとこと
「汗のにじみ」というところに、多くを語らずとも真剣に祈る思いがぎゅっと凝縮されていて、まさに五感ですよね。手の汗の感触を核にして、「や」という「切れ字」は、その前にくるものをぐっと強調しますから、汗のにじみというのがこの句で一番大事なところだということを、古谷さんは分かって推してらっしゃる、とってもいい句だと思います、直すところありません。

高橋リポーター

重陽の 花に託すや 手を合わせ

神野さんひとこと
重陽は9月9日の節句。一年の節句のひとつ。特に年を重ねた人のことを思う日です。重陽は菊の節句ともいうので、手水舎の菊のことをイメージされたんですよね。手を合わせという行動に祈りが重なっていてとてもいいと思います。しいていうなら「託す」のところが少し思いが前に出過ぎているので、例えば「重陽の 花の白さや 手を合わせ」とか、色彩のイメージを五感でひとつ入れてあげると、「白」という色に祈りの気持ちがより純粋に表現できるかもしれません。

神野さん

 

咳(せき)こめる 君の窓辺に 鶫(つぐみ)来よ

神野さんひとこと
いま新型コロナウイルスが非常に流行していて、自宅療養を余儀なくされている方もたくさんいらっしゃって、ひとりで耐えていらっしゃる方もたくさんいると、できるだけみんな無事でなんとか日常を取り戻してほしいなと思って、ひとりで耐えている人のところに、「鶫は秋の季語」秋の小鳥なんですけれど、どうか幸せが、回復するという兆しが、届いてほしいなという気持ちを込めて詠んでみました。


◆出演者紹介

神野紗希(こうの・さき)さん

愛媛県松山市出身。
現代俳句協会・副幹事長。NHK文化センター青山・町田講師。
大学にて俳句や文章の講座を複数受け持つ。BS俳句王国司会など番組出演多数。

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