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千葉の鮮魚を台湾へ “輸入規制”撤廃なるか 熊谷知事 台湾訪問の成果は?

  • 2023年11月21日

朝、銚子漁港で水揚げされた鮮魚。成田空港を経て、その日のうちに生のまま海外の各地に届けられ、刺身やすしとして提供されています。

しかし、東アジアの主な輸出先では、原発事故や処理水の放出によって水産物の輸入規制が続いています。こうした中で、千葉県の熊谷知事は日本の水産物の輸出先4位・台湾を訪問しました。

現場では規制がどのような影響を及ぼしているのか、規制の現状と、撤廃を求める新たな動きをお伝えします。

(千葉放送局記者・渡辺佑捺)

台湾で人気!日本の鮮魚

台湾・台北の中心地にあるすし店。正午にランチ営業が始まると、座席はすぐ満席になりました。

鮨「野」(台北)

店を切り盛りしているのは東京・銀座などのすし店で修行を積んだ、佐藤隆治さんです。10年前からここで板長を勤めています。

佐藤隆治さん(左)
佐藤さん

日本で水揚げされた新鮮な魚介類を提供するのが、うちの店の売りです。

きょうのマグロは青森サワラは三重ノドグロは福井のものです。

旧知の業者を通じて日本の新鮮な魚介類を注文。週に2回、日本から台湾に届けられます。

佐藤さん

日本の四季に合わせて、その時期に1番おいしいものを、1番おいしい産地から仕入れるようにしています。

日本の魚はどこの市場でも厳選したものが売られていて、脂のりも鮮度も質もいいので、かなり人気があります

台湾では一般的にまぐろ・サーモンが好まれますが、うちではサバなど光り物が人気です。

しかし、佐藤さんの店では扱っていない魚介類があります。台湾が輸入に規制をかけている千葉、茨城、福島などで水揚げされたものです。

台湾への輸入規制とは?

台湾は、2011年の福島第一原発の事故のあと10年以上にわたり、千葉・茨城・福島・群馬・栃木の5県から食品の輸入を停止していました。

台北

輸入再開に向けては日本政府が交渉を重ねたほか、現地で住民投票が行われるなど紆余曲折を経て、2022年2月から“条件付き”で再開しました。

その条件とは、放射性物質の検査報告書の添付です。

放射性物質の検査報告書

検査機関に商品のサンプルを送ってから検査報告書を入手できるまでには数日程度かかるため、生のままでは鮮度を保つことができず、鮮魚の輸出には大きな障害となっています。

銚子漁港で水揚げされた魚

一方、東アジアでは、現在も水産物の輸入停止の措置を取っている国や地域もあり、2023年8月の処理水の放出を受けて規制は拡大しています。

<水産物の輸入規制>(順位は日本からの2022年の輸出額の多さ)

【中国】(輸出先1位)
原発事故のあと、千葉・東京・茨城・福島・宮城・新潟など10都県からの輸入を停止。今年8月の処理水放出を受けて、全都道府県からの輸入停止に拡大。

【香港】(2位)
千葉・茨城・福島など5県に対して検査を義務づけていたが、処理水の放出を受けて、5県に加えて東京・宮城など、あわせて10都県からの輸入を停止。

【アメリカ】(3位)
規制なし。

【台湾】(4位)
原発事故のあと、千葉・茨城・福島など5県からの輸入を停止していたが、2022年2月に検査の義務づけを条件に再開。

【韓国】(5位)
原発事故のあと、千葉・茨城・福島・宮城・岩手・青森など8県からの輸入停止を継続。

千葉県の水産物は、中国・韓国で輸入停止が続いているうえ、処理水の放出で香港も輸入停止となりました。このため、規制が緩和されつつある輸出額4位の台湾に期待が高まっています。

成田の輸出業者 台湾に期待

台湾で残っている輸入規制は、どの程度の影響を及ぼしているのか。

成田空港を拠点に海外への鮮魚輸出を行っている、水産仲卸業者「成田ヤマニ」の林匠さんの仕事に密着しました。

林匠さん

午前2時半、林さんの姿は千葉市内の市場にありました。海外向けに輸出するための水産物を買い付けるためです。この日は、勝浦漁港で取れたキンメダイなどを買い付けました。

林さん

前日の夕方から入ってくる注文にあわせて、毎日、何を買い付けるのか考えます。

市場にいる間にも、品目、産地などを指定した注文が次々と入ってきています。

午前5時ごろ、買い付けた水産物を「成田市場」の一角にある自社の作業場に運びます。

仕入れてきた水産物を丁寧にこん包し、送り先ごとに仕分けていきます。

この市場には通関や検疫所が備わっていて、こん包作業が終わった午前9時ごろには、航空貨物を取り扱う業者に受け渡していました。

林さん

現在は、タイやベトナムなど6か国に冷蔵で魚を輸出しています。

買い付けた日の夕方には成田空港から空輸され、現地で生のまま新鮮なすしや刺身を味わってもらうことができます。

しかし、台湾向けには、生の魚を送ることはできません

放射性物質の検査報告書を入手するのに数日程度かかるためです。このため林さんの会社では、冷凍した加工品を船便で送ることにしています。

冷凍されたキンメダイ
林さん

冷凍加工品でも、急速冷凍などの技術で生と変わらないおいしさで提供できるようになりつつありますが、どうしても鮮度の落ちもあります。

生の魚を輸出できないのは心苦しいです。

林さんの会社では、処理水の放出による香港の輸入停止で、商談が取り止めとなったケースもあったということです。今後、海外で販路を拡大する先として、台湾に期待しているといいます。

林さん

台湾では生鮮のニーズが高いので、検査の規制が撤廃されれば非常にうれしいです。かなり販路の拡大につながると思います。

規制撤廃なるか 熊谷知事が台湾訪問

台湾の規制の撤廃に向けて、千葉県では官民が連携した動きが始まりました。

千葉県の熊谷知事は、県の漁業組合や輸出業者などとともに台北を訪問。11月16日に大規模な商談会を開催しました。

熊谷知事

招かれたのは、台湾のデパートや飲食店など約30社のバイヤーたち。千葉県の食材の試食会も行われました。

試食会に参加したバイヤー

輸出に取り組む林さんも、熊谷知事に同行して商談会に参加。

日本の魚の安全性や成田空港への利便性をアピール。新たな取り引きにつなげようとしていました。

台湾のバイヤー

日本のものをいろいろ輸入したいです。

安全性について心配する台湾人もいますが、自分はそんなに心配していません。規制は徐々に緩和されると思います

一方で、厳しい現実を語るバイヤーもいました。

別のバイヤー

台湾では処理水放出の影響はないと思ってたんですが、中国や香港ほどではないものの、じわじわと影響が出てきているんですよね。

取り引きは来年、忘れられたころにでも…。

知事が要望活動 成果は

大きな期待と厳しい現実が入り混じる中、千葉県は規制の撤廃を求め、台湾の日本に対する窓口機関「台湾日本関係協会」の蘇嘉全会長と面会。

輸入規制の撤廃に向けて協力を要望する文書を手渡しました。

熊谷知事

蘇会長から、規制の撤廃にむけて関係の省庁、行政機関に力強く働きかけていきたいと言っていただきました。

1日も早い撤廃に向けて、着実なプロセスを経ていただけるのではないかと思っています。

“成果の評価は先” 現地取材を終えて

水揚げ量日本一を誇る銚子漁港、カツオ漁が盛んな勝浦漁港、イセエビの有数の水揚げ港の大原漁港など、各地で新鮮な魚介類が得られる千葉県。県内には成田空港があり、水産物を新鮮なまま輸出できる環境があります。

成田市場

さらに「成田市場」は、通関などの輸出手続きを一括して行う「ワンストップ輸出」ができる国内唯一の施設として、去年誕生したばかりです。今後計画されている成田空港の機能強化も追い風に、千葉県の産品を海外に輸出する土台は整っています。

そうした千葉県の水産物について、台湾でいまも続く輸入規制の撤廃を求めようと、熊谷知事は知事就任後初めての外国訪問先として台湾を選びました。

熊谷知事

「台湾日本交流協会」の蘇会長は、「撤廃に向けて協力をしていきたい」と話したということですが、台湾では年明けに総統選挙を控えていることもあり、県の関係者の間でも、「すぐに規制緩和の判断はできないだろう」との見方があります。今回の台湾訪問は、まずは輸入自体が再開されたことから、千葉の食品のおいしさを知ってもらうことが目的でもありました。

しかし、商談会に参加したバイヤーの1人からは、「原発事故のあと10年以上にわたって輸入停止となった千葉・茨城・福島など以外の地域との取り引きができてしまっていて、わざわざ千葉から仕入れなくても問題ない」といった厳しい声も聞かれました。

台北のすし店 規制のない県などから生の魚を仕入れている

さらに、台湾では処理水放出による規制強化はありませんでしたが、一部の台湾の人たちの間では、千葉などの産品を見る目が厳しくなったといいます。このため、千葉から輸入した食品を「千葉県産」と明記せず、「日本産」として店先に並べる、という話も聞かれました。

冷凍品を解凍したキンメダイの刺身

今後、実際に規制の撤廃を目指す上では国との連携が不可欠です。県としては、撤廃の見通しは立っていない中で、まずは重要な輸出先である台湾で千葉の食品を知ってもらい、需要を高めようとしています。今回の訪問で十分な成果が得られたのか、評価できるのは、まだ先のことになりそうです。(渡辺佑捺)

  • 渡辺佑捺

    千葉放送局記者

    渡辺佑捺

    県政担当。魅力あふれる県産品が、台湾でも新鮮なまま楽しんでもらえる日が来ることを望んでいます。

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