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“救急車を断らない”千葉 旭中央病院 受け入れ100%目指す理由

  • 2021年07月08日

新型コロナウイルスの感染拡大が長期化し、救急患者の受け入れ先がすぐに決まらないケースが増加しています。全国で7月4日までの1週間で消防から病院へ受け入れ先の照会を4回以上行うなどした「搬送困難」なケースは去年と比べて35%も多い状況です。そんな中、「救急車を断らない」を掲げているのが千葉県旭市の旭中央病院です。注目されている取り組みを取材しました。

「救急車を断らない」

旭中央病院

千葉県旭市の旭中央病院にはこの地域で唯一の高度救命救急センターがあり千葉県だけでなく茨城県からも救急患者が運ばれてきます。

「救急搬送の受け入れ要請を断らない」がモットーのこの病院では、毎朝、看護師2人が、院内全体の病床調整をします。空いている病床を確認し、スムーズに受け入れを行うための準備です。

病床を調整する看護師

昨年度1年間で、救急車からの要請に対する受け入れ率は96%に達しました。新型コロナウイルスの感染の疑いがある場合も断らない方針です。

旭中央病院救命救急センター副センター長の伊藤史生(ちかお)医師は地域医療の要として要請にはできるだけ応じたいと取り組んできました。

旭中央病院 伊藤史生医師

伊藤医師
「当院しか受け入れる場所がないにもかかわらずベッドがいっぱいでなかなか受けることが難しいという状況はなんとかしていかなければいけないと考えたところではあります」

かつては700件断った年も

この病院でも、医師不足や地域の病院の診療停止の影響で、以前は700件以上受け入れを断った年もありました。「このままではこの地域の救急医療が立ちゆかなくなる」という危機意識から3年前、地域の病院や自治体、消防などを巻き込んでネットワークを設立し、受け入れ率アップに向けた改革を始めました。

まず取り組んだのが、夜間の要請ルールの見直しです。これまで市外の救急隊はまず最寄りの病院などに要請し、断られて初めて旭中央病院に連絡していました。しかし搬送調整にかかる時間を短縮するため、直接、要請しても良いとルールを見直しました。

匝瑳市横芝光町消防組合 畠山重勝さん

畠山重勝さん
「夜間は基本的には旭中央病院をファーストコールで、と。夜間の活動はしやすくなってくると思います」

早めの転院で病床確保

救急搬送された男性(撮影 旭中央病院)

さらに早めにほかの病院に移ってもらうことで受け入れのための病床を確保する取り組みも行っています。バイク事故で重症を負った30代の女性は緊急処置した後、容体が安定していたので、翌日には自宅近くの病院へ転院しました。また80代の男性は肺炎でしたが、コロナの検査は陰性で、一晩様子を見たのち、地元の病院でも対応可能と判断されました。

なぜ速やかな転院が可能なのか。これまで、転院先を見つけるには紹介状のFAXでのやりとりなどで半日かかることもありました。これを解消し病院間のやりとりを迅速に行うためこの春導入したのがSNSです。

簡単なメッセージを交渉先の医師らにSNSで送信します。これを確認した男性の地元の病院からはすぐ受け入れ可能という返事が来ました。男性は、搬送された翌日には、転院していきました。

連携する病院の医師もこの早期転院の意義を強調します。

銚子市の島田総合病院 嶋田一成院長

嶋田院長
「旭中央病院での急性期措置が終わったら、速やかに患者を地域に戻すという流れが、ネットワークを通じてできはじめた、それぞれの医療機関が役割を理解して果たすことがうまく回り始めていると思います」

さらなる連携も模索

病院ではこうした効率的な転院調整の枠組みをさらに広げようとしています。

伊藤医師みずから隣の香取市の県立病院を訪問し、SNSで転院調整を行うメリットをPRしました。病院側からは今後前向きに検討したいと返事をもらうことができました。受け入れ率100%を目指し、病院ではさらに地域の病院などとの連携を強化することにしています。

伊藤医師
「自分たちの病院だけでやろうとしてもベッドの数であったりとかマンパワーとか、いろいろな面で制限が出てしまうので、地域のみんなで同じに考えることができれば、結果として患者さんのためになればそれが一番いいのかなと思ってます」

SNSのやりとりでは、万が一、情報流出が起きた場合に備えて個人が特定できない内容だけを共有し、後ほど正式な紹介状を送るというルールを定めてやりとりを簡単にしているということでした。 旭中央病院から別の病院に移ってもらうためには、患者側の理解も欠かせないため、患者やその家族への説明も丁寧に行っているということでした。

取材後記

千葉局に赴任して初めて旭市を訪れた3年前、取材した市民が「病院のまわりだけ車と人があふれている」と言っていました。新型コロナの感染者がまだ少なかった去年春、大規模なクラスターが発生した際の対応をこの病院が担ったことも聞いていました。ずっと存在が気になっていた旭中央病院。知り合いのフェイスブックで「救急要請の受け入れ率はほぼ100%達成」と書かれているのを見て、「これだ!」と思って取材を始めました。当初、組織としての取り組みを伝えようと思っていましたが、病院の事務の人が「伊藤先生ってあんな感じでフランクなんで、何でも気兼ねなく言いやすいんです」と慕っていたり、ネットワークの会議終了後には消防や高齢者施設の方がアドバイスを求めて伊藤医師を待つ列を作っていたりするのを見て「伊藤医師中心のリポートにしよう」と決めました。今回取材した、夜間の救急要請ルールの見直しもSNSの導入も、「この地域の救急医療を取り巻く現状を変えていかなければ」という伊藤医師らの熱い思いがあって、まわりを動かせたのだと思います。旭中央病院の救命救急センターには、多くの研修医がいました。全国各地で活躍するであろう彼らが、これらの取り組みをぜひ広げてほしいなと思います。(千葉放送局/記者 金子ひとみ)

  • 金子ひとみ

    千葉放送局/記者

    金子ひとみ

    2006年入局。札幌局などを経て社会部。いったん退職し18年に4年ぶりに再入局。千葉県政などを担当。

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