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夏目漱石「こころ」がカレーに変身? 食べる!鎌倉文学

  • 2022年01月27日

鎌倉ゆかりの文学作品を鎌倉在住の料理人が読んで、その世界を料理で表すことで作品の魅力を浮かび上がらせる企画「食べる!鎌倉文学」。第1回の芥川龍之介「蜘蛛の糸」に続いては、夏目漱石の「こころ」に鎌倉出身のスパイスの達人が挑みます。記事の後半では作り方もご紹介します。

第1回の記事はコチラ 芥川龍之介「蜘蛛の糸」の味は極楽?地獄?

なぜ漱石でカレーなのか?

今回、漱石の「こころ」の世界を料理で表現してくれるのはメタ・バラッツさん。インド人の父と日本人の母の間に生まれ、鎌倉で育ったバラッツさん。本業はスパイスの販売ですが、その魅力を広めたいと料理教室も開いています。この日作っていたのは、いまが旬の牡蠣(かき)がたっぷり入ったカレー。う~ん、おいしそう!

ココナッツミルクを使った牡蠣(かき)のカレー

亡くなった母親の愛読書が「こころ」だったというバラッツさん。でも、我々が白羽の矢を立てた理由はそれだけではありません。

明治33年(1900年)、英語の教育法を学ぶため、イギリスに留学することになった漱石は、船旅の途中、インド洋に浮かぶスリランカ(当時のセイロン)に立ち寄ります。その渡航日記には「六時半、旅館に帰りて晩餐に名物の「ライス」カレを喫して帰船す」との記述があります。このころ、日本でもすでにカレーライスは食べられていましたが、イギリス経由の欧風カレーでした。いまや日本の国民食となったルーを溶かして作るおなじみのアレです。

スパイスの利いた本場のカレーを明治時代にいち早く口にしていた漱石、そのことを知って我々は「漱石作品を料理にするならカレーしかない!」と色めき立ち、鎌倉でも指折りのスパイスの使い手であるバラッツさんに話を持ち掛けたのです。

バラッツさん
「私もスリランカのカレー、食べたことがありますけどとてもおいしいです。かつお節のだしを使うので、もしかしたら漱石も気に入ったんじゃないでしょうか。」

漱石の「こころ」が描く世界とは?

北鎌倉の円覚寺は、臨済宗の禅寺。大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の主人公・北条義時の玄孫(やしゃご)である鎌倉幕府8代執権・時宗が創建したことでも知られています。明治27年(1894年)、精神的に落ち込んでいた夏目漱石はここで座禅に取り組みました。

鎌倉での見聞を様々な作品に残した漱石。大正3年(1914年)に朝日新聞に連載された「心 先生の遺書」もその一つです。(のちに「こころ」と改題)

「こころ」あらすじ
明治時代の終わり、鎌倉の海岸で不思議な魅力を放つ“先生”と出会った私。ある日私は、先生から長い手紙を受け取る。そこには、親友がある女性に好意を寄せていることに気づきながらもその女性と婚約したこと、そのことを知った親友が自殺したこと、女性との結婚後も罪の意識にさいなまれていたことなど、誰にも言えなかった先生の過去がつづられていた。

バラッツさん
「読んでみて自分の中の自分を見つめるきっかけになったような気もします」

漱石が「こころ」で描いたのは日々迷い、うつろう人の心。バラッツさん、その心もようをどのように料理で表すのでしょうか。

多種多様なスパイスが織りなす「こころ」

バラッツさんが夏目漱石の「こころ」の世界を描き出す料理のレシピが完成しました。材料はコチラです。

玉ねぎ(スライス)…1個 / トマト(ざく切り)…2個 / おろしニンニク・生姜…各大さじ1 / 牛肉(一口大)…500g / 人参(乱切り)…1本 / カブ(一口大)…4つ
【ホールスパイス】
カシアシナモン…1/2本 / ブラックカルダモン…2粒 / マスタードシード…小さじ1 / カルダモン…3粒
【パウダースパイス】
ターメリック…小さじ1 / コリアンダー…大さじ1 / レッドペッパー…小さじ1/ ブラックペッパー…小さじ1 / カシミリチリ…小さじ1 / シナモン…小さじ1 / クローブ…小さじ1/2
ココナッツファイン … 大さじ2
カレーリーフ…10枚程度 / かつおだし…400ml / ココナッツミルク…200ml / 塩…小さじ1 / 油…大さじ3 / 青菜(ざく切り)…3カップ程度

一見してわかるのが、たくさんのスパイスを使うこと。そのねらいをバラッツさんはこう説明します。

バラッツさん
「心というものはさまざまな感情が入り混じってできあがってるし、完全には見えない。いろんなスパイスを入れることによって、人の心というのが表現できるんじゃないかと思います」

さっそくその作り方をご紹介しましょう。

まずは、温めたフライパンに油を入れてホールスパイスを熱していきます。

白いフレーク状のものがココナッツファイン

ホールスパイスの香りが立ってきたら、スライスした玉ねぎを加え、あめ色になるまでじっくり炒めます。さらに、にんにく・しょうがを加え、香りが落ち着いたところにパウダースパイスと塩、ココナツファイン(ココナッツの果肉の乾燥フレーク)を加え、香ばしくなるまで炒めます。

漱石が好きだった牛肉をスパイスと炒め合わせます。この時、焦げそうになったら少量の水を加えて調節してください。牛肉の表面が焼き固まったらトマトを加えてさらに炒めます。

スープに使うのはかつおだし。漱石も食べたスリランカのカレーをイメージしました。炒めたスパイスとトマトをのばすように少しずつ加えていきます。

かつおだしが全量入ったら、ニンジンを加えて煮立たせ、弱火で15分ほど煮込みます。

ココナッツミルクとカレーリーフを入れてさらにひと煮立ち。

最後のかぶと青菜を加え、火が通ったら完成です。

大ぶりの具は日常で体験する出来事の象徴、そこから沸き起こる様々な感情をひとつひとつのスパイスに込めました。この “こころ”カレーを食べるのは、鎌倉の日常を歌う「小川コータ&とまそん」のふたり。バラッツさんとは数年来の友人です。

「小川コータ&とまそん」の2人

小川コータ
「メッチャうまい」

とまそん
「それぞれの素材が、みんな生き生きとしてて、食べた後の“読後感”みたいなのがじわり広がってきて、胸の中心が温まってきた」

「コロナが落ち着いたら、『こころ』を読みながら音楽とカレーを楽しむ会ができないかな?」と小川コータさん。創作料理をきっかけに、鎌倉を盛り上げる新たにイベントの種が生まれました。

食べ応えがあって、豊かなスパイスの香りとかつおだし×牛肉のうまみにスプーンを次々口に運びたくなる“こころ”カレー。スパイスは全部そろわなくてもおいしくできます。

もしよければ、実際に作って味わってみて下さいね。そして、カレーと一緒に「小川コータ&とまそん」の音楽もぜひお楽しみください。

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