首都圏情報ネタドリ!

  • 2024年6月7日

追跡 晴海フラッグ ファミリー向けマンションがなぜ投資の舞台に 東京都の回答は

キーワード:

東京オリンピック・パラリンピックの選手村を改修したマンション群「晴海フラッグ」。   

東京都が巨額の公費で整備し、住宅を必要とするファミリー向けに販売されたはずのマンションがなぜ投資の舞台となってしまったのか。   

私たちは、その深層に迫るため事業を監督する東京都に改めて取材することにしました。   
そこから明らかになった新たな事実とは…。   
 

「晴海フラッグ」の購入実態に迫る「首都圏情報ネタドリ!」はNHKプラスで配信します。   
 

配信期間:6/7(金) 午後7:30~6/14(金) 午後7:57

投資家による相次ぐ購入が明らかに

私たちは5月27日、登記簿を使った調査により、晴海フラッグで多数の部屋が投資家によって相次いで購入され、元値の1.5倍から2倍の価格で転売されている実態を報じました。

<実態調査の詳細はこちら>   
元選手村「晴海フラッグ」は誰が買った?1089戸を徹底調査~そこから見えたものは   

すると、ありがたいことに多くの反響を頂きました。多かったのが「私も晴海フラッグに申し込んだのに落選しました」とか「せっかくの五輪のレガシーが投資対象になり残念」といった声です。   

なかにはこんな叱咤(しった)激励も。   
「もっと取材してなぜ投資対象となったのか明らかにしてほしい」

選手村の開発手法検討した資料を入手

まず私たちが調べたのは、晴海フラッグの開発プロセスです。東京大会の開催が決まった2013年9月。日本中が歓喜に湧くその裏で、すでに選手村の整備に向けた検討は、着々と進められていました。

これはそのことを示す資料です。   

2013年9月に都の委託を受けた民間のコンサルティング会社が選手村の開発手法を検討し、その結果を150ページ以上の報告書にまとめていました。まず選手村の開発における重要なポイントは次のような点でした。   

“東京大会までの限られた時間で確実に選手村を整備し、その後マンション群「晴海フラッグ」として住宅を大量に供給する”    

報告書には、この難しい事業を実現するために7つの開発手法を挙げ、都、そして事業に参入する事業者のそれぞれのメリットとデメリットを詳細に検討し、「×」「△」「○」「◎」の4段階で評価していました。

7つの開発手法から選ばれたのは…

その結果、最終的に東京都が選んだのが「市街地再開発事業」という手法でした。民間のコンサルティング会社の報告書でも「最適」とされていた開発手法で、総合評価で「◎」が付いていました。   

「市街地再開発事業」は、土地の権利関係が複雑な駅前の密集市街地などの土地を1つにまとめて、タワーマンションやオフィスなどに建て替える際によく使われる手法です。   

それが選手村のようなさら地で、しかも地権者が東京都単独なのに、なぜこの手法が採用されたのか。違和感を持ちながら報告書を読み進めると、次のような記載がありました。   

“市街地再開発事業は、民間事業者への土地の譲渡時期を最も遅らせることが可能なため、民間事業者の土地保有リスクを軽減できるメリットが最も大きい”   

詳しい意味が理解できなかったため、再開発に詳しい専門家に意見を求めると「土地譲渡のタイミングは民間企業に参入してもらうためには非常に重要なことだ」と教えてくれました。

一般的に、民間企業が大規模な開発を行う際は、まず土地を取得して建物を建てます。しかし、今回の手法をとると、すべての建物が完成するまで東京都が土地を保有し続けます。   

そのため、企業側は完成までの期間、土地の所有にかかる税金だけでなく、土地の購入資金の確保に伴う金利などの金銭的な負担がなくなるとされていました。

都市計画が専門 東洋大学 大澤昭彦准教授   
「土地譲渡のタイミングをずらしていくというのは民間企業にとっても非常に大きなメリットです。オリンピックの開催段階で選手村がないということは絶対に避けなければいけない中で、民間の参入を確実にするために、まず民間の負担をどこまで減らせるかということを考えて、今回の手法を選んだことが報告書からは読み取れます」

建設中の晴海フラッグ

一方、この手法は都にとってもメリットがあることもわかりました。   
報告書にもこう記されています。   

「施行者として事業への関与度が高まり基盤整備を含めた一体的なコントロールをしやすいというメリットもある」   

都にとっては、選手村が東京大会までに整備できない事態は絶対に避けなければなりませんでした。そこで、企業に事業を依頼したあとも、施行者、そして地権者として、事業に関わり続けることが必要だったというのです。   

当時の事情をよく知る都の元幹部が取材に応じ、こう証言しました。

東京都の元幹部   
「企業に手を挙げてもらって特に五輪までに間に合わせる、しっかり作り上げることが当時は1番大事な話だった。都にとっても合理的な手法だった」

元幹部は、この事業において民間参入の障壁を下げられるかが重要だったため、この手法をとることで民間と都の双方に利点があったと認めたのです。   

こうした開発手法の協議を経て、三井不動産レジデンシャルを代表とする11社が開発事業を担うことが決定されました。  

都は540億円を拠出して土地のインフラを整備。その上で企業側におよそ129億円で土地を売却しました。この譲渡額の妥当性を巡っては、住民訴訟も起こされました。(原告の訴えは認められず)。

そして、実際の土地の譲渡は、市街地再開発事業という手法をとったことで、晴海フラッグの完成後となります。つまり2024年6月現在、東京都は土地の所有者であり、かつ監督者です。

販売検討の文書「存在しない」

では、今回の問題の核心部となる分譲マンションの販売方法についてはどのような検討がなされたのでしょうか。 

都は、多額の公費を使ってこの沿岸部に分譲マンション19棟(建設中のタワマン2棟含む)を整備する理由として、主に住宅を必要とするファミリー向けが中心であることを明言しています。 

私たちは、こうした開発の経緯を踏まえれば、販売にあたっても、実需に応えられる販売方法を検討したのではないかと考え、都に議論のプロセスが分かる一切の記録について情報公開請求しました。

しかし、返ってきたのはこの「存在しない」と記された書類一枚でした。   

「当該公文書は作成および取得しておらず存在しない」   

ただ、本当に販売についての検討がなされなかったのか疑問に思い、選手村の開発を審議した委員会の有識者などにも取材しました。  しかし、いずれも「販売方法について議論した記憶はない」という返答でした。    

さらに、晴海フラッグの開発や販売を担っている企業側にも取材しました。   
すると、こちらの担当者も「都と販売方法についてやりとりしたことはない」と証言しました。   

私たちは都の担当者にも取材を申し込み、都の幹部が応じました。そして、この販売方法について問うたところ、こんな答えが返ってきました。

東京都 井川武史部長 
「今みたいに投資目的で多数の部屋が買われているような状況は私どもとして認識できるようなそういった事象はなかったので、当時は対応策ということを検討すべきというところにはございませんでした」

千葉でも さらに東京でも過去には

ただ、公有地における開発で、行政が販売に関与しないことが一般的なのでしょうか。私たちは、ほかの都道府県にも取材することにしました。   

すると、東京都のすぐ隣で同じく臨海部を開発している千葉県では、50年近く前から埋め立て地などの公有地に建設したマンションが投資対象となることを防ぐルールを設けていたことがわかりました。  

千葉県がマンションを開発する企業と交わしてきた契約書を見せてもらいました。   

そこには「事業者は住宅等を分譲するときは、転売目的等の購入を防止するため、住宅等の入居開始可能日から5年間に限り、買戻しができる旨の特約を設定する」とはっきりと書かれていました。   

これは、マンションの部屋の転売などが確認された場合は、民間事業者が住宅を買い戻して売買契約を解除するという内容です。不動産の売主の権利として民法でも認められている特約で、仮に物件が第3者の手に渡っていても契約は有効なため、転売を抑止する効果があるといいます。

千葉県企業局 齊藤英明副課長    
「昭和40年代後半から『買戻しの特約』を契約書に盛り込んでいます。なかでも住宅価格が高騰したバブル期は、投機目的のマンション購入が強く懸念されていました。対策が始まった理由は明確にはわかりませんが、長く住宅用地を供給してきた経験や実績によるものだと思います。現在でも、良好な住環境を形成するため、長期的に住むことを目的にした住民の手に渡るように対策を続けています」

さらに取材を進めると、実は都も過去には同様の対応をとっていたことがわかりました。 

港区にある公有地に建てられたこの分譲マンションでは、開発された際、都は企業に対して販売条件をつけていました。   

マンション周辺で取材を続けると、16年前にこのマンションを新築で購入した50代の男性に話を聞くことができました。   

男性は、申し込みの際に配られた説明書類を取り出して、私たちに見せてくれました。   

そこには「数多くのファミリー世帯が安心・快適に暮らすことができる良好な居住環境」と書かれています。さらに、申し込みや購入にあたり、以下のような厳格な条件がつけられていました。

・申し込みは自ら居住するための住宅を必要とする方とします。   
・一世帯につき一住戸のみの申込・販売となります。   
・法人に対しては販売をおこないません(個人名義に限ります)。

 

50代男性   
「こうした条件のほか、買ったあと5年間は売ってもダメだし、貸してもダメというルールもありました。また、契約後も毎年、住民票や登記記録を出して居住しているかを確認するという厳しい条件もありましたが、このおかげでマンションの秩序は保たれていたと思います。もしこうした条件がなかったら転売や賃貸が横行していたと思います」

都に再び問う 販売条件付けなかった理由とは

このように都も過去の開発では住まいを必要とする人たちに配慮した販売条件をつけていました。それがなぜ晴海フラッグではこうした条件がつけられなかったのか。実は都の担当部局の資料にこんな気になる記載をみつけました。   

「東京都が市街地再開発事業にて売却した保留床について、投機目的での購入防止及び居住者の定着化を目的として、買戻特約を設定していました。不動産市況が大きく変化した現在では、買戻特約を付保しておりません」 

なぜ、都は方針転換したのか?そのことが今回の晴海フラッグで販売方法に関与しなかった理由なのか。 
私たちは、改めて都に質問を投げかけました。それに対する都の回答は以下のようなものでした。 

Q.販売における条件が盛り込まれているケースもありますが、なぜ今回政策目的を達するため販売方法に制限を設けなかったのでしょうか。

A.建築物の整備については、特定建築者制度を活用し、再開発事業の施行者である都に代わり、民間事業者である特定建築者がマンション等の建設と販売を行うこととしている。

特定建築者制度においては、マンションを保有して販売する権利は特建者にあり、販売方法や価格について、都市再開発法などにより、施行者である都は関与できない。

こうした仕組みのもと、民間の特定建築者がマンションを確実に販売することのできるよう、転売禁止などの販売制限は設けなかった。

その後、マンションの購入を希望する方が著しく増えるなどの状況を踏まえ、多くの方が入居できる対応を行うよう都として要請したものである。

気になったのは「都市再開発法などにより、施行者である都は関与できない」という記載。

本当に都は関与できないのか、法律を所管する国土交通省に尋ねると「法律上は特定建築者が建物の権利を有することにはなっている。ただ、施行者が販売に関与できないということまでは法律上定められていない」という回答でした。 

改めて、専門家にも意見を求めました。

住宅政策が専門 明治大学政治経済学部 野澤千絵教授   
「公有地という都民の貴重な土地を活用する場合には、投機目的での購入防止や居住者の定着化に向けて、そもそも特定建築者制度を使う・使わないという手法の違いによって、東京都が関与できる・できないとなる仕組みそのものがおかしいのではないかと感じる。

もしそれが支障であるなら、今後、特定建築者の募集要領、都市再開発法や特定建築者制度そのものを時代の変化に応じて見直していくことが必要。販売の局面で都が全く関与できないとする手法を選んだことが正しかったのかどうかは検証されなければならない」

監督者の都は説明責任を果たすべき

私たちは、この2年近く東京の「不動産」について取材を続けてきましたが、そこで感じたのは住宅価格があのバブル期を超えて上昇し続け、すでに一般世帯にとって東京で住宅を確保するのは難しくなってしまったということです。   

こうした中で、晴海フラッグはある意味、大規模な公有地を使った貴重な物件でした。価格も周辺と比べると割安でファミリー層向けに80、90平米ある広い部屋も多く、取材の中でもここで「子育てがしたい」という声を数多く聞きました。   

その晴海フラッグがなぜ投資マネーの舞台になってしまったのか、都にはこうした事態を招いたことの説明を、さらに検証を強く求めたいと思います。   

<関連記事>   
元選手村「晴海フラッグ」は誰が買った?1089戸を徹底調査~そこから見えたものは   

晴海フラッグの分譲マンション 法人が多数購入 なぜ?7回落選した夫婦“ファミリー向けと聞いていたのに”

あわせて読みたい

ページトップに戻る