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農水産物の輸出額“15倍” 成田市場好調の理由とは

  • 2023年03月24日

いま、成田市の公設卸売市場の輸出額が急激に伸びています。東南アジアなどへの果物や鮮魚の輸出が大幅に増えているのです。2022年の年間輸出額は14億円以上にのぼり、前の年の15倍以上に増えました。今後、人口減少に伴って国内需要の縮小が見込まれる中、生産者や輸出業者らは海外の販路に期待を寄せています。

(千葉放送局成田支局記者 櫻井慎太郎)

国内初のワンストップ輸出拠点機能

成田市の公設卸売市場はもともと成田空港から直線で6キロほどの場所にありましたが、2022年1月、空港のすぐ隣の敷地に移転、リニューアルオープンしました。

世界につながる空港のすぐ隣という地の利を生かすため、新たな市場には、農水産物の輸出に必要な手続きを一括で行える「ワンストップ輸出拠点機能」が国内で初めて備えられました。

農水産物を輸出するためにはこれまで、空港などに品物を持っていった上で、産地の証明書の発行や有害な虫などがいないか調べる植物検査、通関の手続きなどを受けていました。こうした手続きが市場内で済ませられるようになり、4日から6日間程度かかっていた時間を3日間程度にまで短縮できるようになっています。

オープンを控えた内覧会の際には、成田市の小泉一成市長は「空港に近く、より新鮮なまま農水産物の輸出が可能になるというメリットを最大限生かして、輸出拠点として成田市場から世界に日本の食を届けたい」と意気込みを語っていました。

輸出額は1年で15倍以上に

移転・リニューアルオープンから1年がたち、さっそく結果が出始めています。成田市によりますと、記録的な円安も追い風となり、2022年1年間の輸出取り扱い額は14億2900万円に。前の年の取り扱い額は9400万円だったので、1年間で実に15倍以上の伸びとなったのです。

伸びているのは青果と水産物。青果では、ぶどうやいちごなどの台湾への輸出が大きな割合を占めています。台湾への青果の輸出は2021年はありませんでしたが、2022年の輸出額は5億4000万円余りとなっています。

水産物では、東南アジアへの鮮魚の輸出が好調です。2022年のタイへの輸出額は6億円余り、ベトナムへの輸出額が1億4000万円余りと、それぞれ4倍以上の伸びとなっています。

ことし1月、水産物を取り扱う市場内の仲卸業者を取材した際には、早朝から生のマグロを切り分けたり、水揚げされたばかりのタイやアワビを梱包したりといった作業を忙しそうに進めていました。この会社によりますと、2022年は物価の高騰もあって国内需要の落ち込みが目立った一方、円安や日本食ブームを背景に輸出額が伸び、前の年に比べ2割から3割ほど増えたということです。

水産物の仲卸業者
渡辺大洋 常務

「同じ市場に輸出や運送の業者も入ってスムーズに受け渡せるので、鮮度が維持でき、効率性が向上しました。海外の顧客は日本食への関心がとても高いので、需要に応えられるようにしていきたい」

千葉県産品の伸び悩みなど課題も

一方で課題も見えてきています。成田市によりますと、輸出する農水産物の多くは県外から持ち込まれたもの。千葉県産品の輸出は伸び悩んでいるといいます。また、海外での市場の知名度が豊洲市場などと比べると低いことも課題だということです。

また農産物を仕入れている卸業者は、今後は東南アジアだけでなく、ヨーロッパやアメリカなどにもどう販路を拡大するかが課題だとしていて、さらに冷蔵や冷凍技術の向上が必要だと話していました。

農産物の卸業者
今澤泰規 営業部長

「高齢化や跡継ぎの問題で生産者が減る一方なので、1つずつ課題を乗り越えていって海外への輸出で活路を開いていきたい」

成田市は、2027年度に農水産物の年間の輸出取り扱い額を88億円まで増やすことを目標にしています。

成田市経済部
卸売市場
出口祐太 副主査

「今後も、市場の事業者や生産者と連携をとりながら目標に向けて取り組んでいきたい」

大手航空会社グループも動き

さらに、魚や果物をより鮮度の高い状態で海外へ輸出しようという新たな動きも。

JALグループで航空貨物を取り扱う「JALカーゴサービス」は2023年2月、市場内に新たな輸出拠点を設けて運用を始めました。

これにより、これまで空港内の貨物地区で行っていた生鮮食品の航空コンテナへの積み込みを、市場内で行えるようになります。温度変化を少なくすることで、より鮮度を保てるということです。

運用初日の2月27日には、千葉県鴨川市の漁港で水揚げされたヒラメやキンメダイなどが市場に運ばれ、輸出の手続きが行われていました。千葉県内には12年連続で水揚げ量日本一の銚子漁港もあり、千葉県産品の輸出増加にも期待が高まります。

鴨川市の卸売業者
新貝栄市 事業部長

「これまで輸出する際は豊洲市場を経由していましたが、成田の市場に直接運べば、半日から1日程度、時間が短縮できます」

鴨川市漁協
松本ぬい子 組合長
 

「海外でも鮮度を保ったまま食べてもらえるのはうれしい。販路が広がって需要が増えれば魚の値段も上がり、若い漁業者も希望が持てると思います」

このあと、コンテナは空港で貨物機に搭載され、タイのバンコクに向けて出発。翌日午後以降に現地の飲食店などで提供されるということでした。

JAL
カーゴサービス
藤本俊英 企画部長
 

「温度管理の行き届いた市場の中で作業が完結でき、特に夏場にはメリットが大きい。より早く、鮮度の高いものを海外に届けていきたい」

取材後記

「東南アジアに視察に行くとと、『いい魚が入ったらいくらでも買います』という感じです」「ぶどうに、日本じゃ考えられないくらいの高い値段がついても、すぐに売れていきますよ」。今回の取材先で聞いた言葉です。東南アジアの勢いを感じました。同時に、仲卸業者の担当者から聞いた話も印象的でした。「日本の農水産物が人気なのは、生産者が品質を高めてきたからこそだ」。輸出額増加の背景には、日本の生産者の努力の積み重ねがあることを忘れてはいけないと思いました。

さらなる海外輸出の伸びが期待される中で、新たな取り組みが生まれてくると同時に課題や問題点も出てくると思うので、この市場に引き続き注目していきたいと思います。
 

  • 櫻井慎太郎

    千葉放送局成田支局

    櫻井慎太郎

    2015年入局。千葉県政担当を経て、2022年8月から成田支局。

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