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通学路での事故減らしたい 安全点検は子ども目線で 千葉・八街

  • 2022年03月04日

去年6月に千葉県八街市で児童5人が死傷した事故のあとも、通学時間帯に子どもが巻き込まれる事故は全国であとを絶ちません。
通学路を毎日使う子どもたちの目線で安全点検を行い、対策を進められないか。
八街市では子どもたちでも簡単に操作できる身近なものを活用して、通学路の危険か所について地図づくりを始めました。

安全点検はスマートフォンで

新しい取り組みを始めると聞いて取材に向かったのは、八街市の二州小学校です。去年12月、先生や保護者が付き添って、小学4年生の児童たちが通学路の安全点検を始めました。

使うのは、スマートフォンのみ。自分たちが危険を感じる場所で写真を撮影します。

例えばこの壊れた縁石。
児童は写真を撮るだけでなくスマートフォンを口に近づけて、つぶやきます。

男子児童「転びそうな場所がありました」

なぜ危険を感じたのか。どういった対策がとれるのか。
子どもらしい率直な意見を同時に録音していきます。

専用のアプリを使い、写真と音声が地図上にそのまま反映されるので、手軽に正確な記録を作ることができます。
スマートフォンに慣れている様子の小学4年生の児童たちは、すぐに使いこなしていました。

子どもが感じる危険

毎日歩いているからこそ感じている危険があります。
このグループが立ち止まったのは、下り坂のカーブです。

男子児童「いつもすごいスピードで車が走っている」

いつもどんな車がスピードを出して通り過ぎていくのかを記録しました。近くのガードレールには車がぶつかったようなあともあり、すかさず写真を撮っていました。

別のグループが危険を指摘したのは、歩道のない狭い道路です。次から次へとトラックが通っていきます。

男子児童「歩道はないし、事故が起きそうな不安な道です。トラックが結構通るので歩くときは気をつけましょう」

女子児童「登校中はトラックがいて、いつ事故が起きてもおかしくないと思います」

客観的な状況だけでなく、率直な思いも記録していきます。

写真は、大人より背の低い子どもたちの目線で撮影されます。この場所で撮影されたトラックの写真は、より大きく見えて圧迫感を感じます。

このほか、建物や塀で見通しの悪い十字路や、すれて薄くなった道路の停止線なども細かく記録していきました。

あわせて2日間、およそ1時間半ずつかけて通学路を見て回りました。各班とも数十枚の写真を撮影しました。

「めちゃくちゃ怖いです。八街市の事故で2人亡くなってしまったけど、次、こんなことがないようにしたい」

「こうやって振り返ってみると危険な場所がたくさんあるんだなって思った」

アプリ考案者は

アプリを考案したのは立正大学データサイエンス学部の原田豊教授です。今回の通学路の安全点検のアドバイザーも務めています。もともとは科学警察研究所に勤めていて、犯罪社会学が専門です。

桜井記者

「なぜこうした取り組みを始めたのですか?」

原田教授

「最初は防犯のためでした。通学路の点検のように、防犯ボランティアが、日常的に地域を点検していましたが、何かを予防する取り組みは、なかなか結果が見えなくて、続ける方も大変だと感じました。そこで、地域の問題が1つ1つ解決されていくことも含めて簡単に記録できる仕組みを作ろうと始めました」

原田教授が大切にしているのが、現場の負担を減らすことです。音声でメモを取るのは、紙の地図などを使うと天候が悪い場合に大変だと聞いたからです。

櫻井記者

「なぜ現場の負担を減らしたいと思ったのですか?」

原田教授

「主役となる子どもが元気に一生懸命やることが大切で、われわれ研究者は、活動の中で面倒くさいことを、なるべく少なくするために何ができるかを考えないといけない。そのことによって息切れしないで長く続けられる。安全の取り組みは1回限りでは何の役にも立ちませんから、どれだけ長く続けられるか勝負だと思います」

当初はGPS受信機とデジタルカメラ、ICレコーダーで始めた取り組みですが、アプリも開発して、通学路の点検にも活用するようになりました。手軽にできるからこそ、子どもも参加できるということです。

櫻井記者

「なぜ子どもが点検を行うことが大切なんですか?」

原田教授

「子どもは目線がうんと低いです。ですから、そういう子ども目線で見た怖さみたいなものが写真を通じて、たくさんの人に理解してもらえます。また子どもたちがこんなに頑張っているなら、『私たち(地域の大人)も何か出来ることはありませんか』ってそういう気持ちになって下さるんです」

まとめ作業も子どもたちで

1月14日。学校では集めたデータのまとめ作業が行われました。特に危険な場所を1グループあたり5か所ほど挙げて、危ない理由や考えられる対策をまとめます。

パソコン上だけでなく、大きな紙の地図もつくることになりました。張り出して学校全体で共有するためです。

児童たちはグループごとに話しあいながら、およそ1時間かけて、地図の大部分を完成させていきました。

他学年の児童にも共有

2月25日、地図が完成して発表会が行われました。27の危険か所がまとめられています。感染対策のため、ほかの学年の児童への説明はオンラインで行いました。

女子児童「二州小学校前の交差点です。ここは多くの人が利用するのに歩道がない、しかも車が多いです」

男子児童「この場所は見通しが悪い場所です。なので左右をちゃんと見て車が来ていないかしっかり確認して渡りましょう」

櫻井記者

「やってみて、どうでしたか?」

「みんながわかりやすく出来ていてよかったと思います。事故をなくしたいと思いました」

「いつもは普通に歩いていたけど、どのように歩けばいいかも考えたので活用できるいい地図になったと思います」

 

担任の川津亮太先生「子どもたちがとても意欲的に好奇心を持って取り組むことができたと思います。ただ漠然と気をつけましょうじゃなくて、具体的にどういうふうに気をつけなければいけないのか、自分で考えて自分で行動することにつながると思います」

今後は?

八街市では新年度、二州小学校を含めた市内すべての小学校で同様の取り組みを実施する予定です。

立正大学 原田豊教授

原田教授「今回がはじめの一歩という形で、子どもたちの取り組みが1つの発信力になって、地域の多くの人たちが変わっていく方向に向かっていってもらえるといいなと思いました」

その上で課題も指摘します。今回の地図作りでは、「交差点でしっかり左右を確認する」など、子どもたちができる対策に主眼が置かれました。

原田教授は、子どもたちの点検結果を行政や警察などとも共有して、ハード面の対策にもつなげる必要があるとしています。

原田教授「子どもたちがみずから気をつけて何とかなる部分と、やはり、どうしても物理的な対策が必要になるところがあります。行政や警察の方にも、子どもたちが感じている怖さを地図を通じて見て、聞いていただき、それを土台に対策を進めて欲しいです」

取材後記

「子どもが主役」という原田教授の言葉が心に残りました。今回の主役となった児童たちは熱心に点検を行って、「下の学年の子どもたちの安全のためにも」という思いも持っていました。一緒に回ってみると「危ない」「怖い」「不安だ」という率直な声も聞かれ、行政や警察の担当者には、こうした声にこそ耳を傾けてほしいと思いました。

平成24年度に全国で行われた通学路の一斉点検の際、八街市からは1つの小学校あたり1か所の危険か所しか報告されませんでした。今回の取り組みでは、1つの小学校だけで多くの危険か所が洗い出されています。大人の理屈ではなく、子どもたちの声を土台に安全対策を進めていく重要性がよくわかります。八街市にとどまらずに、こうした動きが広がって欲しいと思いました。

  • 櫻井慎太郎

    千葉放送局 記者

    櫻井慎太郎

    2015年入局。長崎局、佐世保支局を経て千葉局。八街市での事故発生直後から現場で取材にあたる。過去に起きた通学路の事故の関係者や行政の対応を継続して取材している。

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