4月23日に投開票が行われた衆議院千葉5区の補欠選挙は、接戦の末、自民党の新人・英利アルフィヤさんが立憲民主党の新人・矢崎堅太郎さんなどを破り、初めての当選を果たしました。
出口調査から読み取れた英利さんの本当の勝因は何か?
無効票が2倍に急増!「異変」が解き明かす選挙戦の裏側を解説します。
(千葉放送局記者・金子ひとみ、岡本基良)
自民党の衆議院議員だった薗浦健太郎氏が「政治とカネ」の問題で辞職したことに伴う、衆議院千葉5区補欠選挙。与野党6党が候補者を擁立し、元議員と新人のあわせて7人による混戦となりました。
開票の結果、接戦を制したのは自民党の英利さんでした。
一夜明け、英利さんは、朝7時半すぎからJR本八幡駅前に立ち、当選を報告しました。通勤途中の人たちから、「これからが大事だよ。頑張って」などと声をかけられていました。
英利アルフィヤさん
「接戦になったのは自民党への厳しい評価でもあったと思うが、地縁や血縁のない私を受け入れてくれた人たちに感謝したい。クリーンな政治を行うとともに、選挙運動を通じて地域の方々が懸念していると感じた、経済、子育てなどの社会保障、防災・減災の政策に力を入れていきたい」
野党候補が一本化されず、英利さんが有利との見方もあった今回の選挙。しかし、選挙戦に入ると、各種の調査で、立憲民主党の矢崎さんとの接戦が伝えられました。
なぜ接戦となったのか。それを解き明かすカギは、NHK千葉放送局が行った投票日当日の出口調査から見えてきました。
次のグラフは、特に支持する政党のない、いわゆる「無党派層」が誰に投票したのかを示したものです。
トップの矢崎さんが無党派層の30%台後半から支持を得ましたが、英利さんは10%台半ばで3番目に沈んでいます。矢崎さんは無党派層を一定程度固めたことで、接戦に持ち込むことに成功しました。
一方で、英利さんの“勝因”は「自民党」という組織でした。こちらは、出口調査で尋ねた支持政党の割合です。
自民党の支持層が、無党派層を大きく上回って最も多い割合を占めています。さらに、自民党を支持すると回答した人たちの投票先をみてみます。
英利さんは、最も多い自民党支持層の60%余りを固めることに成功していました。
投票した人の中に占める自民党の支持層がそもそも多く、さらに組織票をある程度まとめられたことが、最終的に英利さんが競り勝った“勝因”と読み取れます。
組織力を背景に英利さんが優位となる中で、想定外の不確定要素がありました。“無効票”です。
今回の補欠選挙における無効票は7,199票。投票者数全体の4.17%にのぼりました(市川市では5,434票で4.83%、浦安市では1,765票で2.94%)。
実はこの割合、前回の衆院選(2021年)の約2倍。通常の選挙では見られない異例の多さです。
英利さんと矢崎さんの票差は5,000票弱。無効票の7割が矢崎さんに回っていれば、矢崎さんが英利さんを上回って当選していたことになります。
無効票とはどのような票なのか?取材したところ…
選挙管理委員会や陣営の関係者によると、何も書いていない「白票」のほか、党名や候補者ではない人物の名前や記号、同時に行われた市議選の候補者の名前が記され、無効になったものがあったということです。
一方で、今回の無効票の多さは、「政治とカネ」の問題に対する自民党支持層からの“抗議”の意思の表れではないかと指摘する声もありました。英利さんを支援した石井準一参議院議員に聞きました。
自民党支持者に支援をお願いしに行くなかで「今回の候補のことはよく知らないから入れたくない」と言われたり、今までポスターを貼ってくれていた家の人に「今回は貼りたくない」と言われたりしたことがあった。自民党の支持者からも厳しい目が向けられていることを真摯に受け止めなければならない。
英利さんはこう話しています。
多くの選択肢の中でも投票したくない、投票した人がいなかった、という意思表示なのであれば、それはやはり真摯に受け止めて、今後どのような形で皆さまの信頼を得ることができるのか、特に自由民主党にもう1度信頼をいただけるか、これをしっかりと真摯に考えていきたいと思っております。
市川市・浦安市、それぞれの開票結果からは、矢崎さんが地盤の浦安で上回りながらも、市川で英利さんに大きくリードを許している状況が分かります。
また、前回2021年の衆院選と比べると、“票の分散”が如実に表れています。
2021年は選挙区全体で上位2人の得票率を足すと76.3%。今回は、英利さんと矢崎さんの上位2人の得票率は58.2%にとどまりました。票が前回より分散したと考えることができます。
前回、自民党の薗浦さんは、市川・浦安の両方で得票率が45%を超えてトップでした。矢崎さんは前回も立候補しましたが、今回、市川でも浦安でも得票率を落としました。
一方で岡野さんの得票率は、前回、国民民主党から立候補した鴇田さんと比べると、市川市で2.8ポイント、浦安市で8.7ポイント上回りました。
選挙の開票速報で、票の少なかった候補が「最後に逆転」はなぜ起きるのか
千葉5区補選開票 英利アルフィヤ氏 最後に矢崎氏を逆転 なぜ?
補欠選挙を受けて、24日、野党各党が記者会見を開いて結果の受け止めを語りました。
奥野総一郎・立憲民主党 千葉県連代表「野党候補の一本化がなくても『立民だけで勝てる』というところを示したかったが、残念な結果だ。『政権を任せられる』と思ってもらうため、野田元総理大臣を全面に出して戦ったが、党としての基礎体力や支持基盤、勢いがなかったことを反省しないといけない。また、今回の選挙は『政治とカネ』を争点としてきたが、自民党が勝ってしまった。きちんとお灸を据えることをしないと、また同じ問題を繰り返す可能性がある。来たるべき総選挙に向けて、候補者の一本化を各党に呼びかけていきたいし、外交、安全保障、経済政策をもう一度きちんとチェックして、一般の国民から支持を得られるようにしたい」
天野行雄・国民民主党 千葉県連幹事長「小さい政党で政党支持率も低い、選挙にかけられるお金も少ない中で、岡野氏は懸命に運動に取り組み、選挙戦中も全く休むことなく駆け抜けた。そういう中で、この票を得たことは評価したい。今後の選挙では、経済や国際情勢、子育てなどを含めてさまざまな争点があり、党によって明確に姿勢が変わってくる。きちんと国民の生活を守っていけるように、他者への攻撃で票を得るのではなく、しっかりと議論をしていきたい」
藤巻健太・千葉維新の会 代表代行「厳しい戦いだった。野党の間でも票差がついてしまったので、正直、もう少し票を取りたかった思いがある。岸野氏は若くて活動量もある候補者だったが、公認が決まってからの準備期間の短さや組織力、知名度などに課題があった。選挙への手応えはあり、以前は維新を知らない方も多かったが、いまでは多くの方に応援してもらえている。年内に衆院選がある可能性も視野に、愚直にこれまで通りの活動を続けたい」
小倉忠平・日本共産党 千葉県委員会委員長「非常に残念な結果ではあった。ただ、斉藤氏が訴えた政策は、今後の国政運営においても大事な役割を果たす、生命力を発揮する訴えだったと思うし、大軍拡に正面から『ノー』と言ったのは、今後に生きる論戦でした。そういう点では大いに健闘したと思う」
今回の補欠選挙の投票率は38.25%。前回・2021年の衆院選の投票率から15.82ポイントも下がりました。自治体別では、市川市では36.24%、浦安市では42.68%でした。
同時に行われた補欠選挙の投票率は、衆議院和歌山1区が44.11%、衆議院山口2区が42.41%、衆議院山口4区が34.71%、参議院大分選挙区が42.48%でした。
千葉5区も含め、5か所とも過去最低の投票率となりました。
投票率が低くて、残念だったナ。ラッカはこれからも千葉県内の選挙についての発信を続けていくラッカ。