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高橋まつりさん 過労自殺から5年
“死ぬくらいなら、逃げて” 訴え続ける母親


2020年12月22日「たっぷり静岡」放送

裾野市出身で、大手広告会社・電通の新入社員だった高橋まつりさんが過労の末に命を絶って、去年12月25日で5年です。
母親の幸美さんのもとには今も、まつりさんに思いを重ねる全国の人からSNSなどを通じてメッセージが寄せられています。
過労死が後を絶たないことに危機感を持ち、長時間労働をなくしたいと訴え続ける母親の姿を取材しました。
(静岡局・三浦佑一)


【まつりさんが残したもの】
去年12月、高橋まつりさんの母親・幸美さんのもとに、電通本社からハイヒールの靴が届けられました。

「本当に帰ってきてくれた。まつりだあ」

書類の箱の中から社員が見つけてくれたという靴を、幸美さんはいとおしそうに胸に抱きました。

幸美さんは、自宅にまつりさんの遺品や写真を集めた部屋を作っています。
赤ちゃんの時に遊んでいた、お風呂で水を吹き出す人形。高校の親友がプレゼントしてくれたという手作りのアクセサリー。まつりさんが誰からも大切に思われて育ってきたことを感じます。1人で育ててくれた母親を喜ばせたいと、まつりさんが受験勉強に打ち込んでいたときの「残り○日東大合格」と書いたメモも、1枚1枚、残っていました。

「これも宝物です。娘が最後にくれた私への誕生日カード」

就職を前にした2015年1月の日付が入った手書きのカードを、幸美さんは涙ぐみながら読み上げました。

<強くて、優しくて、可愛らしい高橋幸美さんは、私たち姉弟のお母さんとして100点満点です。どんなに大きくなっても、私たちはお母さんの赤ちゃんで、そして1番の味方です。お母さん大好き。まつり>

このカードを幸美さんに贈った年。まつりさんは就職すると、電話やSNSで仕事の苦しさを訴えるようになりました。そして12月25日、みずから命を絶ちました。

「5年前に戻って、娘に『もう頑張らなくていいから』って言いたいです。お母さんに仕送りしてあげるよって言っていたけど。『まつり、ごめんね』って、ずっと思っています。本当に幸せにしてあげたかった。けど、私には力がなかったです」


【歩み続ける幸美さん】
翌年、まつりさんの死が労働災害と認定されると社会の大きな注目を集め、「ブラック企業」や「働き方改革」ということばが広まりました。 幸美さんは、まつりさんの服を着て、全国で長時間労働の防止を訴える活動を続けています。

(幸美さんの講演)
「長時間労働やハラスメントが人の命を奪うということを忘れないでください」

しかし統計をみても、過労死が減っているという実感を幸美さんは持てずにいます。
(※政府の『過労死等防止対策白書』によると、勤務問題を原因・動機の1つとする自殺者の数は平成27年・2159人/令和元年・1949人)

「ことしはコロナ禍の中で、就職先も減っていて、不景気になっていて、若い人たちの中に将来の不安感が増えている。そして景気が悪い中で、サービス残業をさせているような企業も増えているのではないかと心配しています」

まつりさんのツイッターアカウントには、今でも、長時間労働で苦しむ全国の人の声が届きます。
「自分とまつりの境遇を重ね合わせてメッセージを送ってこられます」
遺品のスマートフォンを見た幸美さんが、寄り添いのことばやアドバイスを返信しています。

(幸美さんの返信)
『辛いよね。辛いよね。私も辛いよ。でもね、絶対に死んじゃダメだよ。死ぬくらいなら、死ぬ気で逃げて』
『みんなに迷惑かけるんじゃないか?って心配は無用ですよ。迷惑かけてもいいよ』


【広がる思い】
まつりさんと幸美さんの思いは、着実に広がっています。
四国地方に住む、昌尚さん。長時間労働やパワハラの末に仕事を辞めたあと、うつ病と診断された経験があります。今年、SNSで幸美さんとつながって過労死防止の活動について助言を受けたことをきっかけに、社会保険労務士を目指すことにしました。

(昌尚さん)
「『命より大切な仕事はない』。その幸美さんのことばが一番胸に残っています。
まつりさんと同じような境遇に立つような人の支援ができる社労士さんになりたいです」

【「まつりの代わりに」】
まつりさんのお墓は、富士山が見える丘にあります。

「誰か来てくれたんだ」

幸美さんは、毎週来るたびに、誰かが手を合わせに来た跡を見つけます。訪れた人たちは、墓の傍らに保管されているノートに、まつりさんへの思いをつづっていきます。幸美さんは、まつりさんや、娘と同じように仕事で苦しんでいる人たちのことばを受け止め、これからも社会に訴え続けていきます。

「まつりが小さいころ『人の役に立ちたい、困っている人を助けたい』と、将来の希望を書いていました。それを『まつりの代わりにお母さんがやってね』ということじゃないかと思います。長時間労働、ハラスメント、過労死、過労自殺がなくなるまで、呼びかけを続けていきます」


武友優歩記者
▼静岡局記者
三浦佑一
平成15年入局
労働・社会保障分野担当
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