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ワクチン接種券 住民票なくても申請できます

  • 2021年07月21日

新型コロナウイルスワクチンの接種券は、住民票をもとに人々に発送されるため、住民票がない路上生活者やネットカフェなどで寝泊まりしている人たちは、現状、受け取ることができません。こうした人たちにどう、接種券を受け取れることを知らせるかが課題となっています。

“あきらめていた”

「ワクチンは打ちたかったが、住民票もないし、諦めていた」
こう話すのは、ことし4月末まで20年ほど、路上生活をしていた68歳の男性です。

沖縄県出身のこの男性は、30代のころ職を求めて上京し、寮に住み込みながら建物を解体する仕事などに就いていました。しかし50歳をすぎたころ、それまでの過酷な労働がたたって腰を痛めて働けなくなり、仕事と、住む場所を失ったといいます。

家族と疎遠になっていたことなどから、沖縄に戻ることが出来ず、神奈川県や千葉県などで、賞味期限の切れた食料をコンビニエンスストアから分けてもらいながら、公園や路上で段ボールを敷いて休息を取るなどして過ごしてきました。

異変を感じたのは、去年の春ごろだったといいます。町を行き交う人が、みんなマスクをし始めたのです。

男性

「なんだろう、と不思議に思いました。そうしたら、歩いている人が『新型コロナというとんでもない病気がはやっているから、マスクをした方がいいよ』と教えてくれました。マスクなんて持っていないと伝えると、その人はマスクを分けてくれたんです。大事に使いました」

その後、男性は、路上生活者を支援するNPOのスタッフと出会い、保護されました。それからは、この団体が運営するシェルターで生活するようになります。

男性はそこで、新型コロナウイルスのワクチンの存在を知りました。
しかし、住民票がない自分には関係のないことだと思っていたといいます。

「怖い病気なので、ワクチンは打ちたかったですが、住民票もないし、あきらめていました。あきらめるしかないと思っていました」

そういう男性に対し、NPOのスタッフが、住民票がなくてもワクチン接種券の発行を申請できることを伝えました。

「あきらめていたので、本当にうれしかったですね。ありがたいです」

ワクチン申請へ

申請のため市川市役所に入るNPO理事長と男性

今月16日、ワクチンの接種券の発行を申請するために、男性はNPOの理事長とともに市川市役所を訪れました。

市役所では、名前や年齢のほか、住民票がない理由などを書いた申請書類を提出しました。
男性は神妙な面持ちで、NPOの理事長と市の担当者とのやりとりを聞いていました。

NPO法人「ガンバの会」副田一朗理事長
「どなたでも安心して暮らせるように、希望する人にはワクチンの接種券の発行をお願いします」

市川市保健センター疾病予防課 西倉和弘課長
「今回、住民票がない方からの申請は初めてでした。路上生活者の方などがどこにいらっしゃるのか、私たちが正直把握できていないのが実情です。これからも民間の支援団体の協力を得ながらワクチン接種ができるように対応にあたっていきたい」

この日、男性の書類は無事に受理されました。

「本当にうれしいです。あきらめていたので、本当にありがたいです。路上生活をしている人は、ワクチンを打てることを知らない人もいますし、あきらめている人もいるので、希望する人の接種券の申請が増えたらいいと思います」

周知の難しさ

接種券を受け取れない路上生活者について国は、ことし4月末、自治体に対し、このような内容の通知を出しています。

・自治体で接種が受けられることを周知すること
・申請があれば接種券を発行して、適切に接種を進めること

しかしことし6月、NHKが千葉市や船橋市など千葉県内の10の市に取材したところ、7つの市では路上生活者が接種を受けるための手続きが決まっていませんでした。

また、「路上生活者向けに接種方法を周知している」と回答した自治体は1つもありませんでした。

現時点で対応が進んでいない理由について、自治体側からは、こういった声が聞かれました。
 

「ホームレスの人がどれだけいるのか把握しておらず、対応が難しい」
「対応すべき課題と認識しているが、現在住民票がある人たちへの接種対応が繁忙で、正直そこまで手が回らない」

民間の力を活用して!

そこで、男性を保護したNPOは、市民へのワクチン接種への対応などに追われる自治体に代わって動くことを決めました。

NPOの日頃の巡回活動

このNPOでは日ごろから、夜に町なかを巡回して路上生活者たちにシェルターに入るよう呼びかけたり、食料支援をしたりしています。
人々が寝泊まりしている駅周辺や公園などを詳しく知っていることから、希望する人たちにワクチン接種申請の呼びかけを行うことにしました。

NPO作成のチラシ

また、新たにワクチン接種の申請に関する専用の相談電話とメールアドレスを設けました。これらの相談窓口を紹介するチラシも作りました。

NPOでは、カプセルホテルやネットカフェなどをまわって、利用する人たちに配っています。
こちらのカプセルホテルでは、従業員の女性は理解を示し、利用者の目にとまりやすいフロントの近くにチラシを置いてくれました。

カプセルホテル従業員の女性
「長期滞在している利用者のなかには、住民票がない人もいるので、チラシを渡すなど協力していきたいと思います。とてもいい取り組みだと思います」

NPO法人「ガンバの会」副田一朗理事長

NPO法人「ガンバの会」副田一朗理事長
「ホームレスのうち、高齢者やネットカフェで寝泊まりしている人の中には、持病を抱えている人たちもいて、そうした人たちが新型コロナウイルスにかかった場合、重症化する恐れがあります。こうしたいわゆる社会的弱者と言われる人たちで、接種を希望する人は、諦めることがないように、行政をサポートしながら、支援していきたい」

困ったらここに連絡を

NPO法人「ガンバの会」が設置した、住民票がない人などへの新型コロナのワクチン接種に関する相談窓口はこちらです。
 

080-5292-9915(平日の午前10時から午後4時まで)
メールアドレスは、gambawakuchin@gmail.com

取材後記

緊急事態宣言が出された去年4月から、こちらの支援団体の取材を続けてきました。この団体に寄せられる相談件数は、日に日に増えていきました。派遣社員として働いていたのに新型コロナの影響で、首を切られ、寮を追い出された人も数多くいました。日雇い労働をしながらネットカフェで生活をしていた人もいました。社会的弱者と言われる人々の悲痛な声が聞こえてきました。そういった方々は、仕事や住まいだけでなく、“命”をも諦めざるをえないという現状に驚くとともに憤りを感じました。住民票がないというだけで新型コロナウイルスのワクチン接種を諦めることなく、希望する人すべてがワクチンを受けられる日が1日でも早く実現することを願っています。(千葉放送局/記者 松尾愛) 

  • 松尾愛

    千葉放送局/記者

    松尾愛

    2013年入局 宇都宮、金沢をへて、現在は千葉局で警察担当。 ALSなどの難病問題のほか、コロナ関連では医療従事者なども取材。

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