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虐待で失われた10か月の命 SOS逃さず教訓生かす 千葉・市原

  • 2022年01月26日

千葉県市原市で生後10か月の女の子が食事や水を与えられず、衰弱して亡くなってから1月25日で2年が経ちました。市に虐待が疑われる情報が寄せられたにも関わらず、助けられなかった命。教訓が多く残されました。
「小さなSOSを絶対に逃がさない」。そんな思いで進められている対策を取材しました。

把握されなかった”SOS"

2020年1月25日、市原市のアパートで生後10か月の小西(※西はたてにし)紗花ちゃんが食事や水を与えられずに衰弱しているのが見つかり、病院で死亡が確認されました。
去年10月、母親は保護責任者遺棄致死の罪で懲役3年の実刑判決を受け、確定しています。

この事件については当時、関係機関が虐待の兆候を受け止めきれていなかったことが、課題として指摘されました。

紗花ちゃんは、生後4か月で行う検診を受けていませんでした。
さらに兄と姉が通う幼稚園や保育園から市に、「登園していない」、「養育状況が心配」などといった情報が寄せられていました。

こうした状況を受けて、市の担当者も家庭訪問を実施しましたが、9か月にわたって直接、紗花ちゃんの姿を確認できず、児童相談所への相談も行っていませんでした。

市原市の小出市長が第三者委員会の川﨑会長から報告を受ける(2021年3月)

去年3月、市の対応を検証していた第三者委員会は、「市が虐待のリスクを適切に判断していなかった」と結論づけました。この委員会の川﨑二三彦会長は当時、「虐待のリスクを拾い上げる組織としての力量が足りなかった。今回を出発点として改善策をとってほしい」と話しました。

SOSを逃さないために

この結果を受け、市原市は組織体制を見直しました。

児童福祉部門の人員を8人から21人と3倍近くに増員し、児童相談所の所長経験者をスーパーバイザーとして配置しました。

毎週金曜日には、対応すべきケースについて検討会議が開かれ、スーパーバイザーがその内容をチェックし、アドバイスを行います。

職員向け研修プログラム

また毎週のように、適切な支援を行うための職員向けの研修が行われています。
初期対応や記録の書き方など基礎的なものから始まり、虐待による子どもの死亡事例から教訓を学ぶというものもあります。

吉田一郎 児童福祉スーパーバイザー
「市からすると、接触の際に窓口となる親を中心に考えてしまいがちになりますが、子どもを第一に考えて行動することを忘れないようにと伝えています。面接や訪問に回り、報告や記録も正確に残さなければならないので忙しい仕事ですが、1人1人が献身的に頑張っていると思います」

そして、新たな対策もはじめています。

事件から半年後の2020年7月からは、乳幼児検診や予防接種を受けていないすべての家庭を毎月確認して、職員が訪問して子どもと直接、面会するようにしているということです。先月末までにのべ336件の面会を行ったといいます。
保護者が拒否するなどして、子どもと面会出来ない場合には、児童相談所や警察と連携して一緒に家庭を訪問をするなど、一歩踏み込んだ対応を徹底するようになったということです。児童相談所と一緒に訪問したのは12件ありました。

さらに、子育てに課題を抱える家庭に育児や家事専門のヘルパーを派遣する取り組みを、去年10月から始めました。家庭内で虐待に至るケースのなかには、保護者が問題を抱えて家事をやりきれなくなり、そうしたストレスが重なって子どもに向かってしまう悪循環となるケースがあるからです。これまでに4世帯に対して18回の支援につながっています。担当の職員が家事のやり方を教えることもあるということです。

このほか、産後うつや虐待の早期発見につなげようと、SNSを活用した取り組みも去年6月から始めています。この取り組みでは、コロナ禍でも若い世代が相談しやすいようにと、夜間や休日にSNSで、市内の産婦人科医や小児科医に相談できるようにしました。「子どもの発熱への対応」や「精神的な不調」など、先月末までにのべ691件の相談が寄せられているということです。

市原市 小出讓治市長

小出市長
「当時、市としては強制的に家庭内に踏み込むということができず、もう一歩踏み込んだ対応ができればよかった、という点が非常に無念に思っています。関係機関と情報共有することによって、2度とそうしたことがないように、小さなSOSを絶対に逃がさないという強い覚悟で取り組みを進めています」

事件のあったちはら台地区の社会福祉協議会も、事件の教訓から、子育てで孤立しがちな家庭を支援する活動を始めました。

この地区には、京成電鉄千原線の終着駅があり、マンションや住宅が立ち並んでいます。子育て世代も多く、地区の人口は、およそ2万8000人です。

ちはら台地区社会福祉協議会 元起裕一会長

元起会長
「同じ地域に住んでいて、『非常に残念だ』、『何かできなかったのか』、『私たちに力がなかったね』というような声を頻繁に聞いてきました。ここはできて30数年になる団地で、昔からのつながりはあまりないんです。だからこそ、みんなで寄り添って一緒にやっていこうという機運を作ろうとしてきました。ただ、家庭と接する最初の一歩が難しいところがあるんじゃないかと考えています」

紗花ちゃんの家族も、事件の3年余り前に市外から転入してきていました。
事件の教訓を生かし、ちはら台地区社会福祉協議会は、保育園や幼稚園に通っていない子どもがいる家庭について市と情報共有しています。その上で、専門家による研修を受けた住民を毎月1回、2人1組で派遣し、悩みごとを聞いたり、子育て中の親子の交流会を紹介したりしています。

現在はこの方法で9世帯の見守りを行っています。
このうち2つの世帯が、先月、子育て中の親子が集まる地域のクリスマスパーティーに参加するなど交流のきっかけになったということです。
 

元起会長
「私たちができることは、お隣や近所に声かけをするとか、『最近見ないね』とか気遣うくらいです。私たちだけで問題を簡単に解決できるとは思っていませんが、この活動を通じて住民同士の心のつながりを緩やかに持ち、必要なときに手が差し伸べられるようにしていきたい」

市原市と市の社会福祉協議会では、この取り組みを今後、市内全域に広げていきたいとしています。

取材後記

この事件をめぐっては、行政が事件とどう向き合うかも問われました。市原市は、紗花ちゃんが死亡してから4か月の間、対応を検証していなかった上、母親が逮捕されても、当初は対応状況の詳細を明らかにしませんでした。
その後、市は「虐待の疑いがある」という情報が寄せられていたことを認め、市の幹部は「救えた命だと思う」と発言し、第三者委員会が立ち上がりました。第三者委員会の報告書を読むと、いくつもの兆候があったのに、なぜ一歩踏み込めなかったのかと、私でも辛く悔しい気持ちになります。
今回取材したすべての人から、幼い命を救えなかった後悔をひしひしと感じました。それは、事件について丁寧な検証が行われたからこそだと思います。市原市の取り組みがどこまで進むのか、新たな課題はないのか、引き続き取材したいと思います。
 

  • 櫻井慎太郎

    千葉放送局 記者

    櫻井慎太郎

    2015年入局。長崎局、佐世保支局を経て、千葉局で県政を担当。

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