ページの本文へ

  1. 首都圏ナビ
  2. ちばWEB特集
  3. 「打席でボールが止まって見える」は本当!? 千葉大研究で確認

「打席でボールが止まって見える」は本当!? 千葉大研究で確認

  • 2023年03月06日

「あ!湯飲みが…!」
こんな時、スローモーションで見えること、ありませんか?
「野球でボールが止まって見えた」「交通事故の瞬間がゆっくり見えた」というのと同じ現象だそうです。
この現象を研究する心理学の専門家に取材すると、人間の隠れた能力を引き出せる可能性が見えてきました。
(研究で「ブラウン管」のモニターが使われている理由について追記しました)

(千葉放送局記者 岡本基良)

実験で“謎の現象”解明へ

私たちが訪ねたのは、千葉大学大学院人文科学研究院の一川誠教授です。
この現象を解明しようと、人の認知機能を試す実験を行っています。

一川教授(左)と共同研究者で大学院生の小林美沙さん(右)

実験では、被験者に人の顔写真を2枚連続で見せます。
はじめにカラーで1秒間見せたあと、色合いを落とした同じ写真を一瞬だけ見せ、色合いを落とした方の写真を目で確認できたかどうか尋ねます。
(※こちらのデモ動画は、写真の変化が分かりやすいよう表示時間を5秒ずつに設定した映像をNHKが収録したものです)

顔写真は「怒り」「喜び」「恐怖」「無表情」のいずれかを表現したもので、色合いを落とした写真の時間を1/100~1/20秒で段階的に変えて実験しました。

〈実験のデモ画面をNHKが接写したものです〉

一川教授によると、人は「怒り」「喜び」「恐怖」の表情を見せられると、「覚醒度」と呼ばれる緊張の度合いが高まることが知られているそうです。
この「覚醒度」は、スポーツに熱中したり、交通事故に遭ったり、また、湯飲みを落としそうになった時にも高まります。
一方で、「無表情」では「覚醒度」は高まりません。

(左から)怒り、喜び、恐怖、無表情〈実験のデモ画面をNHKが接写したものです〉

実験の結果は…

およそ20人の被験者に対して実験を行った結果は次の図の通りです。
「怒り」「恐怖」「喜び」の表情を示した場合、「無表情」と比べて、より短い時間でも色合いを落とした画像(低彩度画像)を目で確認できたことが分かりました。
つまり、緊張の高まりによって、視覚が短い時間に処理できる能力が向上したということです。

発表文より引用

千葉大学大学院 一川誠 教授
「私も子どものころ、階段から落ちた時にスローモーションで見えたことがあります。
この現象は、交通事故のほか、野球で『ボールが止まって見える』とか『ゾーンに入る』などよく知られてきましたが、実験ではこれまで確かめられていなかったので、いい成果が出せたと思います。
さらに、どのような生理的なメカニズムで現象が起きているのかなどを調べることで、より短い時間で多くの課題をこなすことができるようになるなど、人間の能力を最大限に引き出せる可能性があります」

一川誠教授

なぜ「ブラウン管」!?(2023.3.16追加)

この研究について3月14日のニュースで放送したところ、次のような声がSNSで広がりました。

ブラウン管のモニターと旧式のコンピューターに目を疑った。

大学にお金がないのかな。

一川教授によりますと、「コンピューターから送られた信号に対する反応が、液晶よりブラウン管の方が早い」ことから、意図的にブラウン管のモニターを使っているそうです。モニターの下にあるコンピューターは高さの調節のために使ったもので、今回の研究では使用していないとのことです。

一川教授

ブラウン管の場合、パソコンから送られる電圧の変化によって光子を飛ばして光を出すという、直接的な方法で画面が映ります。
一方で液晶は、電圧の変化によって液晶分子の方向を揃え、バックライトの光を遮るフィルターを形成するという間接的な方法で画面が変化します。液晶の画面の反応も、技術革新でどんどん速くなっているようですが、ブラウン管のような直接的な方法に比べると反応が遅くなってしまいます。
今回の研究のように非常に短い時間で視覚を調べる場合、まだまだブラウン管のような「キレのいい」ディスプレイの方が望ましいのです。

取材後記

私も学生時代に交通事故に遭った際、スローモーションに見える現象を体験しました。その時の状況はコマ送りの静止画として鮮明に記憶に残っています。
一川教授によると、緊急時にそうした能力が発揮されることで、とっさに受け身を取る反応につながっている可能性もあるそうです。
人間の潜在的な能力”をテーマにした小説やドラマは数多くありますが、その一端が垣間見えるような研究成果。今後さらに研究が深まり、もし自分で意識して潜在能力を引き出せるようになると、また一歩、人類が進化するのかもしれません。

  • 岡本基良

    千葉放送局 記者

    岡本基良

    県政キャップ。約2か月の育休から復帰しました。

ページトップに戻る