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ウクライナ侵攻1年 鎌ケ谷市に避難したオルガさんはいま

  • 2023年02月27日

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって、2月24日で1年となりました。首都・キーウから鎌ケ谷市に2人の幼い息子とともに避難してきたオルガさん。身寄りもなく、日本語もほとんど分かりませんが、明るく力強く日々を過ごしています。オルガさんの明るさにひきつけられるように、支援の輪が広がっています。

(千葉放送局成田支局記者 櫻井慎太郎)

「子どもが安全に過ごせる国に」

2022年10月に千葉県鎌ケ谷市に避難してきたのは、ナセドキナ・オルガさん(33)と長男のヤコブくん(6)、次男のペトロくん(3)の3人です。

オルガさんは日本に身寄りもなく、日本語もほとんど分かりません。しかし、「子どもたちが平和に過ごせる国」として日本を避難先に選びました。

出入国在留管理庁が行う自治体などとのマッチングで、オルガさんは「都心に近いけれど、大きすぎず住みやすい場所」として鎌ケ谷市を選びました。市は身元保証人なしで市営住宅と家財道具を無償で提供したほか、保育園の利用も支援するなどしています。

小学校で教えるオルガさん(写真提供:鎌ケ谷市)

さらに12月からは市の会計年度任用職員として働き始めました。市の広報紙にウクライナを紹介するコラムを書いたり、小学校で子どもたちに英語を教えたりしています。

「息子たちの命が自分の判断にかかっていた」

講座で話すオルガさん

侵攻から1年を前にした2月21日。オルガさんが講師を務める市の講座が開かれ、集まった20人の参加者にウクライナの現状などを伝えました。

オルガさんは、ロシアのミサイル攻撃が相次いで避難してきた経緯を説明した上で、「混乱の中で、子どもたちの命が自分の判断にかかっていて、とても怖かった」と話しました。

また、2014年にウクライナの領土の一部がロシアに一方的に併合された歴史なども踏まえながら、ウクライナが徹底して抗戦する理由を説明していました。

参加者からの質問も相次ぎ、1時間の予定だった講座は2時間近くに及びました。

参加した男性

「ウクライナの現状を知ってほしいという真剣な気持ちが伝わってきました。1年がたって慣れてきているところもあるので、何か支援ができないか改めて考えたい」

オルガさん

「私たちの気持ちに寄り添って、痛みを共有してくれたと思います」

「早く戦争が終わってほしい」

オルガさんは週に3日から4日、市役所で働いています。休日には、子どもたちと遊んだり、ウクライナの避難民の集会に出席したりしているということです。

オルガさん

「とても安全で人々も優しく、日々を楽しめています。子どもたちも保育園でのびのび過ごしていて、うれしい」

一方で、ウクライナにはオルガさんの夫と両親が残っています。侵攻から1年がたったことや家族について聞くと、オルガさんの顔は暗く沈みます。

オルガさん

「1年という長い時間がたったことが信じられないし、あまりに多くの命が奪われました。危険な場所に残っている夫や両親を心配しています。早く戦争が終わってほしい」

支援の輪が広がる

出入国在留管理庁によりますと、ウクライナから日本に避難している人のうち、オルガさんのように入国時に身寄りのなかった人は、2月22日の時点で全体のおよそ1割にあたる235人いました。このうち215人は各地の自治体などとのマッチングが成立して、自治体が住宅の提供などの支援にあたっています。

鎌ケ谷市 芝田裕美市長
「身寄りがあってもなくても支援しようと受け入れを決めました。市だけでなく市民から日用品の寄付などもあり、温かい支援の輪が広がっています」

オルガさんへは、市を通じておよそ20件の寄付が寄せられています。保育園の保護者からは子ども服が贈られています。市の職員有志から寄付された電動自転車も気に入って、出勤や保育園の送り迎え、休日のお出かけなどに利用しているということです。このほか、地元の朝市組合から月に1回、野菜などの提供を受けていて、子どもたちも地元の野菜が大好きになったということです。

さらに、オルガさんが寒い日に素手で自転車をこいでいると、見知らぬ女性が自分の手袋を脱いで手渡してくれたこともあったということです。

オルガさん

「手袋も温かく、心も温まって、とてもうれしかったです。
鎌ケ谷市や市民のみなさんの支援に感謝しています」

取材後記

去年10月の最初の取材の前は、身寄りのない避難民ということで、暗く沈んだイメージを勝手に抱いていました。しかし実際に会ってみると、オルガさんは明るく力強く、質問にも時折ユーモアを交えて答えていました。今回の取材でも、市役所の職員や講座の参加者も明るくするほど元気な姿があり、ヤコブくんもペトロくんもすてきな笑顔を見せてくれました。

一方で、オルガさんがウクライナの戦況や家族の話をするときは、とても深刻な表情になり、ふだんの明るさとの落差が胸をつきます。侵攻開始から1年が過ぎて、多くの避難民が日本に来ていて、決して遠くの戦争ではないと改めて感じました。引き続き、身近なところからウクライナ侵攻について伝えていきたいと思います。

  • 櫻井慎太郎

    千葉放送局成田支局

    櫻井慎太郎

    2015年入局。千葉県政担当を経て、2022年8月から成田支局。

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