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千葉ジェッツ佐藤卓磨選手が絵本に込めた思いとは 船橋市

  • 2022年06月13日

主人公のキリンがバスケットボールに出会い、嫌いだった長い首が自分の個性だと気づくーーーこのようなストーリーの絵本が完成しました。絵本を作ったのは、船橋市に本拠地を置くバスケットボールチーム「千葉ジェッツ」で活躍する佐藤卓磨選手です。日本代表としても活躍する選手ですが、小さいころは自分に自信が持てなかったと語ります。みずからの経験をもとにした絵本にはどのようなメッセージが込められているのか。新人記者が取材しました。

(首都圏局 記者 清水若葉)

思いを込めた絵本「ぼくはキリン」とは

絵本「ぼくはキリン」

子ども向けの絵本「ぼくはキリン」は、船橋市に本拠地を置くバスケットボール男子Bリーグの「千葉ジェッツ」で活躍する佐藤卓磨選手が制作しました。

子どもたちが親しみやすいよう登場するのはすべて動物のキャラクターで、主人公のキリンくんのゼッケンは、佐藤選手がチームでつけている背番号「14」になっています。

背番号は佐藤選手の「14」

「ぼくはキリン」は、引っ込み思案だったキリンくんが、バスケットボールを通じて自身の持つ個性に魅力を感じ、自分のことが好きになるというストーリーです。何をやってもうまくいかなかったキリンくんは、ある日友だちのチンパンジーくんからバスケットボールの試合に誘われます。はじめは足取りが重い様子でしたが、長い首を使って相手のシュートをブロックし、ゴールを次々と決めるなど、試合で大活躍するなかで、少しずつ自分の強みに気づいていきます。そして、嫌いだった長い首が好きになり、自信を取り戻すというお話です。

物語には、まだ気づかない強みが誰にでも必ずあるという佐藤選手のメッセージが込められています。文は佐藤選手、絵は絵本作家のカワダクニコさんが担当しました。
プレー以外でも次世代の子どもたちに影響を与えたいと考えていた佐藤選手。コロナ禍で子どもたちと直接交流することが難しくなったことから絵本の制作を発案し、半年かけて作りました。インターネットを通じて資金の募集を開始したところ、およそ1か月で当初予定していた金額の2倍近い、423万円あまりが集まりました。

小さいころは自信がなかった

チームでプレーする佐藤選手

北海道出身の佐藤選手。小さいころは自分の強みを見つけられず、自信を持てずにいましたが、同じ北海道出身で、今は長崎ヴェルカでプレーする野口大介選手に、「君、バスケうまくなるよ」と声をかけてもらったことが、ターニングポイントになりました。気持ちが上向き、プロ選手を目指すようになり、「プロから褒められるのはとてもうれしいことだった」と振り返っていました。この経験が、今回の絵本作りにつながっています。
10歳でバスケットボールを始め、18歳で世代別日本代表に選出。今年行われている2023年ワールドカップアジア予選では日本代表として活躍しています。
母親に読み聞かせをしてもらったことがきっかけで本が好きになったという佐藤選手は、今でもチームの仲間に「読んでいるふりをしているだけだろ」とからかわれながら、1か月で5冊以上の本を読んでいるそうです。
お気に入り絵本は「バムとケロ」のシリーズと「ティモシーとサラ」のシリーズ。一児の父となった今は、1歳11か月の娘に「だるまさん」シリーズを読み聞かせしてきたということです。

船橋市役所の贈呈式を取材

6月8日、佐藤選手が船橋市役所を訪れて松戸徹市長に絵本を手渡しました。佐藤選手の身長は197センチ。大きいです。

松戸徹市長

主人公は佐藤選手に似ていますね。子どものころって、自分が何に向いているのかわからなかったり、自信が持てなかったりすることが多いですが、ちょっとした経験で変わるチャンスがあります。大人が子どもたちにどう力を与えられるかというのは使命であり、このような活動をしていただいて感謝しています。プレー以外でも勇気づけられることは素晴らしいので、これからも頑張ってもらいたいです。

佐藤選手に絵本への思いを聞いてみた

贈呈式のあと、私も佐藤選手に直接インタビューをしました。世界を舞台に活躍されているプロスポーツ選手へのインタビュー。緊張します。

佐藤選手へインタビュー
清水記者

よろしくお願いします。まず、絵本を作られたきっかけを教えてください。

佐藤選手

選手としてプレーできているのは多くの方々のおかげです。未来につなげられるよう、バスケットボールだけでなく、そのほかのことでも子どもたちに向けてよい影響を与えられればと思っています。コロナ禍でなかなか直接子どもたちと交流ができないなか、伝えたいことがどうすれば伝えられるか考え、絵本がいいなと思ったのがきっかけです。

なぜ子どもたちに本を読んでもらいたいと考えているのですか?

僕が本を読んで一番よかったと思っていることは、人の気持ちが前よりもわかるようになったことです。本を作る人は自分の人生をかけてその本を作っているので、人の凝縮された人生を一冊の本で読むことができると思っています。いろいろな本を読んだことで、人と交流をするときに少しずつですが相手の立場に立って考えられるようになったと思います。

絵本を読んだ子どもたちにどう思ってほしいですか?

子どもは自分の弱いところに目を向けがちだと思いますが、強いところに目をむけるきっかけになればいいと思っています。

絵本を作る上で工夫された点はどのようなことですか?

絵本作家さんに自分の人生で起こったことを伝えました。僕自身も自信がなくバスケットボールに出会うまでは自分の強みを見つけることができませんでした。自分の経験を入れることでより伝わりやすくしたほか、キャラクターを動物にしてより親しみやすくなるようにしました。

なぜ主人公をキリンくんにされたのですか?

弱い動物をイメージしていましたが、実はキリンってすごく強いんです。子どもが好きな動物は何か考えたときにゾウとキリンが浮かびましたが、うちのチームには「ジャンボ」というゾウの公式マスコットキャラクターがいて、かぶるかなと思ったのでキリンにしました。

バスケットボールで長所が生かされると気づいた理由は?

もともと背が高く、ゴールに近かったことです。

絵本を読んだ親子はどう受け止めた?

親子に絵本を読んでもらった

佐藤選手の思いが込められた絵本。千葉市内で親子に読んでもらい感想を聞きました。

2人の子どもの母親(30代)

それぞれが違っていいのだということや個性が強みになることが伝わってきました。子どもにはいろいろなことに挑戦してほしいと思います。

息子3歳

キリンさんがかっこよかった。

1歳の息子を持つ父親(30代)

小さな子どもでもバスケットボールに興味を持ってもらえる話ですね。欠点だと思っていたところが長所であることに気づいたキリンの話から、多様性にも気づいてもらえるお話だと思いました。運動が苦手というのも個性だと思うので、別の方向で伸ばせていけるといいんだろうなと考えました。

佐藤選手「自分の強みに気づいてほしい」

この絵本は、多くの子どもたちに呼んでもらおうと1700冊作られました。非売品で船橋市内を中心に、千葉県内の小学校や保育園、児童館や図書館に寄贈されることになります。6月15日には、千葉市にも寄贈されることになっています。

佐藤選手「もともと背は大きかったのですが、すごく運動神経がよかったわけではありませんでした。サッカー、テニス、水泳などいろいろ挑戦してみましたが、全部しっくりこなくて、他の人の方がうまいなと思っていました。そうした中でバスケットボールに出会い、これだったら自分の長身がいかせると思って始めました。それぞれ生まれながら持っているものがあって、どうしても変えられないことはあると思いますが、持ったカードで勝負しなければならないと感じています。この絵本がきっかけとなって、自分の強みに気づいてほしいと思っています」

取材後記

私も幼少期は、1週間で20冊以上の絵本を母に読み聞かせしてもらい、絵本作り教室にも通っていました。絵本は、世の中のいろいろなことに関心を抱かせてくれ、多くのことに挑戦するきっかけになったと考えています。この絵本を読んだ子どもたちが、さまざまなことに興味を持って挑戦することで、まだ気づいていない強みを見つけられるよう願っています。
絵本は次のように締められています。「だいじょうぶ。みんな かみさまからの おくりものが かならず あるよ」。このことばが多くの人に届きますように。

  • 清水若葉

    首都圏局 記者

    清水若葉

    2022年入局。大学時代はラクロスに没頭。好きな絵本は「あっちゃんあがつく」。 

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