ことし3月、1人の少年が自転車に乗って福島に向かいました。その距離およそ230キロ。少年はなぜ、福島を目指したのか。そこには11年前の震災、そして将来への思いがありました。
(千葉局 坂本譲記者)
千葉県柏市に住む渡邉祐輝です(12)。小学校を卒業したこの春、自転車で福島に向かいました。道中、肌身離さず持っていたものがあります。原発事故が起きた福島で活動を続ける消防士たちへの応援メッセージです。ぼくが全国の消防と協力して作った寄せ書きでした。
原発事故はぼくがまだ1歳の時に起きたため、覚えていません。でも、小学3年生の時にある報道番組を見て、衝撃を受けました。映っていたのは、地震の直後から福島第一原発の敷地に入り、活動する消防士たち。水素爆発が起き、被ばくの恐れがある中、支援活動を続ける姿に心を揺さぶられたのです。自然と涙があふれてきました。
自分はびびりの性格だから、怖いとかすぐに思っちゃうんです。それなのに福島の消防士たちは危険を覚悟で活動していたんです。原発と闘ったんだと本当にすごいと思いました。
消防士たちにエールを送りたいーーー。
4年前から取り組んでいるのが全国の消防署を家族とともに巡り応援メッセージを作る活動です。集めたメッセージは400以上、これまでに3回に渡って福島に届けてきました。
そして、ことし。集めたエールを自転車で届けることにしたのです。福島までの道のりはおよそ230キロ。家族の支援を受けながら、3日間でゴールする計画を立てました。困難に挑戦するぼくの姿をみせて、復興に取り組む福島の消防士たちを勇気づけようと考えたのです。
福島までのルートを作り、体力をつけようと、最後の1か月は毎日20キロを自転車で走り込みました。
無謀かもしれないんですけど、こんなびびりな僕でもできるんだ。乗り越えられるんだっていう姿を福島の人たちに見てもらいたいんです。
3月26日午前8時。自宅のある柏市を出発しました。家族は伴走する車の中から見守ってくれました。
初日は春の雨に降られましたが、無事、宿泊地点の茨城県ひたちなか市までたどり着くことができました。
2日目。ひざや太ももに痛みが出てきました。そして、道を間違えるアクシデントも。「諦めてはいけない」。自分を奮い立たせて前へ進みました。宿は福島県いわき市でした。
そして3日目。
ゴールまであと50キロ。最後の力を振り絞って、楢葉町を目指しました。
双葉消防本部に到着すると、多くの隊員たちが拍手で迎えてくれました。
「よくやった!!」「お疲れ様」ーーー。温かい声援の中、ゴールを果たすことができました。
思いを詰め込んだ応援メッセージは無事、福島に届けることができました。
ありがとうという気持ちでいっぱいです。福島では先日、震度6弱の地震もありました。11年前のあの日のことが頭をよぎる揺れでした。祐輝くんのエールは、こうした困難な中で活動する私たちの心の支えになっています。
スタートした時は「やっぱり無理かな」とくじけそうになったけど、ゴールした今は、「自分でもこんなことができるんだ」と思えるようになりました。将来の夢は双葉消防の消防士になることなんです。救助隊に入っていろいろな人を助けたいと思っています。
ひとは思いがあっても、なかなか行動には移せないものだと思います。今回の福島行きは、祐輝くんにとっては大きな挑戦だったと思います。挑戦を見届けた消防士たちは「励まされた」「負けないよう自分たちも頑張りたい」と話していました。福島の消防士たちを勇気づけたいという祐輝くんの思いはしっかりと届いたのだと思います。
今回の取材を通して最も印象に残っているのは、祐輝くんの表情です。実は取材を始めた当初、インタビューをしていてもどこか自信がなさそうな受け答えでした。ところが、230キロを走りきった祐輝くんは違って見えました。消防士への夢をはっきりと力強く語る姿は頼もしさがありました。今回の挑戦は福島を励ましただけでなく、祐輝くん自身も大きく成長させたのだと思いました。
将来の夢に向かってこれからも走り続けてほしいと思います。