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コロナ禍 盲導犬ユーザーが直面した“入店拒否”

  • 2021年1月19日

盲導犬は目が不自由な人にとって生活に欠かすことができないパートナーです。法律で公共施設をはじめ商店などに同伴できると定められています。ところが新型コロナウイルスの感染拡大で盲導犬ユーザーと盲導犬をめぐる状況に変化がおきています。
「ちょっとこのご時世なので、犬の同伴は遠慮してください」
施設や店舗で受け入れを拒否されるケースが増えてきているのです。コロナ禍で多くの人が感じている戸惑いと不安。盲導犬ユーザーは孤立感を深めていました。
(首都圏局/記者 水谷厚彦)

周囲の手助け 感染拡大で変化が

横浜市に住む会社員の大沢郁恵さんは、進行性の網膜の病気で視力はわずかで、盲導犬の「レディアン」は日常生活に欠かせないパートナーです。
職場への電車通勤、休日の買い物や散歩など、外に出かける時には、いつもレディアンと一緒です。

大沢郁恵さんと盲導犬のレディアン

大沢さんの生活を支えているのはレディアンだけではありません。新型コロナの感染拡大の前は、場所がわからなかったり、道に迷ったりして困っていると、周囲の人が声をかけて助けてくれることがたびたびありました。
しかし、新型コロナが感染拡大にともなって、大沢さんは、声をかけてくれる人が減ったように感じています。

大沢郁恵さん
「いまは感染症対策で『ソーシャルディスタンス』をしっかり確保して、外ではできるかぎりしゃべらないよう求められるようになりました。誰もが他人に声をかけにくいでしょうし、私からも気軽には道を尋ねづらい状況です。ただ、視覚障害者にとっては、周囲の人の助けが必要だということもわかってほしいです」

ソーシャルディスタンスの考え方は、さらに大沢さんを戸惑わせることになります。その理由は、パートナーのレディアンのふるまいでした。
盲導犬は、曲がり角や段差などの大事な情報を訓練で覚えた動作によってユーザーに伝えますが、人と距離をとるようには訓練されていません。このため大沢さんは、人が多い電車の中や交差点で信号待ちをしている際などに、周りの人と「ソーシャルディスタンス」を保てているか不安を感じたのです。

大沢郁恵さん
「レディアンはどちらかというと人との心の距離がとても近い性格で、人に近づいていくことがあります。そのため、『ソーシャルディスタンス』をとることができず、周りの人に近づきすぎてしまって、なにか文句を言われてしまうのではないかと不安です」

“入店拒否” 盲導犬ユーザーが直面する深刻な事態

さらに、感染拡大の影響で深刻なケースが出ています。

盲導犬ユーザーが、盲導犬を連れていることで明確な理由もなく、スーパーや飲食店への入店を拒否されるケースが増えているというのです。

盲導犬は、一般の犬と違って交通機関や公共施設はもちろん、飲食店や病院、スーパーなど不特定多数の人が利用する場所でも同伴できることが「身体障害者補助犬法」という法律で認められています。

しかし、感染が拡大した去年5月から6月に「日本盲導犬協会」がユーザー262人から聞き取り調査を行ったところ、「スーパーで初めて入店を拒否された」とか、「入店拒否が今後、さらに増えるのではないかと不安」といった声が相次いで寄せられたのです。

協会は、盲導犬ユーザーがこうした事態に直面している現状を深刻に受け止めていました。

日本盲導犬協会 山口義之専務理事
「新型コロナウイルスが『犬から人に感染した』という事例はこれまでに報告されていません。しかし、誤解や漠然とした不安などから、盲導犬やユーザーに対して厳しい視線が向けられているのではないかと思います。その結果、施設や店舗で受け入れ拒否にあうケースが増え、不安を感じる盲導犬ユーザーも多いというのが現状です」

なじみの店なのに…「ご遠慮ください」

実際、大沢さんも感染が拡大していた去年5月、よく利用していた近所のスーパーで、盲導犬を連れての入店を拒否されました。

以前は、盲導犬も快く受け入れてもらっていたし、お願いをしたら店のスタッフが買い物に同行してくれるサービスが受けられるなど対応が親切で、お気に入りの店だっただけに、大沢さんはとてもショックだったといいます。

大沢郁恵さん
「はっきりとした理由は示されず、『ちょっとこのご時世なので、犬の同伴はご遠慮してください』という言い方をされました。店側とトラブルになるのも嫌なのでその場は引き下がりましたが、帰り道に『コロナ禍だからといって、どうして盲導犬を連れて入店できないのだろう』とか『私のケースが先例になって、あの店で介助犬や聴導犬など、ほかの補助犬も同伴できなくなってしまうかもしれない』と、その場で何も言えなかったことを後悔しました」

そこで大沢さんは、後日、協会を通じて店舗に抗議し、店からは「対応に不手際があり、今後はスタッフへの指導を徹底します」と、謝罪を受けたということです。 

大切な存在の盲導犬 正しく理解してほしい

こうした事態を踏まえて、盲導犬協会で、啓発パンフレットを作成しました。

 パンフレットでは、次のように訴えています。

▼新型コロナウイルスの犬から人への感染事例はこれまで報告されていないこと
▼感染を心配するあまりに、根拠もなく盲導犬の受け入れを拒まないようにしてほしい
▼店や施設は感染対策をしっかり行ったうえで、盲導犬を連れた人もほかの利用者と同じように受け入れてほしい

大沢さんは、外出する際にこのパンフレットを持ち歩き、入店した店などで配って、盲導犬を正しく理解してほしいと呼びかけています。

この日、訪れたのは以前に一度ランチに訪れたことのあるダイニングバー。大沢さんはそのパンフレットを店主に手渡して「私にとっては盲導犬も体の一部と同じなんです」と説明していました。

店主の月岡輝行さんと大沢さん

 店主の月岡輝行さんは、大沢さんの話を聞いて、盲導犬について初めて理解が深まったといいます。

月岡さん
「このパンフレットを読み、話を聞いて、盲導犬ユーザーの方にとって、盲導犬の存在がどれだけ大切か、よくわかりました。今後も気兼ねなく店を利用してほしいです」

感染拡大するなかでの「新しい生活様式」でも盲導犬が正しく理解され、受け入れられるように。大沢さんは、これからも多くの人に伝え続けていくつもりです。

大沢郁恵さん
「これからも盲導犬ユーザーならではの悩みや困っていることを積極的に伝え、盲導犬への理解がさらに進めばいいと思います。コロナ禍で不安を抱えている盲導犬ユーザーが多いと思うので、周りの人は街なかで困っていそうな人を見かけたらまずは声をかけて、コミュニケーションを図ってもらえるとうれしいです」

取材後記

「コロナ禍」で生活様式が変わり、多くの人が戸惑いや不安を抱えるなか、盲導犬を連れた人たちが日常生活で孤立感を深める場面が増えていました。
常に感染対策を徹底しなければならないストレスのしわ寄せが、支援を必要とする人たちに及んでいるように思います。

コロナ対応を強いられる状況が長期化するなか、私たちは余裕を失い、周囲に対して不寛容になっていないでしょうか。
不安やストレスに押しつぶされそうになる「コロナ禍」だからこそ、「他者への思いやり」や「支え合う気持ち」がより必要とされていると感じます。

お互いの感染予防を図りながら、みんなが暮らしやすい社会へ―。
困っていそうな盲導犬ユーザーへのちょっとした声かけなど、いまできるサポートを私も実践してみようと思います。

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