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千葉 市川市長選 現職市長が得票1割未満の衝撃 有権者の審判

  • 2022年03月30日

任期満了にともなう千葉県市川市の市長選挙で、新人で元衆議院議員の田中甲氏が初めての当選を果たした。取材をした記者として、私が衝撃を受けたのは、新たな市長が誕生したことでも、38%という投票率の低さでもない。現職市長が1割未満の得票にとどまったことだ。有権者は、現職の1期目の市政運営と政治家としての言動を、冷静に判断していた。 (千葉放送局 記者 金子ひとみ) ※文中敬称略

「テスラとシャワー」問題 「影響の大きさ見誤った」

得票数1万5159票。選挙で敗れて一夜明けた3月28日。私は取材を担当する記者として、市川市長・村越祐民に連絡した。予想外の村越の落ち着いた声に、私は肩の力が抜けた。

落選した現職 村越祐民
「サバサバしてます。きれいに一本取られましたね。前回、私に入れてくれた票がみんな上の2人に行った。それぐらい、テスラとシャワー、けしからんということなのでしょう。見誤った。反省しています。ここまで怒ってるとは思わなかったです。こちらからすると、実績は出してます、それを見てもらいたかった。でも、そこが争点ではなかった。けしからん市長をすげかえるということだった。田中さんには18年間、負けたことなかったけど、今回で18年分一気に負けたんじゃないですか」

今回の選挙戦のキーワードは「テスラ」と「シャワー」だった。
アメリカ・テスラ社の電気自動車を公用車に導入したことと、市長室にシャワー室を設置したこと。この2つの問題の影響の大きさを見誤ったと、淡々と認めていた。

現職の村越祐民 20代から政治家へ 外務政務官も

2003年衆院選初当選の村越

村越の経歴を振り返りたい。
村越祐民、市川市宮久保生まれの48歳。県議会議員を半年で辞め、29歳・2003年の衆議院議員選挙千葉5区に民主党公認で立候補し、当時、衆議院議員4期目を目指した田中甲と自民党の薗浦健太郎らを破る。野田佳彦内閣では外務政務官も務めた。前回の市川市長選挙に立候補し、再選挙の末、2018年4月、市川市長に就任した。

「テスラ」と「シャワー」 選挙戦に影落とす

公用車に導入されたテスラ社の電気自動車

市長としての1期目の4年間、村越の市政運営をめぐり、市民から批判の声が相次いだ。
就任2年目の2019年7月、温暖化対策の一環として、アメリカ・テスラ社の電気自動車を公用車に導入した。燃料費と二酸化炭素の排出量を3分の1に削減できるが、車のリース料金は1か月で14万あまりとこれまでの2倍以上になる。車の扉は、通常の横に開くタイプではなく、上に開く「ファルコンウイング」というタイプだった。本人が意図しない部分で市民の怒りを買った。ワイドショーの取材も殺到した。ほどなくして、リース契約は解除された。

市長室に設置されていたシャワー室

さらに2021年2月には、災害対応時に必要だとして、市長室のトイレの中に工事費およそ360万円をかけて前年の10月にシャワー室を設置していたことが明らかになった。市役所にはすでに3台のシャワーがあった。市議会が撤去を求める決議案を可決したが、「必要な施設だ」としてすぐには応じず、2回目の撤去決議案が可決された後、救急救命士らが使うための施設へと移設した。
このころ、大阪・池田市で当時の市長が市長室の中に家庭用サウナを持ち込んでいたことが話題になっていた。市川市民からは「導入した理由は全然違うから並べられて気の毒」という声も聞かれた一方、「西のサウナ、東のシャワーという取り上げられ方をして、市川市のイメージが落ちた」と嘆く声もあがった。
前回の選挙で、村越に投票していた人に取材すると、「期待した分ショック」(50代男性)、「最初はよかったのに」(40代女性)などと落胆の声が相次いだ。村越が手がけた実績を話題にする人になかなか行き当たらない。
「テスラ」も「シャワー」も、村越が4年間で取り組んだ、数々の政策のうちの一部かもしれない。しかし、その一部の政策をめぐる混乱は、市民の心に深く響いていた。村越は、問題が明らかになった都度、「私心を持ってなにかをしたことは一度もない。それぞれ必要があると考えて導入した」と説明したが、選挙戦の行方に影を落とした。

過去最多6人が立候補 再選挙になるか心配も

今回の選挙戦には、過去最多の6人が立候補した。前回、村越に3212票差で敗れた元衆議院議員の田中甲。前回は村越を支援したものの、今回、立憲民主党を離党して立候補した元県議会議員の守屋貴子など、多様な顔ぶれとなった。前回の市長選挙では、新人5人が立候補したが、いずれも得票数が当選に必要な有効投票数の4分の1に届かず、異例の再選挙が行われた。市民からは「2回連続の再選挙となるのではないか」という心配する声や、「再選挙だけは勘弁して」などという声も聞かれた。

新人・田中 わかりやすいスローガンとポスター

前回の再選挙で涙をのんだ田中は、今回の選挙の1年半も前の2020年8月、「捲土重来を期す」と、いち早く立候補を表明した。千葉県の熊谷知事や周辺地域の首長と一緒になったチラシなどを次々と作った。その戦略はわかりやすかった。「正しい税金の使い方をする」「行政への信頼を取り戻す」のスローガン、ポスターには、「お約束 悪いことはしません」のひと言。田中本人に真意を尋ねると、「現職が良くないことばかりしているから、その対比で、私は大丈夫ですよ、というのを示したかった」とのことだった。

集会には、自民党参議院議員の石井準一や公明党元衆議院議員の富田茂之など、千葉県政界ではおなじみの顔が並んだ。30年変わらない「こう!と決めたら田中甲」のフレーズを連呼した。運動量は田中がほかの候補を圧倒していた。

政党色を消した新人・守屋 「女性市長誕生」を前面に

「女性市長誕生」を前面に押し出したのが守屋だ。立憲民主党の県議会議員だったが離党して、党派関係なく、自民党を支持する不動産会社の女性社長や無所属の県議会議員のプリティ長嶋らも応援に入り、選挙戦では政党色を消した。隣の船橋市選出の元総理大臣・野田佳彦や立憲民主党元代表の枝野幸男も応援演説に立つなど、この夏の参院選の前哨戦かと思える動きもあった。

現職・村越 待機児童ゼロ・財政健全化など実績訴え

立候補表明する現職・村越(2月17日)

そして、現職の村越。通常、現職首長が2期目を目指す選挙は、最も脂が乗っていて、強いと言われる。2月17日、市議会で立候補を表明したころ、村越は再選に自信を見せていた。待機児童ゼロの達成、市の借金削減と貯蓄の増加で財政健全化など4年間の実績は十分だと考えていた。2期目に向けて、学校給食の無償化と子どもの医療費助成制度拡充を掲げつつ、選挙戦は1期目の実績をアピールすることに力を入れた。

商工会議所会頭を味方につけ、JAや9人の市議会議員も入った。また、「危険な通学路の改善に取り組んでくれた」などとして、子を持つ母親たちが、自発的に、村越の実績を記したビラをポケットマネーで手作りし、家事や仕事の合間に配り歩いていた。「選挙の運動に関わるのは初めてで手探りなんです」という彼女たちの姿は、何度も選挙経験のあるベテランの運動員への取材が多かった私には、とても新鮮だった。

告示前の3月14日、青年会議所による立候補予定者の公開討論会が開かれた。来場者からは村越の弁を評価する声が相次いだ。「話が具体的でわかりやすい」、「市の将来のことを一番考えている」、つい2日前、街角で話を聞いた主婦もたまたま聞きに来ていて、「今回は守屋さんに入れようと思っていたけど、やっぱり村越さんもいいですね」と話していた。村越が競り勝つのかな、そんな印象を心の中で持った。

村越の戦略どおりにならなかったこと

しかし、今回の選挙戦で村越の戦略どおりにならなかったことがある。前回の選挙では、立憲民主党や共産党など野党系の支援を受けて勝った。3年前、2期目の市長選に向けた思いを聞いた際、村越は「次の選挙では、これまでの政党に加え、自民党の推薦を取ることが理想だと思っている」と話していた。しかし、そうはならなかった。立憲民主党や共産党は、村越のもとを離れた。自民党の推薦も得られなかった。「テスラとシャワー」問題が影を落としていたからだ。

選挙期間中 有権者の取材からわかったこと

記者の取材メモ

後輩記者の力も借りて、選挙期間中の4日間、期日前投票を終えた有権者に、誰に投票したのかなど取材をした。その結果、新人の田中・守屋に投票した人の数はほぼ同じだったのに対して、現職の村越に投票した人は、その3分の1にとどまっていた。これまでの村越市政の評価については、4分の3の人が「あまり評価しない」「まったく評価しない」と答えていた。
また、田中や守屋への積極的な期待よりも、村越への批判の方が熱を帯びていた。
「奇抜なことばかりで目立ってしまった」(70代以上男性・田中に投票)「税金でシャワーを買うな、普段は選挙に行かないけど、許せないから今回は来た」(50代女性・守屋に投票)、「上に扉が開く車が気に入らない」(70歳代以上女性・田中に投票)。
市のトップ交代を求めるうねりが起きていた。

現職の1割未満の得票に衝撃走る

3月27日午後9時10分、開票が始まった。私は観覧席から票を開く作業の様子を取材した。田中、守屋2人に比べて、村越の票が少ないことは、一目瞭然だった。午後10時半の中間発表では、田中・守屋が1万1000票だったのに対し、村越は7000票と大きく差がついた。私は千葉放送局のニュースデスクに「現職の村越市長は、もうダメそうです」と連絡を入れた。その後も差は広がり、村越の得票は、有効投票数の1割に満たない1万5159票にとどまった。現職が、立候補にあたり国に預けた100万円の供託金は没収される見通しとなったことに、私は衝撃を受けた。前回の再選挙で敗れた田中が、6万5567票を獲得して初当選した。

開票がすべて終わらない午後11時半すぎ、落選の見通しとなった現職・村越が支援者の前に静かに現れた。「大変厳しい結果で、すべて候補者本人の不徳のいたすところであると真摯に受け止めています」と述べた。記者が、市長室にシャワーを設置し批判を受けたことを質問すると、「有権者が極めて深刻にとらえていた。説明が後手に回り不十分だったと受け止めざるを得ない」と述べ、深く頭を下げた。

同じころ新人・田中は、3キロ離れた事務所で、花束を受け取っていた。拍手と歓声の真ん中にいた。田中は、「市川市はこの4年間いろいろなことがあった。まずは市川市政を皆さんとともにしっかりと安定した市政にする。市民目線、現場主義を徹底して市民に信頼される市政をつくってまいりたい」と、インタビューに答えた。

市川市政の立て直し 新市長に厳しい視線

選挙の翌日、市民から批判を受けた市川市政をどう立て直すのか。新市長となる田中は、選挙戦を振り返った。

初当選した田中甲
「現市長のおかげということばを使うとまずいかもしれないが、あまりにも市民を裏切ってしまった。市川市の空気をよどませてしまったということで、これじゃいけない。市川を変えましょうという声が市民に伝わった。そのコントラストは自分にとってはプラスだった。今後は探りながらのスタートになるが、遠慮しすぎても出しゃばりすぎてもいけない。議会との緊張感を持って、市民に向き合って政策を発信していく。現職が公約で掲げた学校給食の無償化と子どもの医療費助成制度の拡充は、うまくキャッチして進めたい。誇りに思える市川市をつくりたい」

前回は再選挙、今回は現職が大差で敗れた市川市長選挙。「政争の街」と呼ばれる市川で、田中は安定した市政運営をできるのか、市民からは引き続き厳しい視線が注がれている。田中の新市長としての初登庁は、4月22日に予定されている。

現職を冷静に審判…投票率から見えるもの

今回の市長選の投票率は、前回の再選挙を4.78ポイント上回り、38.75パーセントで、市民の関心は前回より高まっていることがわかった。現職の1期目の市政運営と政治家としての言動を、冷静に判断していた。有権者の1票、1票が積み重なった選挙結果は、政治家に審判を下す。その結果、現職市長が1割未満の得票にとどまった。それでも今回は、有権者の3分の2近くはその権利を行使しなかった。ぜひ一人でも多くの人に投票に行ってほしい。

取材後記

過去最多の6人が立候補し、それぞれが政策を訴えた市川市長選が終わり、平静なまちが戻ってきました。村越さんは、残された任期の4月2日、市の文化会館のリニューアル式典で、児童合唱団が歌うアニメ・忍たま乱太郎の主題歌、「勇気100%」を聞く予定だといいます。「『がっかりして、めそめそして』という歌詞の歌、このタイミングで聞くことになるとは」と、電話の中でつぶやきました。歌の歌詞はこう続きます。『そうさ100%勇気 さあ飛び込むしかないさ まだ涙だけで終わる ときじゃないだろう』。村越さんは、今後も政治家を続ける意向を示していて、次にどのような一歩を踏み出すのか気になります。新市長となる田中さんの周辺では、早くも「村越さん同様、険しい道が待っていると思う」と話す人もいました。衆議院議員以来、18年ぶりに公職につく、田中さんの手腕が注目されます。

  • 金子ひとみ

    千葉放送局 記者

    金子ひとみ

    千葉局4年目。市川市政の取材担当。去年、話題になった千葉県知事選、接戦だった衆院選千葉10区も流れで担当。同僚に「激戦の選挙の取材をよく担当するね」と言われます。

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