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「チャーミングケア」でどんな子もおしゃれを

~“境界”を乗り越える Border Break~
  • 2020年11月27日

『病気や障害があっても子どもたちが前向きに生活を送れるようにおしゃれを楽しむ』
そんな考え方を「チャーミングケア」と名付け、オリジナルの服やグッズが販売されています。病気や障害があっても、子どものかわいらしさを追求したいという気持ちに変わりはありません。子どもや家族が前向きに生きるために、母親たちが活動を始めています。
首都圏局/記者 氏家寛子

チャーミングケアの商品とは?

「娘は呼吸器を付けていてしゃべることはできませんが、年頃なのでかわいいとか華やかなものが好きなので、娘も喜ぶと思って買いに来ました。私自身も『介護をしている』というだけだと苦しくなってくることがありますが、こういうかわいいものがあると、ちょっと楽しくなれます」

これは、ある展示販売会を訪れた医療的ケアが必要な17歳の娘の母親の言葉です。

11月、病気や障害のある子どもが、治療や介護を受ける生活のなかでもおしゃれを楽しんでもらうための商品の展示販売会が開かれました。

会場の東京・千代田区の商業施設には、機能性に加え、見た目にもこだわった商品が並びました。

かわいい刺しゅうが施されたベビー服は、早産などでとても小さく生まれた赤ちゃん向けです。

防寒ブーツは紺色に白い星柄の模様が入ったデザインで、足に装具をつけている子どもも履けます。

チューブなどを体につけるときに皮膚に貼るテープは、動物のイラストが描かれ、とてもカラフルで見ただけで気持ちが楽しくなりそうです。
 

息子が小児がんに 落ち込んだ息子が変わったのは

展示販売会を開いた、大阪府池田市に住む石嶋瑞穂さんです。

4年前、石嶋さんの当時小学2年生だった息子が小児がんで入院しました。

息子は治療の影響で髪が抜け、顔がむくみ、爪が黒ずんできました。変わっていく外見に、息子は「嫌だな。どんどん髪の毛が抜けている」と落ち込んでいたといいます。周りの人ともコミュニケーションを取ろうとせず、話をするのは家族だけでした。

そんな中、石嶋さんの友人がおしゃれな生地で作ってくれた抗がん剤を投与するためのカテーテルのカバーをつけると、いつもは遠ざけている看護師さんたちに対して「ブランドもんなんやで!」と自慢そうに見せていたといいます。

そんな息子の姿に、石嶋さんは治療中でもおしゃれを楽しむことが前向きな生活を送るために必要で、それは病気や障害があるすべての子どもに言えることではないのではないかと感じました。

石嶋さん
「髪の毛を生やしてあげたり、爪をどうにかしたりすることはできないけれど、違う方法で明るくすることができると気づきました。病気や障害があっても『かっこいい』『かわいい』を我慢したりあきらめたりする必要はないと思うんです。ちょっとかわいく、かっこよくするだけで気分があがって、看護する側も優しくなれる。治療というわけではありませんが、そういうことは必要なんじゃないかと思いました」

しかし、薬の副作用や手術を受けたがん患者の外見のケアは『アピアランスケア』と言われ浸透してきている一方で、そうした考えは子どもの間ではまだまだです。そこで、子どもの見た目のケア、精神的なケア、そして家族のケアも含めて子どもらしさやかわいらしさを守ろうと『チャーミングケア』という名前をつけました。

石嶋さんは思いを同じくする出品者を募り、ことし1月、『チャーミングケア』の商品を販売する専用のウェブサイトを立ち上げ、運営を始めました。

ウェブサイトでは、欲しい商品が必要な人に届くよう、商品の機能や使い方の紹介のほか病気や年齢、そして「入院」や「外出」「食事ケア」など困りごと別でも検索できる仕組みにしています。

共感の輪は広がり、立ち上げから1年足らずで、出品する企業や個人は50を超え、500点を展開するまでになりました。

おしゃれは家族の心も軽くする

石嶋さんのウェブサイトに出品しているひとり、奥井のぞみさんは、重度の障害がある息子の伊吹君(10歳)を含め3人の子どもを育てる母親です。

奥井さんは、伊吹君が生まれる前、「かわいい服を着せたい」と、ベビー服や小物を手作りして用意していましたが、どれも着せることができず、つらくて段ボールにしまって見ないようにしていました。

着せたい服を着せられないだけでなく、脳性まひで体が動かせない伊吹君は首や肩を通すことが難しいため、市販の服でも合うものがなかなか見つかりません。

そこで、ミシンが得意な奥井さんは、伊吹くんの服を手づくりすることにしたのです。

取材で訪れた日、伊吹が着ていたのは、市販の洋服の上着とズボンを用意してつなぎ合わせた服。茶色と黒色が基調の少し大人っぽいデザインです。
横になったままでも着替えができるように肩のあたりのボタンで外すことができます。

奥井さんは、おしゃれをすることで前向きな気持ちになれるのは子どもだけではなく、介護する親の気持ちも明るくするといいます。

奥井さん
「子どものケアをすることでいっぱいいっぱいになってしまいがちなのですが、洋服や小物を選んだりすることが、親である私にとって息抜きの瞬間になります。看護師さんや学校の先生が見て、『伊吹くん今日のお洋服かっこいいね』って褒められることでうれしくなって、また明日も頑張ろうっていう気持ちになれるんです」

伊吹くんは、チューブで胃に栄養を送る胃ろうを行っています。
奥井さんは、肌に触れる部分にあてるガーゼの代わりになる「ペグカバー」を作って販売もしています。
この日は、クリスマスにちなんだケーキ柄のデザインのものを作っていました。

奥井さん
「介護は孤立しがちですが、こだわりのアイテムをつけることで、病院とか学校で会ったお母さんが、『私もこれつけてるよ』とか『そういうのあるんだ』っていう会話のきっかけになるんですよね。私自身がそうだったように、親がかわいい洋服や小物を選ぶことで、一歩前に進む後押しになればいいなと思います」

子どもや家族が前向きに生きるために

「チャーミングケア」の活動を続ける石嶋さんは、商品をより多くの家族に知ってもらいたいと、ウェブサイトだけでなく、直接、施設で購入できるようにしたいと考えました。

この日、石嶋さんが訪れたのは、神奈川県藤沢市の障害がある子どもたちが通う施設です。

施設に通う3人の女の子にモデルになってもらい、口当たりのいいスプーンや吸水性のあるカラフルなよだれかけを使う様子を撮影し、営業用のパンフレットを作ります。

スプーンは、柔らかいシリコンゴムで歯ぐきが敏感な子どもにもやさしい感触です。また、口に入れる部分が浅めにできていて、口を閉じる力が弱くても食事をしやすい形状になっています。
 

こちらは、車いすに乗せるなど移動する際に手足がぶつからないようにするために使うグッズ。

髪飾りを改良したかわいいデザインです。抱きかかえるときに腕や足を保持することで、けがのリスクを下げて安全に移動できるよう考案しました。

母親
「自分が知らなかったもので便利だなと思うものが買えるのは助かります。手作りしたくても下の子がいるので作るタイミングがなかったりするので。見た目もかわいいし、使い勝手がいいと思います」

石嶋さんは、これからもこうした商品の普及を通じて、おしゃれを楽しむなどの外見ケアが子どもや家族が前向きに生きるために大切だという考えを発信したいとしています。

石嶋さん
「健康な人もいるし、いろんな種類の病気や障害がある人がいます。それを縦割りにするのではなく、みんな同じようにものを選ぶことができるように、『かっこいい』『かわいい』という要素が必要だと思います。かわいくするだけで、これだけ笑顔になってうれしそうにするんだから、そういうちょっとした気遣いをもっと広げていきたいと思っています」

取材後記

取材で印象的だったのは、「介護や治療などで生活に制限があるからこそ、好きなものを選ぶとかそういう”心の緩み”の部分がなければ、当事者もお世話をする人も苦しくなっていってしまう」という奥井さんのことばです。
子どもが病気になったり、大切な人に予期せぬことが起きたりすることは、誰にでも可能性があります。だからこそ、だれもがかわいらしさや自分らしさを追求できる社会であってほしいと思います。

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