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贈賄業者から顧問料 エクモ贈収賄事件 初公判を詳報 千葉

  • 2023年02月27日

新型コロナ治療に使う人工心肺装置=ECMOの納入を巡り、東金市にある病院の技士長が収賄の疑いで逮捕・起訴された汚職事件。先週、その裁判の初公判が行われました。業者側との不適切な関係など贈収賄に至ったいきさつが明らかになりました。

(千葉放送局記者 荻原芽生)

事件の概要は

起訴されているのは2人。
東金市にある「東千葉メディカルセンター」の臨床工学技士長の吉野英樹被告(63)と
東京・豊島区の医療機器販売会社の社長だった真々部良輔被告(63)です。

2人は、2年前の2021年3月、ECMOの納入を巡り、元社長の会社を仲介するよう便宜を図った見返りに現金100万円を授受したとされています。 

東千葉メディカルセンター

技士長は人工呼吸器など高度な医療機器を扱う専門部署、臨床工学部のトップで、当時、病院がECMOを選定するため設置した会議のメンバーを務めていました。

「東千葉メディカルセンター」は東金市と九十九里町が設立した地方独立行政法人が運営する病院で、職員は公務員とみなされるため、贈収賄の罪に問われています。

裁判で明らかになったのは

初公判は技士長が先週21日、元社長が22日に千葉地方裁判所で開かれました。2人はそれぞれ「間違いありません」と述べ、起訴内容を認めました。

初公判が開かれた法廷 千葉地裁

検察側は不正は技士長が発案・計画し、業者側が了承・協力したと主張し、弁護側も概ね認めました。法廷でのやりとりから、不正の構図や背景が明らかになりました。

○不正な便宜とは
技士長は2021年9月頃、千葉県の補助金制度を利用して、エクモ一式を導入することを決め、病院との取り引き実績のあるディーラーA社から購入することに決めます。

通常であれば、A社はメーカーからエクモを調達し、病院に納入することになりますが、ここで、技士長は、不正を計画。A社とメーカーの間に、仲介役として知り合いの業者を入れ、200万円の利益を得させた上で、このうち100万円を自分に還元させようとしたのです。この知り合いの業者が、後に贈賄の罪で起訴されることになる豊島区の医療機器販売会社でした。

技士長はその後、A社に指示し、このスキームで購入することになりましたが、誤算が生じます。見積もりを取ったところ、購入価格が想定より低くなったため、仲介利益が117万円しか得られないことがわかったのです。

しかし、技士長は、2台目のエクモを同じスキームで納入すれば、十分な仲介利益が得られると判断。予定通り、業者に見返りの100万円を要求することを決めたということです。

○不正の背景 2人の関係は 検察は“不適切”
2人の関係は単に医療機器を発注する側と受注する側というものではありませんでした。
検察側が不適切だと指摘したその関係とは・・・。

技士長は以前、医療機器販売会社に勤務し、営業を担当していたこの時期に、贈賄側の元社長と知り合っていました。2015年頃からは飲食をともにする仲に発展。

こうした中で、2019年4月、技士長が東千葉メディカルセンターの臨床工学部のトップとなる技士長に起用されます。

一方、元社長はその半年後の2019年10月に、勤務する会社の社長に就任。経営状況が悪く、技士長に相談するようになります。

そして、2020年4月、技士長と会社は営業活動に対する助言などを業務内容とする顧問契約を締結。7月からは毎月25万円の顧問料が支払われていました。

つまり、発注する側が受注する側にも立っていたという構図です。さらに今回のエクモの納入は、随意契約でした。

法廷では、検察官が不適切な関係だと指摘したのに対し、技士長は、病院の当時の総務課長に許可を得ていて正当だったと主張しました。

検察官

不適切な関係だ。

技士長

病院の当時の総務課長に許可を得ていた。ただし、許可を得た時期は顧問契約を結んだ時期ではなく、技士長として起用される1年前だったと説明しました。当時、医療関係のコンサル会社を経営していて、病院側には、今後もコンサル関係の報酬が発生した場合は受け取る考えがあることを伝え、了承を得ていたと主張しました。

技士長の説明について、裁判のあと、病院に取材すると「書類が残っておらず、把握していない。病院には『業務に専念しなければならない』という職員規定がある」としている。

○わいろは“協賛金”で処理 隠ぺい工作か
裁判の中で、唯一、検察と技士長、それに元社長の3社の主張が対立した場面がありました。わいろの授受に関するやりとりです。
まず、認めている点からまとめます。

・技士長が元社長に100万円を要求した。
・元社長は部下に指示し、技士長の銀行口座に100万円を振り込ませた。
・100万円は技士長などが作る病院有志のグループへの協賛金として経理処理されていた。

検察官

この経理処理は、わいろを隠す隠ぺい工作で、指示したのは技士長だ。

これに対し、技士長と元社長がそれぞれ反論、対立したのです。 

技士長

自分は指示しておらず、元社長からの提案だった。そもそも隠ぺいにあたらない。

元社長

協賛金としたのは、わいろを会社の経費から捻出するためで、あくまで名目、建前だった。社外のグループなどに協賛金として資金を寄付することは過去にあり、技士長はこの方法を使うよう提案してきた。さらに、協賛金を出してほしいという自作の申込書を渡してきた。

ちなみに、受け取った100万円について、技士長は生活費に使ったと説明しています。

求刑、そして被告は

【検察の求刑】
技士長に懲役1年6か月、追徴金100万円
元社長に懲役10か月

○技士長に対し

検察官

エクモの購入費が貴重な税金を財源としていることを顧みず、生活費欲しさに不正を計画した上、隠ぺい工作まで図るなど非常に悪質だ。公務員への信頼を害するもので、責任は重い。

懲役1年6か月と追徴金100万円を求刑します。

技士長

モノを売ったら利益がでるという医療機器販売会社時代のおごりがあった。冷静に考えれば、おろかで軽率だった。周囲の迷惑も考えずに、このような事件を起こし、恥ずかしく申し訳なく思っております。

○元社長に対し

検察官

親会社から売り上げ目標の達成を強く求められていたとはいえ、会社の利益を得るためという動機に酌量の余地は乏しい。賄賂を捻出するため不正な会計処理を行い、隠ぺいを図るなど、技士長の計画に加担した責任は厳しく問われるべきだ。

懲役10か月を求刑します。

元社長

社長に就任以降、業績が上向かず、売り上げに対する欲が勝ってしまった。正常な判断ができなかった。この業界が長い自分がこのような事件を起こし、深く反省している。若い人にも今後このようなことは起こしてほしくないので、この立場からできることをしていきたい。

2人の弁護士は、罪を認めて反省しているとして執行猶予の付いた判決を求めました。

判決は3月13日と30日

言い渡し予定
技士長・・・3月13日
元社長・・・3月30日

  • 荻原芽生

    千葉放送局

    荻原芽生

    事件事故や司法取材を担当

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