大相撲の元力士が新型コロナの緊急事態宣言が出されていた2021年1月、感染への不安から休場を希望したにもかかわらず認められず、引退を余儀なくされたとして日本相撲協会と親方に対し慰謝料などの支払いを求める訴えを千葉地方裁判所松戸支部に起こしました。
訴えを起こしたのは松戸市にある佐渡ヶ嶽部屋の元三段目・琴貫鐵の柳原大将さん(25歳)です。
訴えによりますと新型コロナの緊急事態宣言中に開かれた2021年の初場所について、心臓に疾患があったため感染への不安から佐渡ヶ嶽親方に休場を申し出たところ、日本相撲協会から「コロナが怖くて休場するのは認められない」などと拒否され、引退を余儀なくされたということです。
(会見資料による)
新型コロナウイルス感染症のまん延
令和2年春ごろ 新型コロナウイルスのまん延がはじまる
5月 当時28歳の力士(勝武士)が新型コロナウイルス感染症により死亡
10月ごろ 重症化リスク・死亡リスクが従来より高いとされるデルタ株の感染が広がり始める
令和3年1月7日 2回目の緊急事態宣言が発出
原告による休場願いとその拒否
8日 相撲協会が無観客で一月場所を開催することを発表。所属する力士たちに同場所に参加することを求めた。両国国技館までは従来通りの方法(原告にとっては電車)で来るように指示をした。同日、新型コロナウイルス感染症の恐怖から、原告は親方に休場を申し出たところ、親方は協会と相談する旨述べる。
9日朝 親方から、相撲協会はコロナが怖くて休場は認められないとの判断をしたことを告げられる。これを受け、原告が「休場できないということは、無理して出場するか力士を辞めるかということですか。」と聞くと、親方は、「そうだな。もう出るか辞めるかしかないな。」と答えた。原告は、引退はしたくなかったのでいったん回答を保留して悩んだが、翌10日には初場所が始まるため考える時間は少なかった。最終的には、自分の命には代えられないと考え、引退を決意した。
(会見資料による)
①引退に至る経緯について
・相撲協会は、力士から感染への不安を理由に休場の申し出があった場合、当該力士に関する個別の事情や心情を丁寧に聞き取り、休場を認めるか否かを慎重に判断する義務があったのに、そのような配慮は一切せず、感染への不安を理由とした休場は認められないとした。
→相撲協会には義務違反がある
・親方は、未成年者を含む多くの若者を預かっており、稽古だけでなく生活全般にわたって指導を行う立場にある。親方は、原告が基礎疾患を抱えていることを知っていたのだから、原告による休場申し出の理由である感染への不安が合理的なものであると認識していた。しかし、親方は相撲協会に対し、原告が不整脈という持病(基礎疾患)を持つことを伝えるなど、個別の事情や心情を説明して、原告について休場を認めるよう申し入れる義務を追っていたが、そのようなことをした形跡はない。
→親方には義務違反がある
②親方による不適切指導など
・変色し、異臭もする肉を食べることを強要したこと
佐渡ヶ嶽部屋にタニマチから高級肉の差し入れがあり、親方や関取で食べることになった際、親方が、冷蔵庫から賞味期限が5年以上も過ぎており、変色し、異臭もする肉を出してきて、幕下以下の力士に対し、その肉を食べることを強要した。
・汗ふきの乾燥費用を、原告を含む三段目以下の力士に負担させた
稽古中に汗を拭くためのタオルが大量に必要となるが、乾燥が間に合わなくなる時に親方は、三段目以下の力士に対し、コインランドリーで乾燥するよう命じた。しかし、かかる費用を力士に負担させていた。乾燥費用は1回あたり約1000円で、福岡場所の際は、宿舎近くにコインランドリーがなく、タクシーを使用せざるを得ず、約6000円かかった。
→収入の少ない力士を搾取する行為で、搾取した金額以上の損害を与えるものである
③餞別金の支払いについて
・「退職金、功労金、養老金等の支給に関する規定(案)」には、序二段に15場所以上在位していたものには餞別金7万円を支払うことができると規定があるにもかかわらず、支払われていない
④積立金、旅行積立金の控除について
・佐渡ヶ嶽部屋では、相撲協会から支払われた場所手当から、積立金1000円と旅行積立金1000円が控除されていた。これらの控除について、原告は説明を受けたことはなく、また同意もしていないが、入門当時中学校卒業直後だったため、異議を述べることもなく控除され続けていた。
柳原さんは、日本相撲協会と佐渡ヶ嶽親方に対し、慰謝料などとしてあわせて410万円余りを支払うよう求めています。
正直、これだけではないことがいっぱいあったんですが、部屋にいる力士たちがいまだに同じような扱いをされていることに関して、僕はすごい心苦しいというか、憤りを感じているところがあったので、今回こうやって裁判を行うことになりました。これをきっかけに相撲協会の内情や、部屋の力士に対しての待遇が少しでも改善したらいいなと思っています。
訴えを起こされたことについて、日本相撲協会は「訴状が届いていません」とコメントしています。