首都圏ネットワーク

  • 2024年6月6日

旧河道 都市の“見えない川”とは ~浸水に備えるポイント 川崎市と東京・大田区の事例から

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「なぜここだけ水につかったの?」 
「うちは川から離れているのに」 
大雨が降ったあと、浸水した場所が「まばら」になっていることがあります。
5年前の台風19号で浸水した場所を調べると、ある地形の共通点がありました。
都市化の中で見えにくくなっている浸水のリスクと対策を、専門家と実際に町を歩いて学んできました。

(聞き手:首都圏ネットワーク キャスター 江原啓一郎)
(取材:首都圏局/記者 桑原阿希)

私たちが立っている場所、かつて●●だったんです

今回、話を聞いたのは、災害と地形との関係について研究を進めている帝京平成大学の小森次郎准教授です。
 

江原アナ

大雨に備えて、きょう教えてもらえるポイントは何でしょうか?

小森さん

ずばり“地形”ですね。私たちの身近なところにある、見えにくい地形をみていきます。

小森さんに案内され、まず向かったのは、5年前(2019)の台風19号で、浸水被害が相次いだ神奈川県川崎市の武蔵小杉駅の周辺です。
台風19号では、雨水が排水できなかったり、支流があふれたりするなどして、東京や神奈川の住宅地で浸水被害が相次ぎました。
武蔵小杉周辺でも、駅に近いタワーマンションでは、地下の電気設備が浸水し、停電が発生しました。

小森さんは、浸水した場所の多くでは「地形に共通の特徴がある」といいます。
駅近くの交差点でその地形が見られるというので向かってみると…。
 

ここが“キュウカドウ”だったんです。

キュウカドー?

「旧河道」は、かつて川が流れていたとされる場所だといいます。
まわりより低くなっていることが多く、水が集まりやすい特徴があるといいます。

こんな街なかで…
判然としない私に小森さんが見せてくれたのはある地図。
「治水地形分類図」と呼ばれるものです。
地図上の青い斜線の部分が旧河道です。現在地は、たしかに旧河道上だったことが確認できました。
(※記事の最後に地図の調べ方などをまとめています)

現在地から多摩川の河川敷までは、直線で800メートルほど離れています。
多摩川がかつては大きく蛇行する河川だったことを知って驚きましたが、まわりを見渡せば、ビルやマンション、バスのロータリーがある、ごくふつうの駅前の通りなのです。
 

川の地形は本来わかりやすいのですが、首都圏では、とくに都市化が進んで、旧河道が宅地化されたり、道路が舗装されたりして、地形が“ぼやけて”しまっています。首都圏の旧河道は見えづらいのです。

小森さんは台風19号のあと、浸水した川崎市や世田谷区、それに狛江市など多摩川沿いの15か所を調査しました。その結果、13か所に旧河道が含まれていたことがわかったといいます。

“旧河道”わずかな高低差が…

「旧河道沿いに暮らす人も、その特性はなかなか気づきにくい」
小森さんの指摘を裏付けるような経験談を聞くことができました。
川崎市中原区の旧河道沿いに暮らす女性です。

台風19号の際には、娘に強く勧められて避難していましたが、帰宅してみると自宅の前の道路は1メートルほど浸水し、自宅は床上まで水につかっていました。

被害の様子にショックを受けるとともに、不思議に思ったことがあったといいます。

5年前に自宅が浸水した女性
「自宅のならびだけが浸水していて1本隔てた通りの被害はほとんどなかったんです」

確かに、旧河道沿いの自宅の土台部分は斜めになっています。
調べると、周囲と比べて1メートル余り低くなっていました。
ふだん高低差は感じないという女性、それだけにこれほどの浸水被害は予想外だったと話しました。

わずかな高低差が、まばらな浸水被害につながるのだと、痛感しました。

5年前の台風19号の旧河道沿いの被害についてはこちらにも記事があります。

災害時に身を守るため 身近な地形を意識して

もし、急激に水があふれた際、旧河道沿いに避難してしまうと、浸水が深くなって立往生したり、足を取られたりするおそれもあるのです。

では、地域の特性、リスクを知るにはどうしたらよいか。
尋ねると、小森さんは意外と簡単なことからできる、と教えてくれました。

ふだんから自宅周辺の地形、高低差に意識を向けて、たくさん歩いてほしいです。

街なかを歩きながら、わずかな高低差に気づくためにできる簡単な方法を聞きました。

方法(1) タイルやブロックの数に注目を

緩やかな坂がある場所では、写真のように、両端で建物のタイルやブロックの数が違うということがあります。
道路を歩いてわかりづらい場合でも、まわりを見渡せば思わぬ所に高低差のサインがあります。

方法(2) 身近なものを使って

また地面に水を流すことでも傾斜を確認できます。
クリアファイルやバインダーなどを地面に敷くと水の流れがわかりやすくなるそうです。
ボールやビー玉なども活用できます。
※行う場合は、周囲の状況などに気をつけるようにしてください。

“内水氾濫ハザードマップ”ある自治体はぜひ確認を

そして、実際に歩いてみた上で、確認してほしいのがハザードマップ。
ハザードマップのうちでも、小森さんがすすめるのは、「内水氾濫ハザードマップ」です。
“内水氾濫”とは大雨の際、市街地で下水道などが排水しきれずに住宅のすぐそばや道路が浸水することを指します。

小森さんによると、「内水氾濫ハザードマップ」で浸水の想定が深いところは旧河道であるケースもあるといいます。
こちらは、左が「治水地形分類図」、右が「内水氾濫ハザードマップ」です。
ここでは、旧河道の青い斜線と、ハザードマップ上のピンク色(浸水の想定が1メートルから3メートル未満)のカーブが、おおむね重なっていることがわかります。

大雨が降ると、大きな川の氾濫をおそれて水位の上昇に注意が向きますが、そこだけに注目していると避難のタイミングを逃しかねません。
旧河道など周囲より低い場所は、内水氾濫などによって早いタイミングで浸水する可能性があるので、事前に浸水エリアや深さを知っておくことが大切です。

もちろん、浸水するのは旧河道だけではありません。
ハザードマップを活用して、身近な場所のリスクを確認し、避難する際のルートやタイミングを考える手立てにするのが大切です。

小森さんは、こうしたハザードマップを活用して身近な場所の地形に理解を深めることで、災害時の適切な行動につなげてほしいと考えています。

災害と地形の関係を研究 帝京平成大学 小森次郎教授
「ハザードマップをみることは大切です。ただ、“なぜ自宅周辺は、色が塗られているんだろう”と地図上では分からないこともあります。その場合、実際に歩くとその場所の地形の特徴から、なぜ浸水するのかが見えてきます。自分の知識や情報として理解が深まれば、いざというときどう行動したらよいのかわかってくるのではないかと思います」

<治水地形分類図の調べ方>
治水地形分類図は、国土地理院の地理院地図のホームページから確認できます。(※NHKのサイトを離れます)
(1)「地理院地図」のページ左上にある「地図」のマークを選ぶ。
(2)メニュー画面から「土地の成り立ち・土地利用」、「治水地形分類図」を選ぶ。
調べたい場所の地図を拡大、もしくは住所を入力する。

この地図上では、国や都道府県が管理する河川の流域のうち、ご紹介した「旧河道」だけではなく、平野部で見られるさまざま地形を示しています。
これらの情報から、土地の成り立ちを知ることができ、起こりうる水害や地震のリスクなどを推定することができます。

「後背湿地」
泥が堆積してできた土地のため水分を含みやすい。
水田として利用されてきたが都市化に伴い市街地になるところも。
長時間水につかったり、地震で建物が倒壊したりするおそれがある。

「氾濫平野」
過去の洪水で上流からの土砂が堆積してできた平野部。
かつては農地として利用されるもいまは市街地も少なくない。
再び浸水するリスクがある。

「扇状地」 
土砂が谷の出口からあふれ出てつくられ土地で、大雨の時などには土砂災害の危険性がある。

「自然堤防」
洪水の際に大量の土砂が川岸に堆積してできた地形。氾濫平野より高く、
比較的安全とされるが、大規模な洪水の際には被害を受けるおそれがある。

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