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記録的円安「研究への影響も懸念」千葉大学は

  • 2022年12月19日

記録的な円安が続き、小麦や大豆など食品から電気やガスのエネルギーまで。なにかと輸入に頼る日本では値上がりするものばかりです。
円安は、アカデミアの分野にも影を落としています。千葉大学では、電子版の学術雑誌の海外分の購読料が負担となり、来年度、600タイトル以上が購読中止などで読めなくなる状況に。研究活動への影響も懸念されています。

(千葉放送局記者 金子ひとみ)

電子ジャーナル「値上がり」続き…

千葉県内5か所のキャンパスに、およそ1万4000人の学生が在籍する国立の千葉大学。3つの図書館には、国内外の図書や雑誌、電子書籍に電子ジャーナル(電子版の学術雑誌)まで135万冊(種類)以上の蔵書があります。

千葉大学ウェブサイトより

このうち、近年値上がりする一方なのが、1万9000タイトル以上ある海外の電子ジャーナルです。

千葉大学附属図書館 鈴木宏子 利用支援企画課長
「海外の電子ジャーナルは10年以上、高騰し続けています。海外出版社との契約ですが、『世界的に研究論文の数が増大して、取り扱い量が増えるから値上がりを余儀なくされる』という説明を受けています。研究が活発化するのはいいことだと思いますが、値上がり率が毎年5%以上と大きいのです」

円安が追い打ち 一部「購読中止」も

大学では、複数年の契約で購読料を抑えたり、一部の購読を取りやめたりして対応してきました。
しかし、ことしに入っての記録的な円安の影響で、来年度はこれまで以上に値上がり幅が大きくなる見通しです。購読中止や契約形態の変更により、来年度、600タイトルから700タイトルほどの海外の電子ジャーナルを読めなくなるということです。

鈴木宏子 課長

為替はしかたない部分もあるのですが、ことしはその影響が大きいです。毎年の値上がりに円安の為替レートも影響してくる。予算に限りがある中で電子ジャーナルの維持が非常に大変になっています。これまで読めていた雑誌が読めなくなることでの研究への影響は少なからずあると思います。

大学では、読めなくなった電子ジャーナルに掲載された論文を読みたい場合、他の大学の図書館などから取り寄せる際のコピー代や郵送代を大学側が負担したり、無料で見られる「オープンアクセス」の論文の利用を推進したりするなどの対応を取っています。

男子学生

「今は図書館を利用するぶんには、お金を使うことがなく、円安の影響を感じることはありません。ただ、大学が資料を買えなくなることで、提供する授業の質が落ちてしまわないか、学生としては懸念しています。千葉大学の図書館は、蔵書数、システムなど魅力があります。教育の質はいちばん大事だと思うので、今後も維持してほしいです」。

女子学生

「まだ1年生であまり使ったりはしないから実感はしてないんですけど、学年が上がるにつれて、使う機会も増えると思うので、大変だと思うんですけど、いい環境を守ってもらえたらと思います」。

「オープンアクセス化」に活路

論文のオープンアクセス化をめぐっては、国内のほかの大学でも動きが起きています。
東北大学と東京工業大学、総合研究大学院大学、東京理科大学の4つの大学は、ことし1月、アメリカの学術出版大手のワイリー社と、ある覚え書きを結びました。

4大学などのプレスリリース

この覚え書きは、これまでは別々に支払っていた電子ジャーナルの購読料と、論文の投稿料を、ひとつの契約としてまとめて支払うというものです。

2つ合わせての契約、かつ、4つの大学が参加しての「まとめ買い」ということで、大学側にとって、通常よりも有利な契約条件を引き出すことができるのです。世界ではこういった契約がすでに広がりつつありますが、まだ日本では浸透していません。

またこの契約では、1400タイトルの電子ジャーナルについて、論文を投稿した研究者自身が、その論文をオープンアクセス化する権利を得ることになっています。論文をオープンアクセス化することは、投稿した側からすると世界で広く読んでもらったり、引用されたりする機会が増えたりするメリットがあるのに加え、無料で読める論文が増えることで、結果的に大学側の購読料の負担が減る状況を作っていくことにもなります。

鈴木宏子 課長

「こういった契約は『転換契約』と呼ばれています。オープンアクセスの論文の投稿料とジャーナルの購読料をあわせた契約をすることで大学全体の支出を縮小するという契約です。千葉大学でも検討していく予定です。オープンアクセスが進むと、購読にだけ頼らずに、研究環境、論文を読める環境を維持できるので、高騰に対する直接的な対策になるわけではないですが、オープンアクセスを推進するのは非常に意味のあることだと考えています」。

取材後記

円安の影響が出ているものを伝えたいと現場を探していますが、大学の研究に関わるところにも及んでいると知ったときにはとても驚きました。20年前の自分の大学時代を振り返ってみると、外国の電子ジャーナルを目にした経験がなく、課題図書を読むので精いっぱいだったからかもしれません。
研究に打ち込む大学院生や教員にとっては、電子ジャーナルは購読においても投稿においてもとても重要な存在だと思います。研究の環境を守るために、各大学だけではなく、国のより一層の取り組みも求められる時に来ているのかもしれません。

  • 金子ひとみ

    千葉放送局 記者

    金子ひとみ

    大学時代、1年休学して旅行したのちにキャンパスライフが明るくなりました。教職課程の授業が興味深かったです。

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