千葉県内では去年1年間の特殊詐欺の被害額が26億円を超え、被害が深刻となっています。1人でも多く被害者を減らすために日常から意識をしっかり持ってもらおうと、千葉県に工場がある大手食品メーカーと警察が協力して、あるユニークな取り組みが行われています。どんな取り組みなのか取材しました。
(千葉放送局記者武田智成)
「そのお金 渡すなおろすな 振り込むな」
大手食品メーカーの山崎製パンと千葉県警がコラボレーションしてある商品を作りました。特殊詐欺の被害を防ぐためのメッセージがパッケージに書かれた菓子パンです。メッセージは、一般の方から寄せられた1600あまりの応募の中から選ばれました。
高齢者から若い世代まで幅広く手に取ってもらおうと、粒あんパンとロールケーキの2種類を用意しました。ことし4月から県内のコンビニエンスストアやスーパーなどで販売されています。
習志野市のコンビニでは、店内の真ん中にパンが陳列された特設コーナーが設けられています。この店は周りが住宅街に囲まれていることなどから高齢者の客入りが多いということで、店員も積極的に注意を呼びかけています。
「詐欺被害の注意もついつい忘れてしまいます。私のところにも『オレオレ詐欺』の電話が来たことがあるので、こうした呼びかけではっとさせられます」
今回の取り組みは、コンビニ側の意識も高まっているといいます。ATMを利用するお年寄りや電子マネーを購入する人などが詐欺グループにだまされていないか、声をかけるようにしています。
「これを機に店員の呼びかけの意識を高め、お客様に商品をアピールしながら、詐欺への注意を伝えていきたいです」
警察も今回の取り組みは、幅広い世代の人に意識を高めてもらえるチャンスと捉えています。
「手口が巧妙になっていて、高齢者に周知するだけでは被害を防ぐことが困難になっている。なじみがあるコンビニやスーパーで販売されているパンを通じて幅広い世代や地域の皆さんに意識を高めてもらうことで、社会全体で被害を防いでいきたい」
千葉県警によりますと令和3年の特殊詐欺の被害は、1103件で前の年よりも減少したものの、被害額は26億円あまりで2億円近く増えました。特に増えている手口は、自治体の職員を装って保険料などの払い戻しがあるなどとうそをついてお金をだまし取る「還付金詐欺」です。前の年より33件増えました。
主な手口
・銀行や警察を語りキャッシュカードをだまし取る「預貯金詐欺」506件
・息子や孫など親族を名乗る「オレオレ詐欺」324件
・保険料などの払い戻しがあるとうそを言う「還付金詐欺」206件 など
また、被害が確認された地域を見てみると、千葉県北西部の東葛地域や市原市などが赤色に表示されていて、特に多くなっています。
警察は、注意喚起に力を入れています。今月15日に千葉市内のショッピングモールで買い物客やATMの利用者に向けて被害防止の呼びかけを行いました。警察官や地元の銀行の行員などが参加して「STOP!ATMでの携帯電話」と書かれたポスターなど200点を配布しました。
ATMを使った還付金詐欺の手口を紹介します。
犯人グループ
「市役所の職員です。保険料の還付金があります。振り込み手続きを行いますのでATMに向かってください」
こうした役所の職員を名乗る人物から電話でATMに行くように指示されます。その際、銀行などではなく、スーパーやコンビニなど周りに人がいないATMを指定します。
犯人グループ
「着いたらそのまま電話の指示に従ってください」
被害者は携帯電話で連絡をとりながら指示に従い、ATMの操作を行います。しかし実際には還付金ではなく振り込みの手続きに誘導されてしまいます。
犯人グループ
「手続きを進めて、お客様番号を入力してください」
最後に「お客様番号」と言われた数字を入力すると、それが振り込む金額の入力になっています。被害者の中には複数回手続きを行い、数百万だましとられたケースもあります。
警察は携帯電話で話しながらATMを操作している客がいた場合に声をかけるなど、企業と連携して取り組みことが被害防止につながると期待しています。
「そもそも市の職員や警察官がATMに行くように指示することは絶対にないので、注意していただきたい。また、被害は電話が入り口となっている。留守番電話に設定したり、迷惑電話の防止機器を使ったりするなど相手と会話をしないことが大切なので、被害者にならないために徹底してもらいたい」
警察取材を続ける中で、特殊詐欺被害は大きなテーマだ。警察や企業、団体が被害防止を呼びかけようと様々な工夫をしている。数字で見れば被害件数は減っているものの、依然として高齢者の被害は多い。被害を出さないため、私たちにできることは、こうした様々な呼びかけを根気強く伝え続けることだと思う。しかし一方で、ただ伝えるだけでは効果が弱い。なかなかこうしたニュースにアクセスできない、しない人もいるだろう。特に高齢者にニュースや記事を見てもらうにはどうしたらいいのか。伝える側の工夫も必要と感じた。