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「人柄が見える」 千葉市のシェア型書店

  • 2024年01月19日

千葉市稲毛区の住宅街に昨年10月にオープンした小さな書店。
わずか2.5坪の店内には区分けされた本棚にびっしりと本が並べられています。ここは棚ごとに違う店主がいる「シェア型書店」です。
運営する女性の狙いと、個性的な出店者たちを取材しました。

(千葉局/カメラマン 笹原怜奈)

棚主(たなぬし)」と呼ばれる棚のオーナーは、この地域にある中小企業の社長や、翻訳家、学生などバックグラウンドがさまざま。月々1500円の棚貸し料で、およそ縦30センチ×横40センチ×奥行き30センチのスペースを自由に使い、好きな値段をつけて本を売ることができます。新刊や古本、自作の同人誌などジャンルや種類は棚主が決めた本が並べられています。

このシェア型書店を運営する中村千昌さんです。
地元の中小企業の採用支援など行う仕事をしながら書店を開きました。その狙いを聞くと・・・

中村千昌さん

「自分の生活エリアにどんな会社があって、どんな人が働いているかを知らない人が多いと思ったのが始まりです。
本はやっぱりその人の考え方とか価値観が思いっきりでる媒体だと思うので、選んだ本をみて棚主さんがどういう人かなと考えてもらいたいです。
本を通して地域の人にお互いに興味を持ってもらいたいです」。


いまでは25人が棚主としてそれぞれいろんな目的やを思いを抱いて本を並べています。

自分が好きなものや伝えたいことをテーマに、毎月違う本を選んで並べている棚主でフリーライターの相良伸彦さんです。ふだんから本に携わる仕事をしていますが、シェア型書店に出店してみたいと以前から思っていたそうです。自分のおすすめの本を誰かに伝えたり、共有したりできる魅力に加えて本棚を通して自己表現ができると言います。

1月は“縄文”がテーマ
棚主の相良伸彦さん

「自分の好きなものやマイブームを他の人にも広めたい気持ちはみんなあるんじゃないかなと思う。選んだ本をまとめて置くだけで自分の頭の中が目に見える形で表現できたような気持ちになるのが楽しいです」。


少し年季が入った本が並ぶこちらの棚。棚主は亡き夫が残した本を置いている73歳の岩橋百合さんです。2016年に亡くなった裕則さんは多趣味で、個性が読む本にも表れていたそうです。都内までの通勤電車でいつも本を読んでいたそうで、残された本の数は膨大でした。

2016年に亡くなった裕則さんの本がたくさん

百合さんは大量の本を寄贈したり処分したりしてきたそうですが、夫の雰囲気が残る本はどうしても捨てられずにいました。それでも家に置いておくよりはシェア型書店で新しい持ち主の手に渡ってほしいと思うようになりました。

棚主の岩橋百合さん

「私が明日突然死ぬと全部ゴミになるわけじゃないですか。
それだったら少しでも読んでくれる人のところにいった方がいいですね。
割と変わった本が多くて、価値があるものだと思うから楽しく眺めてくれる人がいればいいわよね」。


12月に新しく追加された棚

こちらには塾を経営する横田真一さんが選んだ本が並びます。本に囲まれて育ったという横田さん、塾でも生徒たちに気軽に読んでほしいと500冊以上の本をそろえています。

日ごろから生徒たちにも本をおすすめして、本を通してメッセージを伝えてきたと言います。
講師の仕事を続けるなかで、忘れられない体験があります。

棚主の横田真一さん

「29歳くらいになった卒業生から、あのころの本をいまになって読みましたと連絡がきて、心に届くまで何年かかったのって思いましたけど、思い出してわざわざ連絡をくれたことがうれしいですね」。

自分が好きな本を誰かが手に取ってくれる喜びや、本を通して交流ができる喜び。自分の生徒だけでなく地域の人たちとも本を介したつながりが持ちたいと、このシェア型書店に期待を寄せています。

棚主の横田真一さん

「最終的に誰の手に渡るかわからないですけど、そこでまたその人の人生がちょっと変わったり、潤ったりするのがおもしろいなと思います。
お名前は分からないにしてもどういった方が買っていってくれたかが伝わってくるので、やりがいや満足感がありますね」。


たまたま通りがかって立ち寄った人や、事前にSNSで知って訪れた人など様々な利用客がいました。お店に入った人たちは、じっくり棚を眺めて本を手に取っていました。

利用客

「人柄が見えて人に会いに来ている感じがします」。

利用客

「人の家の本棚をのぞいているっていう感じがして、すごく面白いなって思いました」。

初めて開催された棚主交流会

そして書店のオープンから2か月のタイミングで、初めて棚主たちの交流会が行われました。自己紹介はもちろん好きな本の発表で、棚主たちはいきいきと話し合っていました。この書店から本を介したコミュニティーがさらに広がってほしいと中村さんは考えています。

中村千昌さん

「直接面識がなくても、一生会うことがなくても、本を通じてどこかで触れ合っているイメージで、目指しているのは営み交差点です。
人々の日々の営みがこのお店で本を通じて交わっていくような場所にできたらいいなと思います」。

  • 笹原怜奈

    千葉放送局

    笹原怜奈

    大阪局、鹿児島局を経て昨年夏から千葉局。
    今年こそはたくさん本を読みたい!と、毎年抱負を立てています。

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