藤井聡太五冠と羽生善治九段との「王将戦」で注目が高まっている将棋。
千葉県習志野市に、去年、中学生の将棋大会で全国制覇を果たした中学2年生がいます。
中学最後の年を迎えることしは、個人での連覇を狙うとともに、将棋への向き合い方を変えるきっかけをくれた仲間と一緒に、団体戦での日本一を目指します。
(千葉放送局記者 金子ひとみ)
習志野市に住む中学2年生の美濃島檜さん(みのしま・ひのき 14歳)は、去年(2022年)7月、中学将棋界で最高峰の大会と言われる「中学生将棋名人戦」で、出場者149人の頂点に立ちました。
これが『中学生名人』になったときの盾です。まさか優勝できると思ってなくて、優勝直後は実感がわかなかったんですけど、今になって、『自分、優勝できたんだな』って実感して。目標だったので、すごいうれしいですし、自信にもなりました。
実戦を重ねるだけでなく、本による戦法の研究にも時間をかけるのが檜さんのスタイル。本棚には、ずらりと将棋の本が並んでいます。
相手の攻めを受けきった上で反撃する『四間飛車』というのが自分の得意戦法で、それについての本は繰り返し読んでいます。本だと疑問が出たときに読み返すことができる。自分の考えと違ったところ、なるほどなと思ったところにマーカーをひいています。
檜さんと将棋の出会いは小学1年生のころ。誕生日に親にリクエストして、子ども向けの将棋を買ってもらったのがきっかけで、1つ下の弟・紡(つむぐ)さん、3つ下の弟・粋(すい)さんとともに、のめりこんでいきました。
もともとパズルが好きだったんですけど、買い物に行ったときに『これが気になる』と僕がお父さんに言って、買ってもらいました。毎日やってたような感じです。ほかのパズルだとお父さんに勝てないけど、将棋だとお父さんも勝ったり負けたり五分五分で、年齢関係なく楽しめるのが魅力的でした。
ずっとあこがれの存在だったのが、藤井聡太五冠です。2017年、中学3年生だった藤井四段(当時)が、将棋の公式戦29連勝という歴代新記録を樹立した対局。
小学3年生だった檜さんは、弟の紡さんらとともに、当時住んでいた札幌の将棋教室で、戦局を追いながら、展開を議論していました。夢は、兄弟でプロの棋士になることでした。
藤井四段みたく連勝して、連勝記録1位になって活躍したいです。
しかし3年前の小学5年生の冬、壁に直面します。新型コロナウイルスの影響で、目標としていた大会が次々と中止になりました。
自分より後に将棋を始め、今は奨励会入りしている弟・紡さんに負けることも増え、将棋から離れるようになり、プロになりたいという思いも消えていきました。
今回こそ優勝したいと目指していた大会がどんどん中止になって、目標がわからなくなってしまって。弟にも大会で負けるみたいなことが結構あって、僕の方がお兄ちゃんなのに弟のほうが将棋強いというのが悔しくて、自分は将棋ではなく、ほかのことでがんばろうかなという気持ちになっていきました。
檜さんの転機となったのは、2021年春、中学へ入学したことでした。
「もう一度やってみたくなった」と将棋部に入部。小学生のときはあくまでライバルとしてしか見ていなかった同年代が、戦法を議論したりアドバイスしあったりする仲間でもあることに気づきました。
AIを取り入れた研究にもいっしょに取り組んでいます。かつては孤独に向き合ってきた将棋が、仲間とともに楽しむ存在へと変化していきました。
小学校のころは、ずっと1人でこもってやってる感じだったんですけど、将棋部で仲間がいることで、ここってどうかなと相談できたりして。経験値が積み重なっていって、あらたに得意戦法ができるみたいな感じです。仲間なので、自分のダメなところとか弱点についても聞きやすいんです。
去年の将棋名人戦決勝戦でも、部活で戦法研究していたのと同じ局面が出てきて、議論がうまく刺さりました。それもあって優勝できたと思っていて、仲間にはすごく感謝しています。
中学最後の年となることし。個人として連覇を狙いながら、もうひとつの目標ができました。それは、自分を高めてくれた仲間とともに団体戦で満足のいく成績を残すことです。
檜くんはすごく粘り強くて、戦法も詳しいし、団体戦とかのときは本当に頼れると思ってます。団体戦でいい結果残せるようにがんばりたいです。
(檜さんは)将棋部の部長ですけど、将棋でもそれ以外でもすごく優しくて、憧れる存在です。僕と部長は同じ戦型なので、とっても勉強になっています。遠い道のりかもしれないけど、優勝とか目指したいです。
去年、団体戦では、あと一歩で全国大会出場というところで負けてしまったんです。ことしは、個人戦で中学生名人を連覇するのは目標なんですけど、団体戦でも全国で活躍、全国制覇できるようにしたいです。
一生涯、将棋を続けていきたいという檜さんにこの1年、将棋にどんな気持ちで向き合うか書いてもらいました。
美濃島檜さん
「楽しむの『楽』という字です。連覇だからと言って勝たなきゃという気持ちではなくて、友達とかと楽しみながらポジティブに将棋にことしも向き合えたらなと思います」
1月12日にテレビで檜さんのことを紹介したあと「弟の紡くんや粋くんのことももっと知りたい」との声をいただきました。紡さんは、去年夏、日本将棋連盟の棋士養成機関「奨励会」入りを果たし、プロ棋士を目指して活動しています。「お兄ちゃん(檜さん)はライバルでもあるので、家で将棋の話はしません。僕は終盤の寄せが得意です」と話していました。末っ子の粋さんは、音楽好きで、ギターや歌に打ち込んでいます。毎週日曜日の将棋番組は、今も3人揃って欠かさず見るということです。
子を持つ親として、美濃島3兄弟の母、晶子さんに、「何か特別なことをしたのですか?」とか「こだわって買い与えたおもちゃはありますか?」などと矢継ぎ早に聞きましたが、晶子さんは「ええーなんだろう、特に思い当たらないです。周りの人たちに恵まれてきたんです。今は思春期で難しい年頃なので、細かく言うこともあまりないです」との回答でした。子どもを「じっと見守って応援する」ことの大切さを感じたのでした。