一連の広域強盗事件の発生で国民の不安につけ込んだ不審な電話が各地で相次いでいます。NHKはその電話の音声を入手。手口の特徴と対策はーーー。警察の分析とともにお伝えします。
(千葉放送局記者 荻原芽生)
「あなたの家が狙われている」などという不審な電話が、相次いでいます。警察庁によりますと、2月15日の時点で少なくとも10の都府県でおよそ50件に上っています。
千葉県警によると、県内では7件が確認され、「狛江の強盗グループの名簿にお宅の住所が載っていました」などとうそを語るものもあったということです。
警察は、一連の広域強盗事件の報道が続く中、国民の不安につけ込んで現金をだまし取る特殊詐欺の一環とみて、警戒を呼びかけています。
NHKはこの不審な電話の音声を独自に入手しました。
電話は2月23日の午前9時過ぎ、千葉県市川市の70代の女性の自宅にかかってきました。音声は電話機の録音機能を使って記録したものです。以下、そのやりとりです。
恐れ入ります、行徳警察生活安全課のナラオカと申します。○○さんのご自宅でお間違いないでしょうか?
はい、そうです。
いきなりの連絡で申し訳ないのですが、ちょっとですね、○○さんにお伺いしたいことがあって、ご連絡させていただいたんですけれども、あのー、今ですね、うちの署の方で銀行職員を2名逮捕してまして、この2人がですね、「○○さんのご自宅を狙っていた」と言っているものですからね、ちょっと名前の確認を取っていただきたいんですけど・・・。
はい・・・。
あのー、□□という38歳の郵便局の職員と△△という41歳の千葉銀行の職員ってご存じないですかね?
はい・・・、知らない・・・、どこの支店ですか?
えーと、これ市川市内なんですけれども、ちょっと支店とかは捜査中なので、まだお伝えすることができないんですけど、窓口とかでですね、このくらいの年齢の人に話しかけられたりとかはないですかね。
特にはない・・・、あのー、名前ってどこにでもありそうな名前なんで、郵便局さんでお世話になったのかなと思ったりもするんですけども・・・。
あー、そうですか。じゃあ、分からないですかね、あー、そうですか。ちょっとご家族の方いらっしゃったらですね、この名前知ってるかどうか、ちょっと聞いてもらえます?
すいません、今、お電話ってことなんですけども、すいません、かけ直していいですか。どこにお電話すればいいですか?
はいはい、分かりました。
行徳警察ですよね?
そうですね、はい。
教えてもらえる?
ここで、通話が一方的に切られます。通話時間はおよそ2分でした。
この不審な電話。行徳警察署生活安全課の鈴木ひとみ課長に分析してもらいました。
まず、注目したのが話しの切り出し方です。男は、千葉県内にある行徳警察署のナラオカと名乗り、「○○さんのご自宅でしょうか」と女性の名前をあげて話しを始めています。そして「うちの署で、銀行員を2人逮捕したところ2人が『○○さんのご自宅を狙っていた』と話したものですから」と突然の電話の理由を落ち着いた口調で続けます。
一般の方であれば、まず、警察官から電話がかかってくることにびっくりすると思います。そして、「あなたの家が狙われています」と言われたら、不安になると思います。さらに、○○さんという女性の名前を知っていて、本物の警察官かのようにと思わせる巧妙な手口です。
次に指摘したのは、このやりとりです。
男は逮捕したという2人の名前と年齢をあげて「知っているか」と尋ね、女性が返答に困っていると家族に確認するよう求めてきた部分です。
鈴木課長は1人暮らしか探りを入れたとみています。
一人暮らしなのか、同居する家族がいるのか。同居でも、いま自宅にいるのか。家族構成を聞き出し、だましやすい相手かどうか、探ろうとしている。特殊詐欺の典型的な手口です。
今回、被害はありませんでした。女性は名前の確認を執拗に迫る男の様子から、本当に警察官かどうか、疑念を持ったということです。ここでのやりとりについて、鈴木課長は女性の機転が被害を防いだと指摘し、ぜひ、参考にしてほしいと訴えています。
家族に確認を求めてくる男に対し、女性が切り返した「かけなおしていいですか」。これは、すばらしい対応です。特殊詐欺の被害を防ぐには、通話を続けないことです。通話を続けると、不安があおられ、正常に判断できなくるおそれがあります。詐欺グループの思うつぼにはまってしまうのです。現金の被害が防げても、個人情報を聞き出されてしまうおそれもあります。警察官を名乗っている場合は、一旦電話を切って、警察署に相談して下さい。銀行や郵便局を名乗る電話の場合も同じです。是非、実践して下さい。
最後に、鈴木課長は特殊詐欺への対策だけでなく、自宅の防犯対策も改めて点検してほしいと訴えています。
今回の不審電話は氷山の一角でほかにも多く発生している恐れがあります。電話が自分にもかかってくるかもしれないと危機感を持っていただきたい。そして、自宅の施錠の確認やインターホンの設置などの防犯対策を改めて点検し、不安を感じたらすぐに警察に通報してほしいです。
電話を受けた70代の女性は「狛江の事件を連想してしまい、電話を終えたあとも、男たちが訪問してくるのでは、殺されてしまうのではと、恐ろしくてたまらなかった」と話していました。鈴木課長も指摘していましたが、犯罪グループは社会情勢に応じて手口を変化させ、人の弱みにつけ込み、ことば巧みにだまそうとしてきます。
実際に音声を聞いていただければ分かりますが、犯人の落ち着いた口調はわたしも警察官であると信じてしまいそうになるほどです。電話は留守設定にするなど、出ないことが一番ですが、もし、こうした電話に出てしまった場合でも落ち着いて対応ができるよう、お金や家族構成の話は絶対にしない、電話に表示されている相手の番号を確認するなど事前に自分でルールを決めておくのもひとつの手です。
また、だまされないためには手口を知っておくことも大切です。この記事を読んでいない知り合いの方にもぜひ手口を紹介してあげてください。