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千葉5区補選 英利アルフィヤ氏、薄氷の勝利の裏側は

  • 2023年05月15日

「集積台の一番奥、無効票のところに、高い票の山があります」
衆議院千葉5区補欠選挙の開票が進んでいた4月23日深夜、開票所にいる記者から、無効票の数がかなり多いようだという連絡があった。
最終的に、過去と比べると2倍近い無効率となった。

「自民党・英利アルフィヤ氏が苦戦した理由は何なのか?」
「無効票の多さの意味するものは何か?」 

市川市と浦安市の担当記者として選挙区を歩き、関係者に連絡を取り、調べてみた(文中敬称略)。

(千葉放送局記者 金子ひとみ)

信じがたい無効票の多さ

4月23日深夜、得票状況をPC画面で確認(NHK千葉放送局内)

4月23日深夜。
勝つのは自民・英利アルフィヤか、それとも立民・矢崎堅太郎か。

私のいたNHK千葉放送局の開票速報本部では、開票率が80%を超えても当選確実が打ち出せない状況が続いていた。

打つための情報がもう少しほしい…。

そんなときに入ってきたのが、開票所で取材をしている記者からの連絡だった。

右奥の白い票の束が無効票(市川市の開票所)

「無効票のところに、高い票の山がある」

終わってみると、その数、市川市では5434票で4.83%、選挙区全体ではあわせて7199票で4.17%だった。

千葉5区における無効票の割合

何も書かれていない白票や、候補者ではない人の名前を書いた無効票は、どの選挙でも必ず存在する。
しかし、過去の衆議院選挙でのこの千葉5区の無効票率はおおむね2%台で、その割合が4%を超えるとは、予想できなかった。

また、最終的に、英利と次点の立民・矢崎との票差は4943票、わずか3ポイント差だった。

自民有利と予想されたけれど

自民党千葉県連の小林鷹之選挙対策委員長と(2/21)

この選挙は、当選5回だった自民党(当時)の薗浦健太郎が「政治とカネ」の問題で辞職したことによる補欠選挙だったが、主要野党が候補者を一本化しなかったため、私が取材を始めた当初から、地元では「自民が議席を守るのではないか」という見方が大半だった。

英利が候補に選ばれたときも、好意的に受け止める声は確かに聞かれた。

「薗浦さんの事件は驚いたし残念だったけれど、今回は英利さんに入れるつもり。自民党が、英利さんのような多様性あふれる候補者を選んだのはいいことだと思うし、期待したい」(60代女性・本八幡駅前)

「英利さんを支援するかどうか迷っていたけど、実際に会ってみたら、申し分のないすてきな候補者だと思った。5区で政権与党・自民党が議席を維持しないと、この地域一帯をどんどん立憲の野田さん(元総理、隣の船橋市が地盤)に取られることになって具合が悪い。候補が誰であっても自民党の候補を応援する」(自民党員の70代女性・電話取材)

自民党千葉県連の幹部たちが太鼓判を押す英利の「清新」「清廉潔白」といったイメージを前面に出すことにより、政治とカネという悪い印象を断ち切れるのではないかとも考えられた。

しかし、取材を進めるにつれて、この見通しが甘いことを知ることになる。

根強い「政治とカネ」への不信

まず、「政治とカネ」問題への批判が根強かった。

「薗浦さんの事件は、自分の住んでいるところでこんなことが起きるのかとびっくりした。特に支持政党はないが、お金の問題のない人を選びたい」(30代女性・南行徳駅前)

「薗浦さんのポスターを貼ってもらっていた人の家に、英利さんのポスターに貼り替えてもらえるようお願いしに行っても、50人の家に行けば、そのうち5人に『今回は協力できない』と断られる。薗浦さんを熱心に応援していて政治に敏感な人ほど、『裏切られてショックだ』と話していて、厳しさを感じた」(英利選対スタッフ)

千葉5区内のみならず、県内の政財界で広く影響力を持つ実業家に会いに行くと、次のように話した。

「薗浦さんがちゃんと後始末していないせいで、まだ許せていない人も多いのではないか。しっかり前に出て謝罪し、英利さんを連れて各所にあいさつにまわるべきだ。選挙でどんな態度を取ったかというのは、あとをひくものだ」

野田元総理(右)は連日、矢崎の応援に入っていた

「自民党が勝てば、『政治とカネ』の問題が風化し、なかったことになる。間違っていると気づかせてほしい。勝てる野党の候補者に票をまとめてほしい、勝てる野党の候補者は私しかいない」

選挙戦半ば、「英利と矢崎が競り合っている」という各種調査結果が連日報じられるようになると、立民の矢崎は、元総理大臣の野田佳彦などとの演説で、「政治とカネ」をより強く批判し、自分に票を結集するよう訴えるようになっていた。これに呼応するかのように、終盤、取材に応じてくれる有権者は「矢崎に入れる」という人が多かったように思う。

「お金にまつわる選挙だから、謙虚で実直な矢崎さんこそぴったり。自民党が勝ってしまったら問題がうやむやになってしまう」(70代女性・市川市の商業施設前)

「前回は薗浦さんに入れたが、今回は期日前投票でもう矢崎さんに入れてきた。政治とカネにメスを入れる、自民党・岸田政権にお灸をすえるための選挙だと思う」(無党派の60代男性・新浦安駅前)

「僕が朝登校する時間に、矢崎さんがよく駅で立っているのを見てきた。自民党は長い間政権を取ってきて運営能力は高いと思うが、不祥事がよくあるというイメージ。初めての投票は、矢崎さんに入れる」(18歳になりたての男子高校生・新浦安駅前)

なぜ落下傘? 自民党支持者からの反発

自民党本部では頻繁に「千葉県選出国会議員団会議」が開かれた

さらに、選挙が進むにつれて、特に聞かれるようになったのが、英利が市川市・浦安市とつながりのない「落下傘」候補であることへの批判だった。中国の新疆ウイグル自治区にルーツがあることに反応する人もいた。

「ずっと薗浦さんを応援していた。謙虚な方で、地域のお願いごとも丁寧に聞いてくれていた。今回の英利さんという候補は、まったく聞いたことのない方で『いったい、自民党は、どこから連れてきたの?』と思った。薗浦さんも落下傘だったけれど、議員になる前に市川に住んでいたし、地域のこともよく知っていた。薗浦さんをはるかに超える落下傘候補で、違和感を感じた。地元から出てこの地域のことを知る方がいいので、今回は矢崎さんに投票したい」(70代女性・行徳駅前)

「薗浦さんの事件後、市民からは、薗浦さん個人に対してのお叱りの声をかけられたが、自民党バカヤローの声はなかった。でも英利さんが候補として選出されたあとは、自民党に対してのお怒りの声をよくいただいた。党員だと明かされて、『なぜ、なんの関わりもないこのような候補を選んだのか?今回は投票できないかもしれない、どうするか迷っている、家内と相談したい』と言われたこともあった。これまで躊躇なく投票してくれていた自民党の岩盤層の中では、薗浦さんの事件より英利さんの選出の方が衝撃的だったのではないか」(自民党系地方議員)

市川市で多かった無効票、「該当者なし」と書かれた票も

2市あわせて4%を超えた無効票。

複数の陣営の関係者などに、あらためて当時のことについて聞いてみたところ、以下のような状況が明らかになった。

・「疑問票」として審議されることになった英利に投票されたと思われる票が多数あった。特にカタカナの「アルフィヤ」部分の判定が難しく、冒頭の「ア」が「カ」や「ヤ」に見えるもの、「アルフィヤ」ではなく、「アルフィア」や「アルフェヤ」「アルファイヤ」などが多数あった。

・特に市川市では、白票が多く、無効票の大半が白票だった。

・白票以外の無効票としては、「自民党」「2市選出の市議会議員や県議会議員の名前」「該当者なし」「薗浦健太郎」などの記載のほか、1枚の用紙に2人の人物の名前が書かれた票、走り書きで解読できない票などがあった。

無効票をなぜ投じたのか?

無効票を投じた人に話を聞いた。

白票を投じた市川市の80代女性
「40年以上自民党を支持してきた。英利さん、経歴は立派だけれど、地元のことは何を知っているの?新たな候補として公募に申し込んで来た人の中には、もっと5区とつながりのある適任の人がいたのではないか?自民党はなぜこの方を選んだのか?夫婦で相談して、2人そろって何も書かずに投票箱に入れた。今後、応援できるかどうかは、英利さんが真摯な気持ちで地元と関わってくれるかどうかしだいだと思っている。薗浦さんに戻ってきてほしいという気持ちもある」

「自民党」と書いた市川市の50代男性
「自民党員です。野党に投票したくなかった。白票も避けたかったが、県選挙管理委員会の公表している資料で、地元に住んでいなかったことを知る中で、信を感じることができなかった。『民信無くば立たず』と考え、無効票覚悟で『自民党』と書いた。英利さんが、次の選挙まで市川・浦安は知ったこっちゃないと考える方なのか、そうではない方なのか、今後、見極めたい」

有権者、特に選挙に関心の高い人たちの間で、地元と関わりのある候補か、地元のために何をしてくれるのか、がいかに重要かということを思い知った。

千葉県庁での当選証書授与式後に取材に応じる(4/25)

無効票の多さ、英利はどのように受け止めたのか。

「多くの選択肢の中でも投票したくない、投票した人がいなかった、という意思表示なのであれば、それはやはり真摯に受け止めて、今後どのような形で皆さまの信頼を得ることができるのか、特に自由民主党にもう一度信頼をいただけるか、これをしっかりと真摯に考えていきたいと思っております」

次の総選挙こそ正念場

総理大臣などが来る街頭演説では厳重な警備

無効票を投じた人に話を聞いたのと同じころ。
今回の補欠選挙で英利を支援した人たちからは、「次の選挙はさらに厳しいものになる」という声が聞かれた。

「今回は補欠選挙だったので、党本部からも県内のほかの国会議員事務所からも大量の応援が入った総力戦になったが、次回は自分たちだけでなんとかしなくてはならない。次回は野党が統一候補でまとまってくる可能性もあり、そうなると小選挙区で勝てる保証は全くない。どれほど地域に目を向けて回り続けることができるかにかかっている」(自民党関係者)

参議院議員の石井準一は、当選後、あいさつに来た英利に次のように声をかけたという。

「これからが勝負だよ。つかんだものが夢物語にならないように、しっかりがんばりなさい」

取材後記

今回の取材を通して、衆議院議員の通称である代議士の意味について考えました。「全国民を代表して国政の審議にあたる」のが代議士だと漠然と思ってきましたが、選挙区の住民を代表してこそ、選挙区の住民に認められてこそ、代議士なのだと思いました。「地元」への思いが強い人たちの間で、落下傘候補への視線が厳しくなるのは当然のことなのかもしれません。補欠選挙の勝者である英利さん、一方で、敗者となった矢崎さんなど野党候補がそれぞれどのような政治活動を展開していくのか、市川・浦安両市の有権者は、静かに冷静に見続けていると思います。

  • 金子ひとみ

    千葉放送局記者

    金子ひとみ

    2021年衆院選では、接戦の千葉10区を担当。補欠選挙の取材は初めてでした。

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