木更津市にある「木更津看護学院」で、学生の退学が相次ぎ、学生側からハラスメントを訴える声が複数寄せられた問題で、12月28日、学校側が第三者調査委員会から受け取った報告書について記者会見を行い、ハラスメントがあったことが認定されたことを明らかにしました。
木更津市にある「木更津看護学院」は、昭和15年に地元の君津木更津医師会が設置した、准看護師を養成する2年制の学校です。君津・木更津地区唯一の准看護師教育施設として、地域の看護師不足に貢献しています。
去年(2021)4月に入学した学生の退学が相次ぎ、ことし(2022)2月までに全体のおよそ4割にあたる15人が学校をやめました。
学校側は、退学はいずれも経済的な理由など、生徒側の都合だとしましたが、千葉県庁に「先生から人格を否定された」など、ハラスメントを訴える声が複数寄せられました。
このため学校では、指導に問題がなかったかなどについて調査を行うことを決め、ことし4月下旬から、弁護士や学識経験者などでつくる第三者委員会に調査を依頼していました。
この第三者委員会から調査報告書が出たため、学校側は28日、19時半から1時間あまりかけて記者会見を開きました。
第三者委員会では、看護学院で50代と40代の女性教員から学生に対し、以下のハラスメント行為があったと認定しました。
①記録を床に投げつける、怒鳴って指示をする等の指導時における威圧的態度
②定員割れしている学校の生徒だから低レベルだ等と生徒を馬鹿にする言動
③生徒の出身校を馬鹿にする言動
④身体的特徴等生徒の容姿をからかう言動
⑤看護師に向いていない、辞めた方がいい等と生徒の人格を否定する言動
⑥実技指導の合否の判断が教員により異なり、また、教員が気に入った生徒か否かでも合否の判断が異なっていたこと
⑦具体的な指導を行わず、闇雲に記録の再提出を繰り返し求めたこと
そのうえで、ハラスメント行為が行われた背景と原因を以下のように分析しています。
【准看護師と准看護師学校養成所の現状】
▽一般的に、准看護師入学者数は減少傾向にあり、准看護師学校養成所での志願者の確保が難しくなり、養成所数の減少につながっている。
▽准看護師学校養成所の閉校に伴う教員のストレス増加や、養成所の教員を目指す人材が減少している可能性がある。
▽一方で、入学者は中高を創業した思春期の生徒から、社会人経験のある生徒まで、その年代や看護への志、学力などが多様になっている。
▽これらは、ハラスメントが起こりやすい状況を生じさせていると考える。
【資料や聞き取り調査から把握した、看護学院でハラスメントが生じた背景】
《生徒の現状》
▽志願者の減少で、受験倍率は年々低下しており、面接評価D、科目得点に0点を含む受験生を含め、全員に入学許可を出していることもあった。
▽近年明らかに留年、休学、退学者が増加しており、全国平均(20%程度)と比べても高い。
→以前に比べて学力の低い生徒を受け入れている状況が、ハラスメントに影響を与えたと考えられる。一方で、入学時や在学中に成績の上位を占めていた生徒もハラスメントを訴えているため、生徒の学力の低さによる影響力は明らかとは言えない。また教員は、准看護師であっても、就職後は看護師と同じような仕事を求められる現状をふまえたとしていたが、学力の低い生徒に対して丁寧で段階をふんだ教育ではなく、厳しい試験や厳しい指導を行ったことがハラスメントにつながったことも考えられる。
《学院の教員・教育の現状》
▽教員の入退職が多く、主任不在の年度もあった。
▽指導指針や指導マニュアルなどが存在しなかった。申し送りも行われていなかった。
▽授業評価アンケートの運用基準やマニュアルがなく、実施結果やアンケート結果を受けた教育の改善はなかった。
▽聞き取り調査の結果、看護学院の教員は、以前は卒業生などの縁故に基づき採用をしていたためか、もめ事が多く対応が大変だったことがわかった。
→教員間の関係性がよいとは言えず、看護学院全体で教育を改善する取り組みが行われにくかったと考えられる。令和2年度には教務主任が不在となり、資料も廃棄されたなかで、カリキュラム変更に伴う準備などが求められ、教員のストレスが高い状況にあったと推認される。また2名の教員(今回ハラスメントを行ったと認定された教員)は、専任教員として在職期間が長く、学校長からの信頼も厚いため、教員のなかでも強いパワーを持っていたと推認される。
《看護学院でのハラスメント対応》
▽平成19年ごろから、生徒や家族、所属病院からのクレームが増えた
▽平成24年からスクールカウンセラーが導入され、6年間在職したが、教員との交流がなかった
▽平成28年には、スクールカウンセラーから学外での指導について、「教員のマニュアルを作成し、どの生徒に対しても指導内容が均一になるように工夫して欲しい」という提言があったが、指導マニュアルや指針は作成されなかった。
▽ハラスメント相談委員会はあったが、委員会の開催実績はなく、学内で行われた研修は令和3年の1回だけだった。
→組織としてハラスメント防止やハラスメント対応に取り組む姿勢が欠如していた。
会見では、報告書の内容が説明されたあと、重城利國 校長と天野隆臣 君津木更津医師会長が、それぞれ学院・医師会として何をするかについて話しました。
【重城校長】
▼校長および2人の当該教員は、在籍中の学生に不利益が生じない範囲で速やかに、現在の職を退く。校長は12月で退職。
▼就業規則に生徒とへのハラスメント防止規定を盛り込んで周知を行う。
▼外部有識者が入り、ハラスメントへの公正な対応が可能となる仕組み・制度を構築する。学生に制度を周知し、安心して利用できる仕組みをつくる。
▼職員に定期的に研修を行う。
▼どの生徒に対しても指導内容が均一になるよう、マニュアル・指針の策定、授業評価の導入、改善を進める。
【天野医師会長】
▼これまでは校長に頼りすぎていたが、今後は、医師会の副会長が校長となるなど、学院の状況を医師会全体で把握する体制で取り組む。事態に迅速に対応できるようにする。
《木更津看護学院のここ最近の在籍生徒数と退学者数(すべて1年次)》
在籍生徒数 2019年度:41人 2020年度:36人 2021年度:40人 2022年度:29人
退学者数 2019年度:6人 2020年度:9人 2021年度:15人 2022年度:5人
《ハラスメントを行った教員について》
・ハラスメントが認定されたのは、40代女性と50代女性のあわせて2人の教員
・アカデミック・ハラスメント、パワー・ハラスメント、モラル・ハラスメント、いずれにも該当すると考えられる
・2人とも在職中だが退職願が出されていて、受理することになる。事実上の諭旨退職
《生徒側について》
・ハラスメントを受けたと認定された生徒の数や、件数は出ていない
・ハラスメントが原因で辞めた人がいるのは事実だと思う。ただ、授業料が払いきれないとか妊娠したとか、本人が自主的に退学したり家庭の事情があったりという方もいた
・こちら側に否があるということで、復学したい、改めて勉強したいという人はぜひ積極的に受け入れていきたい。責任を問われることがあれば、真摯に対応していきたい
それぞれの受け止めは?
第三者委員会の報告で、初めて、ハラスメントがあったのだと認識しました。こういう評価が出てしまい、本当のところを私がわかっていなかったのかなと反省しています。
2人は教育に関してはすごく熱心で、かなり強い意志をもってやっていました。今考えるとそれがパワハラになったのかなと残念に思います。まさかこんな人格を否定することを言うことはないと信じていました。パワーハラスメントが原因で辞めた生徒に対しては非常に申し訳ないと思っています。
学院の運営について、校長以下、組織に任せっきりにしていたのが大きな反省点です。医師会の執行部がしっかりと入って、管理・指導をして、体制を固めていきたいです。あらゆる手を使って新しい教員を募集し、ハラスメントのない看護学校を作っていきます。
看護学院は、19日に千葉県への報告を済ませ、年明けなるべく早い時期に、在校生や周辺自治体に説明をしたいとしています。
准看護師とは、病院やクリニックで診療補助を行ったり、介護施設などでサポートを行ったりする医療従事者です。准看護師になるには都道府県知事が発行する免許が必要となります。
手術の補助やカルテの入力、患者の食事や入浴補助など、基本的に看護師と仕事内容はほぼ同じですが、看護師が自分の判断で看護業務を行うことができるのに対し、准看護師は、看護師や医師の判断を聞いて、それに合わせて業務を行うことになっています。
日本准看護師連絡協議会によりますと、准看護師を養成している看護専門学校養成所は全国に182校あり(2022.09.30現在)、千葉県内には4つです。
報告書では、木更津看護学院について、「君津・木更津地区唯一の准看護師教育施設として、地域の看護師不足に貢献してきた」としています。
この問題については、県議会でも取り上げられてきました。
ことし9月の定例会で、県の保健医療担当部長は次のように答えています。
▽令和3年度に入学した学生の15名が自主退学したことは県でも承知していて、退学した元学生の将来や看護職員の養成への影響などについて憂慮している。
▽県では、令和3年10月以降、木更津看護学院に関する相談を複数受け、令和3年12月17日に指導調査を行った。その中で校長や教員、事務局長から聞き取りなどを行ったところ、相談のあった内容については確認できなかった。しかし、県に相談があったことや国のガイドラインを踏まえ、学生が相談できる窓口や体制の整備を行うよう指導した。その結果、2022年7月にスクールカウンセラーを配置したとの報告を学院から受けている。
▽令和元年度から令和3年9月までの2年半の間に、木更津看護学院に関する相談は4件あった。具体的には、生徒間でトラブルが生じたが学校で対応してもらえなかった、また、教員が不足しているのではないかといった内容だった。その中で、教員の指導時の口調等について、パワハラではないかと訴えたものが匿名で1件あり、これについては学院に対して情報提供し、対応を依頼した。
▽県としては、教育現場で教育上の地位や権限、優位性を利用して勉学の意欲や環境を著しく阻害したり、職務を逸脱して精神的、肉体的な苦痛や困惑を与えたりすることはあってはならないものと考えている。
▽君津木更津医師会が設置した第三者委員会で現在、ヒアリング等を含めた調査、検証が進められ、年内に調査結果を取りまとめ、公表すると聞いている。県としては、その調査結果を踏まえた君津木更津医師会の対応を注視したいと考えているが、そのほかにも委託事業として実施しているナースセンターの窓口等に相談があれば、適宜対応していく。