ずっと日本人になりたかった

  • 2019年12月12日

日本人と外国人のあいだに生まれる子どもは国内で年間およそ2万人。社会からの偏見に生きづらさを感じている人も少なくありません。
日本人の母と、コンゴ民主共和国出身の父を持つ女性、アシュリーさんもその一人です。
長年、持ち続けたコンプレックス。自分の内なる壁を乗り越えようとする姿を追いました。

日本で生きることの息苦しさ

11月23日、都内で少し変わったオーディションが開かれました。
さまざまなコンプレックスで生きづらさを感じている女性たちの新たな一歩を応援しようという半年間にわたるオーディションで、この日が最終日でした。
1年半前まで7年間引きこもりだったという女性や小児がんとヘルプマークの普及活動をしている女性など、さまざまな経歴を持つ出場者が結果発表の前にみずからの体験をアピールしました。

出場者の一人 アシュリーさんは、コンゴ民主共和国出身の父と、日本人の母のあいだに生まれました。3年前に名古屋から上京し、アルバイトをしながら一人暮らしをしています。

壇上でアシュリーさんは「私はずっと日本で生まれ育って、でも日本にいることによる息苦しさを感じることがすごく多かった」と話し始めました。

コンゴへの拒絶感

出身も国籍も日本のアシュリーさん。
幼い頃から、日本人に見てもらえないことがコンプレックスでした。理由は肌の色でした。

「友達に『手のひらの色は普通なんだね』と言われて、“普通” って何だろうと思っていました。コンゴの血が入っていることによって、私は日本では普通じゃなくなっているという気持ちが強かったんです」

どんどんふくらむコンゴへの拒絶感をつづった日記があります。
タイトルは、「日本人になりたかった」

中学時代、肌の色を揶揄(やゆ)され、いやでも周りとの違いを感じざるを得なかった つらい経験が書かれています。

「黒い人間は汚れていて醜いと、そんな考えが自分の心に定着していた」

それは、みずからの存在を否定することにつながりました。人目を避けるようになり、高校にも通えなくなったのです。

コンゴに向き合うと決意

そんな自分を変えたいと参加したのが、今回のオーディションでした。
半年間の審査のあいだ、参加者たちはみんな、自分のコンプレックスと向き合い、それを個性に変えようとしていました。

その姿に刺激を受けたアシュリーさんは、1つ大きな決心をしました。

「日本人になりたいという気持ちから解放されるには、コンゴの血を受け入れて日本のこともコンゴのことも好きでいられる自分でないといけないと思いました。日本人とか外国人とかそういうところで一生縛られ続けるような感覚があって、なのでやっぱり変わりたいとなるとコンゴに自分が向き合わないといけないなと思いました」

コンゴで気づいた「私は私」

この夏、初めて訪れたのは、ずっと避け続けてきたコンゴでした。
現地では、日本人で言葉も通じない自分に対しても、みんなが分け隔てなく接してくれました。
いつの間にか、人目を気にせず自由に振る舞っている自分の姿に気づきました。
アシュリーさんは、次のように振り返ります。

「みんな、家族のように接してくれるし、自分が自分のまま人に受け入れてもらえたり、自分らしく生きる人がすごく多かった。日本人とか何人みたいな、そういうところを超えてその先の自分でいたい」

それ以来、アシュリーさんは日本に暮らすコンゴの人たちとの交流を始めるようになりました。

帰国後の日記。
そこには、コンプレックスから解き放たれた心境がつづられていました。

「今の私は自分の肌の色が世界で一番好きだし、誰が何と言おうと私は私のまま美しいし、あなたもあなたのまま美しい」

帰国直後に行われたオーディションの最終面接でアシュリーさんは思いを語りました。

「ステレオタイプとか、そういうのに殺されて生きている私と同じような人たちのためにも、もっと発信していきたい。傷は受けるかもしれないですが変える側になりたい」

思い込みや偏見による既存の価値観を打ち破りたいと訴えたのです。

コンプレックスに悩む人たちを勇気づけたい

オーディションの、結果が発表されました。
アシュリーさんは、社会を変えようとする強い意志が評価され、それをたたえる「アクティビスト賞」に選ばれました。最終面接で訴えた強い思いが実を結んだのです。

スピーチでアシュリーさんは「日本にいる、いま息苦しさを感じている人たちに『何人』とか『日本人がどう』とかそういうのを超えた先にみんなもっと自由に生きてよいということを伝えたかった」と語りました。

オーディションの後、アシュリーさんは将来の目標を見つけました。日本にはアフリカにルーツを持つファッションモデルが少ないことから、自分がその道を切り開きたいと考えるようになったのです。

今の心境をアシュリーさんは次のように話しています。

「人からどう思われるかよりも自分がどう思っているかのほうが大事だなと。変わったなって思いますね」

取材後記

「いじめられたことはない」というアシュリーさん。
それでも、友人がなにげなく発する言葉に「自分は普通ではない」と突きつけられてきたと聞いて、私自身も無意識に傷つける発言をしてこなかったか、ハッとさせられました。

アシュリーさんは周りから言われた言葉を内面化し、中学時代は、無意識に毛髪を大量に抜いてしまうほど追いつめられていたそうです。「うぶ毛を剃っていて誤って皮膚まで剃り落としたとき、白い肌が見えて、うれしくなってしまったことがある」という言葉が今も忘れられません。

今回のオーディション、ステージ上は皆 必死で、自分を表現しようとする姿で熱気につつまれていました。さまざまなコンプレックスと向き合い、「個性」に変え、踏み出そうとする女性たちの姿を目にし、私も彼女たちから勇気をもらいました。

  • 村山 世奈

    首都圏放送センター ディレクター

    村山 世奈

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