富津市選挙区では、24年ぶりに千葉県議選の投票が行われました。
5回連続で無投票当選をしてきた自民党の現職と、「無投票に一石を投じたい」と立候補した元市議の新人による“保守分裂”の一騎打ちに。
結果は、新人が現職を大差で破り、初めての当選を果たしました。
選挙戦で何があったのか。取材で見えてきたのは、選挙のあり方の変化でした。
(千葉放送局記者・岡本基良)
東京湾に面し、房総半島の中ほどに位置する千葉県富津市。
漁業や農業が盛んですが、人口4万人のうち約3分の1が70歳以上となるなど、少子高齢化・人口減少が大きな課題となっています。
この富津市では、千葉県議選の投票が24年ぶりに行われました。
自民党の現職・吉本充さんです。
平成11年に当時の自民党の現職を破って初当選。その後、5回連続で無投票で当選を重ねてきました。県議会では特に教育政策に力を入れ、平成30年から翌年にかけては県議会議長も務めました。
今回の選挙では、地元と県のパイプ役を務めてきた実績を訴え、7期目を目指します。
対するは、元市議の新人・渡辺務さんです。
富津市議会議員を14年にわたって務め、市議会議長も歴任。市議会では自民党系の会派に所属していました。しかし、無投票が続く県議選の状況に一石を投じようと、去年11月に市議を辞職して立候補しました。
24年ぶりの県議選について、有権者の反応は…。
県議選で前に投票した記憶がないです。選択肢ができるという意味で、投票はあった方がいいと思います。人口減少の対策や雇用の確保に関する政策を期待したいです。
期日前投票に行ってきましたが、投票しても何も変わらないんじゃないかと思ってしまいます。県政は、国政や市政と比べて身近ではなく、県議が何をしているのかよく分からないです。
24年ぶりに選挙戦に臨むことになった、吉本さんの陣営。選挙戦の初日、支援者を集めて出陣式が開かれました。自民党の現職らしく、招かれた多くの来賓が順番に応援演説を行います。
会場を取りしきっていたのは、選挙責任者の嶌津澄夫さんです。
吉本さんの小学校・中学校・高校の先輩にあたり、初当選の時から一貫して選挙責任者を務めてきた嶌津さん。実は、ことし1月に「日本マスターズ柔道」の70歳代後半の体重別で優勝するなど、地元では柔道家として知られています。
これまでは無投票の公算が大きかったので、出陣式は小規模でしたが、今回は300人を招待して大規模に行いました。無投票の時とは雰囲気が全然違います。
今回の選挙戦にあたって、嶌津さんたちはまず、後援会の名簿の確認を行いました。
ところが、早速“24年のブランク”の壁に直面します。
24年前、私はまだ当時50代でしたが、上の世代で応援してくれた人たちは、ほとんどが亡くなってしまいました。無投票が続いていたので、ちゃんとした資料が残っておらず、まずはそうした支援者1人1人の状況を確認していきました。
吉本さんの選挙事務所の壁に所狭しと貼られているのは、大量の「ため書き」。
岸田総理大臣、地元選出の浜田防衛大臣、自民党の茂木幹事長などの大物政治家だけでなく、現在の富津市長や、県のさまざまな業界団体などから支援を受けています。
一方で、机の上のモノはあまり多くありません。
昔の選挙戦は、固定電話を並べての“電話作戦”が定番でした。1軒1軒電話を掛けて支持を呼びかけるんです。
しかし、最近は特殊詐欺対策で「電話に出ない」というお年寄りがほとんどです。このため、今回は“電話作戦”は見送ることにしました。
その代わり、新たに始めたのがSNSでの発信です。
若い支援者が中心となって吉本さんのFacebookを立ち上げました。街頭演説の様子などを元に投稿文案を考え、嶌津さんが確認した上で投稿します。
最近の選挙という感じですよね。
私はSNSは不得手ですが、若いスタッフが頑張ってくれています。今回初めてFacebookのアプリをスマホに入れました。
一方で、24年前と変わらない運動も。
南北40キロの海岸線があり、山地も広い富津市。過疎化が進む農村部もくまなく回り、教育分野を中心に、県全体の課題にも取り組んできた実績を訴えます。
吉本充さん
「24年ぶりにマイクを持って皆さんに直接訴えることができるので、個人的には『楽しい』と感じることもあります。富津ではインフラ整備などさまざまな課題がある中で、いま、県政とのパイプ役を私からほかに付け替える余裕はないと思っています」
無投票が続く状況を終わらせた、新人の渡辺さん。
県政や県議会の状況を、丁寧に地元に伝えていくことを公約の1つに掲げています。
無投票が続いていたためか、「県議会議員がどんな仕事をしているのか」「現職の公約は何か」などと聞かれても、答えられないことが多くありました。
ちゃんと主義主張を明確にして、市民に判断してもらう選挙ができればと考えて立候補しました。
渡辺さんは現在も自民党員で、市議会でも自民党系の会派に所属していました。過去4回当選を果たしてきた市議選は、地元を中心に後援会の組織をまとめ、いずれも全体2位の得票数を獲得。
しかし、今回の県議選では自民党の現職・吉本さんと敵対することになるため、公認はなく無所属での立候補です。
これまでの支援者から「今回はちょっと支援できない」と言われることもあります。一方で「よく手を挙げてくれた」という声も多くあり、励みになっています。
私は無所属ですが自民党員ですし、当選した場合、自民党会派入りを希望する予定です。
そんな中でも、市議時代の実績を踏まえ、市内4つの漁業協同組合のうち3つは渡辺さんの支援を決定。ほかにも渡辺さんを支援する団体があり、選挙戦は“保守分裂”となりました。
渡辺務さん
「富津では人口減少が加速し、自分の世代では1000人の同級生がいたのが、最近では年間出生数が100人余りまで減少しています。今回の選挙は、いままで通りでいいのか、それとも視点を変えて明るい未来を作っていくのか、有権者に選択をしてもらいたいです」
開票の結果、当選したのは渡辺さんでした。
渡辺務さん
「重い扉でしたが、皆さんの支援のおかげでなんとかこじ開けることができました。現職に挑戦する人が出ない中、一石を投じようと手を挙げ、人口減少対策など争点を明確にしたことが勝因だと思います。市民がはつらつと生活できるよう、一生懸命、頑張りたいです」
渡辺さん9,131票に対し、吉本さんは6,878票。2000票以上の差がつきました。
私の不徳の致すところです。本来なら4年に1度、選挙があることで、有権者のもとへ直接行って訴える機会となっていたのが、無投票でなかったことが、敗因の1つだと思います。また、県政の報告会ができなかった地域もあり、紙以外のさまざまな媒体で情報発信をすべきだったと反省しています。
20年以上も選挙をやっていないと、やはり「吉本」という名前は有権者から忘れられていました。また、選挙のやり方が全然違ったことにもびっくりしました。FacebookやLINEなどのSNSは、私も吉本さんも実はあまりやりたくなかったんですが、若い支援者の手助けで何とかやっていました。でも、これからの選挙では、SNSを活用していかないといけないんだと思います。当選できなかったのは、非常に悔しいです。
今回、千葉県議選では、定数全体の4分の1以上が無投票となりました。過疎化が進む農村地域だけでなく、千葉市中央区などの都市部でも無投票が出てきています。また、投票率も過去最低を更新する35.99%。私たちの社会に関わる選挙にも関わらず、有権者の関心は下がり続けています。そんな中で、吉本さんの陣営が感じたような選挙の変化は、チャンスでもあります。インターネットやSNSの普及を利用し、政治を身近に感じてもらう工夫をした候補者が選挙で有利になる。そのような社会が到来すれば、政治や選挙への関心が高まるのではないか。そのように感じました。
ほかの選挙区の開票結果はこちらから↓
千葉県議会議員選挙2023
県議会議員になって何をしたいのかや、どんな人たちなのかについて、事前にアンケートを取ったので、これより下でお伝えするナ
人口減少のペースにブレーキを!富津市の実情に沿った施策展開を実現したい。
子供達が健全に成長できる環境の整備。子育て支援に限らずいじめ、不登校といった課題への取り組みの継続。
県民性、温厚な人柄と産業・豊かな自然が混在している所
首都圏にあって豊かな自然があり、古墳時代より多くの人々の営みが続いている。温暖な気候で住みやすい点。
今回の県議選への挑戦
公務員の職を辞し、政治の道を志した時
大学受験
剣道の教え子を救うことが出来なかったこと。その後の指導に大きな影響を与えてくれた自分自身の心の柱石。
・アンケートにお答えいただいていない方は、回答欄が(空欄)になっています。
・設問は、制限字数内で回答していただいています。なお、候補者の回答は原則そのまま掲載しています。
このほか、目指す議員像や熊谷県政への評価、経済、県議会のあり方をどう考えるかなど
千葉県議選 候補者アンケート
候補者と同じアンケートに答えることで、あなたと候補者の考え方の一致度がわかります。
千葉県議選の選挙区別ボートマッチ
そのほかの選挙区の立候補者や、県内の統一選の情報などは
統一地方選挙 千葉 県議選・千葉市議選・衆千葉5区補選など