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千葉 熊谷知事就任1年 独自色ないのか? 「政治の信念」語る

  • 2022年04月06日

千葉県の熊谷俊人知事(44)が、知事選挙で過去最多の140万票あまりを獲得して、就任から1年がたちました。全国の知事の中で3番目に若く、SNSを使った発信を積極的に行っていますが、政策に目立った独自色が見えてこないという声も聞かれます。そこには「知事は決して目立つことが目的であってはいけない」という、政治家としての信念がありました。県政担当記者として知事にインタビューしました。

(千葉放送局 記者 櫻井慎太郎)

対話を重視したこの1年 若手のプロジェクトチームも

櫻井記者
「就任されてから1年になります。何を変えることに一番力を注ぎましたか?」

熊谷知事
「現場主義と県民目線というところです。できる限り問題が起きている現場から政策を考えていく、常に現場の状況を意識した上で政策を遂行していく、もしくは、県民がどのように感じるかを理解しながら情報発信をしたり、コミュニケーションをとったり、さらに対話をしっかり重んじる。対話というのは、県民や民間、県庁の中での対話も含めて、普段から意識をしていますけど、特に1年目で意識をしています。知事でしか見えない課題意識とか中長期的な視点と、現場でしか持っていないノウハウや感覚が合体して初めていいパフォーマンスが発揮されると思います」

櫻井記者
「コロナ禍で対話が難しい部分がなかったですか?」

熊谷知事
「若手の職員などにプロジェクトチームを作ってもらって、何回も意見交換をしながら政策を作っていきました。トップダウンで進めるのではなくて、組織全体での議論を通して政策をつくってきました」

若手職員と議論したという新年度「千葉の海の魅力発信事業」

昨年度、県庁内に立ち上げられたプロジェクトチームは、「デジタル」・「食文化」・「海の文化」の3つでした。このうち「海の文化」のチームでは、30代以下の若手職員14人が知事を交えて施策を議論しました。新年度の当初予算には、伝統的な漁業者の晴れ着をもとに新たなデザインを作成する事業など5つの新規事業に9500万円あまりが計上されています。さらに県職員から広く政策提案を募る制度について、今年度中の導入に向けて検討が進められているということです。知事はこうした制度の導入で、若手が積極的に提案や意見を出せる風土を作っていきたい狙いがあるとも話しています。

過去最多の140万票で当選 前知事との違いは

前任の森田知事からの引き継ぎ

千葉市長から転身して、千葉県知事選で過去最多の140万票あまりを獲得した熊谷知事。前任の森田知事から、どう県政を変えていくのか注目されましたが、堅実な県政運営で、議会でも政策上の対立はほとんどありませんでした。ある県庁幹部は「どう変わるのか不安もあったが、大きな政策転換はなく安心している。前任の森田知事は、職員に任せる部分が多く、職員が意気に感じて応えるというような形だった。熊谷知事は方向性や理由を示して職員と議論しながら政策を進めている。危機管理やインフラも重視していて、政策の中身の進め方も、とてもオーソドックスだと思う」と話しています。

注目の新年度予算 知事の色が見えてこない?

就任して初めての新年度の当初予算に注目が集まりました。しかし、大きな予算額で、目立つ新規事業はなく、県議会議員からも「知事の色が見えてこない」という声も聞かれています。熊谷知事は、予算について、自らの考えを次のように話しました。

熊谷知事
「そういう分かりやすいのがあるのは逆に言えばよくない予算だろうと思います。まず絶対言わなければいけないのは、何か政策を打つ、特に多額に投じる場合、それはしっかりとした仮説と検証が行われたものでなければ、県民から預かった貴重な税金というのを安易に使ってはいけないと思っています。政治家があまりに自らのPRのために安易に県民・国民から預かった税金を使ってきていることに対して、そういう政治をしたくないという思いで、この世界に来ているところもあります。就任して1年目に、そんな予算を使えることが本来おかしいと思っています」

知事は語気を強めてこう述べた上で、大きな予算をかけずに始めている新規事業に注目して欲しいといいます。今年度の69の新規事業のうち、そのうち41が県単独の事業となっています。防災や中小企業への支援、環境問題、医療・福祉、デジタル化、それに教育関連の施策に力を入れていることが読み取れます。新規事業のうち、小学3・4年生に算数と理科を専門で教える講師らを配置する事業には1億3600万円が計上され、千葉ゆかりのパラアスリートや県内に活動拠点のあるチームの強化・支援事業も予算は100万円と小規模ながら新規に立ち上げられています。

熊谷知事
「しっかりと職員と議論をした上で、現場と私自身の課題意識として、この分野を押していくのが、これから重要ではないかというところに予算をつけています。その上で方針が正しければ予算の増額をするし、軌道修正が必要であれば、やり方そのものを変えていく。今後、データとファクトに基づいた形で預かった税金を大事に未来のために使っていきたいと思っています」

SNSの発信強化 政策の背景を伝える

SNSの熊谷知事のプロフィール

熊谷知事は、これまでの千葉県の知事とは異なる政治手法のひとつとして、SNSで積極的な情報発信をしています。ツイッターでの知事のフォロワーは28万人余りにのぼり、この1年間でおよそ4万人増えました。熊谷知事にとっては、千葉市長時代から続けている発信ですが、改めて狙いを聞きました。

熊谷知事
「行政は決まったことを伝えることはできるわけですけれども、なぜそうなったのか、どういう選択肢や価値観、課題意識をもって決定したのか、という背景を説明することが難しい。知事であればできる発信をすることによって、少しでも政策への納得感を感じてもらう、県政を身近に感じてもらう、こういった意味でSNSなどでも発信するようにしています」

SNSで子どもに関する発信 注目集める
 

「学校連携観戦」についてSNSへの投稿

去年、千葉市の幕張メッセで実施したパラリンピックの「学校連携観戦」では、感染の第5波の中での実施について、10件連続で投稿を重ねて理解を求めました。しかしその5日後、直前に辞退するケースが相次ぐなどして急きょ中止となりました。県議会では「教育的効果と意義に前のめりになりすぎていたのではないか」といった指摘があり、SNS上でも批判が寄せられました。
また、ことし2月にも、2歳以上の保育園児のマスク着用について政府の分科会などで検討が進められる中、知事は「2歳児にマスクは現実的ではありません。保育現場の判断が尊重されるべき」などと投稿しています。

熊谷知事
「子どもたちに関わるところだと批判と注目が集まってしまう。なので、『とりあえずやめておくか』となり、これがドミノ倒しのように起きることによって、子供たちの将来に影響を与えかねない。結局、子供が犠牲になりやすい状況にあるので、感染対策は重要だけれども、ここは私たちが大人として守ってあげなければいけないのではないか、ということを知事として言うことによって、過度な萎縮にならないように意識をして発信してきました」

新型コロナ対策 「知事は目立つことが目的であってはいけない」

新型コロナ対策では、政府に対して緊急事態宣言やまん延防止等重点措置について、東京・神奈川・埼玉・千葉の1都3県の知事による会議がたびたび開かれました。その際、熊谷知事は、政府に対して先の見通しを示すよう繰り返し要望してきました。一方で、熊谷知事は、ワクチンの接種率など見通しの基準となる項目は挙げるものの、ほかの知事と比べると、自ら進んで具体的な数値を示すなど踏み込んだ発言はしてきませんでした。そこには熊谷知事の政治家としての信条がありました。

熊谷知事
「議論を加速化するために、一つの考え方を示したいという思いもあります。一方で、知事がそれぞれの見解を言ってしまうと本当に基準がわからなくなって、国民に戸惑いを生じさせかねない状況です。この疾病に関して専門機関を持ち、最も知見をためている政府が、考え方・基準を示していくのが、私は妥当だと思っています。言いたい部分はありますが、我々、知事は決して目立つことが目的であってはいけないと思います

県独自の新型コロナ対策 「認証店」と「臨時医療施設」

新型コロナ対策では、千葉県独自の対策が取られていますが、課題もあります。そのうちの1つが「認証店」の制度です。千葉県独自の基準で少なくとも49項目を満たすと「認証店」になります。しかし、政府が基本的対処方針を変更して、手指消毒など基本的な4項目を満たすだけでいい「確認店」の制度ができたため、より厳しい基準の「認証店」になっても、得られるメリットが少ない状況となっています。3月末の時点で、県内に「確認店」は2万9000店舗ありますが、「認証店」は145にとどまっています。

熊谷知事
「第三者認証によって、飲食店の規制にメリハリをつけるべきというのが我々の考え方で、それは最終的に政府が取り入れられて、基本的対処方針に盛り込まれるようになったのは大いに評価をしています。その上でさらに高い基準をつけて、グラデーションある形で飲食店の対策と支援のあり方を分けていくというのが我々の考え方です。これは残念ながら基本的対処方針の中で、十分に盛り込まれていません。より対策をしている人に、より支援をしていくことによって、安全な空間をつくっていくというのが我々の設計思想です。国に引き続き基本的対処方針等での反映を求めながら、千葉県としての対策をとるということを重ねていきたい」

臨時医療施設を視察する熊谷知事

新型コロナ対策で、もうひとつ独自の考え方を反映させた施策が、千葉市稲毛区に設けられた県内2か所目の臨時医療施設でした。持病があるなどリスクの高い患者に1泊2日で投薬治療を行う施設として立ち上げられ、回転率をあげることで病床のひっ迫を押さえる狙いでした。しかし、2月初旬に感染者を受け入れられるようになってから、3月28日までに投薬治療の実績は17人のみです。およそ8億円の予算を組んでいるにもかかわらず、実績は上がっていません。

熊谷知事
「大事なのは医療的ニーズとの合致だと思っています。それぞれの医療施設がどのような役割を果たしていくのか、地元の医療の人たちに存在を認識していただかなければいけないと思います。それから今回の臨時医療施設を整備したときのノウハウというのを、後世にしっかり残していくことが大事だと思います」

「特定政党に偏らず」 参院選のスタンスは?

ことし夏に参議院選挙が控える中、政党との関係も注目されます。熊谷知事は、千葉県知事選では特定の政党の推薦は受けず、与野党双方の国会議員から支援を受けました。また、去年秋の衆院選では、激戦となった千葉10区で、自民党と立憲民主党双方の候補を応援する姿も見られました。知事は、今後の選挙の対応について、記者会見でこう述べています。

熊谷知事
「基本的には特定の政治勢力に偏ることなく、私の県政に理解、協力をしていただける方、そして、千葉県や地域のために尽力されている方、そうした考え方の中でスケジュールの調整がつけば、要請に基づいて応援するのは、十分あり得る話だと思います。ただ、私が一生懸命、県民や有権者のように応援するという立場ではないと思っています。基本的には県政運営に集中するという前提です」

新型コロナ対応に追われた1年 熊谷県政の目指す先は?

この1年、熊谷知事はもちろん、われわれ県政を取材する記者も、新型コロナの対応が大半をしめて、知事にじっくり話を聞く機会がありませんでした。2年目以降、どのような県政運営を目指すのか聞きました。知事は、「日本の中で千葉が先駆的な役割を果たせるような、意欲的なチャレンジをする施策が数多く出てくるようにしていきたい」と意欲を見せていました。

熊谷知事
「職員とは本当にいい意見交換ができ、非常に良い1年間を送ることができたと思っています。これをしっかりとした結果に繋げていくということですよね。今の課題もそうですし、カーボンニュートラルであったり、デジタルであったり、社会全体として適応していくことが求められている分野に関しても、日本の中で千葉が先駆的な役割を果たせるような、意欲的なチャレンジをする施策が千葉県から数多く出てくるようにしていきたい。それが最終的には県民や子供たちのためになる。そういう千葉県政にしていけると思っています。大事なことは英知を結集するということです。ひとりの知事で全てを変えることはできませんし、県庁の職員だけでも変えられない。できる限り外部と連携をする。民間と組む。地域コミュニティと組む。市町村と連携する。こういうことを一つ一つ増やしていきたいと思っています。そういう政策もこれから増えてくるし、刺激を受けた県庁の職員発の施策もでてくるだろうと期待しています」

取材後記

県政担当記者として、熊谷知事が就任してから1年間を振り返ったときに、「思ったよりも目立つ発言や施策がなかった」というのが率直な感想です。目立たないところも含めて「何が変わったのだろう」という視点で取材を進め、話を聞きました。知事の県政運営の姿勢は、丁寧に方向性や背景を説明して多くの人を巻き込んでいくというもので、ある県庁幹部が「オーソドックス」と評したときに、納得しました。この1年で、施策に若手職員の意見を反映させる場をつくるなど、小さな変化が生まれ始めたところだと思います。そうした変化の中から、熊谷県政の目玉となる施策が出てくる瞬間を逃さず取材したいと思っています。一方で、知事に臨時医療施設や認証店など活用が進まない課題について聞くと、うまくかわされてしまうと感じています。知事が積極的に発信したくない部分の説明も十分に果たしてもらえるよう、より的確な質問を投げかけていきたいと思います。

  • 櫻井慎太郎

    千葉放送局 記者 

    櫻井慎太郎

    2015年入局。長崎局、佐世保支局を経て千葉局。千葉県政キャップとして、行政取材を担当。

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