ラグビータウン熊谷に見る スポーツによる地域の活性化とは

  • 2022年11月14日

日本屈指のラグビータウン熊谷市。選手がいきいきとラグビーに取り組むことができている理由と、それが地域の活性化にどうつながっているのか取材しました。

女子ラグビーで地域が元気に

30人の選手が在籍する「アルカスクイーン熊谷」。国内王者を決める大会で歴代最多の優勝を誇る強豪です。しかし、かつては女性が働きながらラグビーに打ち込むことが難しい時期もありました。安定した収入を確保できず、ラグビーを続けることを諦めてしまう人が多かったのです。

そこで手を差し伸べたのが、地元の企業。夢のためにラグビーに励む選手たちを応援したいと女子選手を積極的に採用、今では、熊谷とその周辺地域の約10社が女子選手を雇用しています。

その中の一人、立正大学出身の井口瑞穂選手は、週に4日、市内の工務店で正社員として経理の仕事をしています。

打ち込みとか割と集中してできるので、計算とかがピッタリあったりとかほめてもらえた時とかすごく嬉しいです

社長の岡部聡史さん。地域をラグビーで盛り上げたいと、5年前に採用を決めました。練習を優先できるように勤務時間を自由に調整しているほか、体調や食事の面のケアまで会社ぐるみで井口さんを支えています。

「日本代表を目指していたり、世界を見据えていろんなことを一生懸命本気でやっている人がそばにいるというのは(会社にとって)刺激になる。個人の夢を達成しようとする人を応援しようっていう雰囲気ができるっていうのは、会社としてはすごくいいんですよね。」

地域で働きながら、市民と交流することで勇気をもらっている選手もいます。ふだんはラグビーファンが集まるカフェで働いている公家明日香さんです。日本代表になることが夢だった公家選手。きついトレーニングでくじけそうになった時、町の人の声が励みになったと言います。

自分のこと応援してくれて、次の合宿頑張ってねとか大会いつあるの?とか、そういう方々の声を聞いて、もう少し頑張らなければいけないなと思ったり

そして今年、念願の日本代表に選出。長年抱いていた夢を叶えました。「やっぱり熊谷でここまで育ててもらったのもすごく大きいし、恩返しできたのかなって思います」

そんなアルカスの選手たちと接することで元気をもらっている人もいます。

カフェの常連客、深澤尋子さん。4人の子の母で、過去には子育ての忙しさから仕事を辞めていた時期もあったと言います。しかし、仕事をしながらラグビーに全力で打ち込む選手たちの姿に刺激を受けました。「大変な道を選んだ彼女たちを尊敬できる」。

今では家事と子育てをしながら、新たな職場で事務の仕事に励み、充実した日々を送っています。

絶対辛くなる時って、仕事してても育児しててもあるんですけど、励ましてくれる人の存在って自分の人生の中でもすごく救われた時があったので楽しい毎日を過ごしています

ラグビーで町おこし トライが次々と

ラグビーをきっかけに、街を盛り上げようと動き始めた人もいます。

パン屋を営む臼杵健さんが開発したのは、ラグビーボール型のベーグル!
試合があるときは、すぐに売り切れてしまうこともあるそうです。

右奧:臼杵健さん

臼杵さんは地元熊谷のFMラジオでラグビー応援番組のパーソナリティも担当、ラグビーの面白さやラグビータウン熊谷の町の様子を紹介しています。

さらに、駅からラグビー場まで続く道路の清掃もしています。熊谷に来てくれたラグビーファンに気持ちよく過ごしてもらいたいからです。手伝ってくれる市民も増えてきました。

11月15日の放送から

3つの顔を持つ臼杵さん、どうしてこんなに活動が広がったのでしょうか。

「2019年のラグビーワールドカップが熊谷でも開催されたことがすごく大きくて、あのとき海外からのお客さんがたくさんいらっしゃいましたし、市民も一体となって、今まで見たことがないような盛り上がりを目の当たりにしました。
ラグビーで町を盛り上げられるんだっていうことを確信しましたし、そこでいろんな活動を始めるにあたって、そこでまたラグビーの魅力的なルールが心の支えになっていて。」

「ラグビーはボールを前にパスしないルールがあって、ボールを持ったら持った人が一歩でも前に行くという、そこが大事なことで、もし止められたら、仲間がたくさんいますからそこにパスを投げていくという。
そういうことが、町を元気にしていく活動をするうえでも生きているなと思います。」

町では新たな取り組みが次々と生まれています。

たとえばシェアサイクル。ラグビー観戦で熊谷を訪れた人たちに、市内のいろいろな場所を回ってもらいたいと、地元企業が運営を始めました。市内24か所にサイクルポートがあり、地元の人も生活の足として使っているそうです。

さらに最先端の設備を備えたクリニックもオープン。熊谷を本拠地とするワイルドナイツのチームドクターらが、これまで選手の治療で培ってきたノウハウを市民に還元し、健康になってほしいと開設されました。

ラグビータウン熊谷、これからも注目です。

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