静岡地裁 “生活保護引き下げは違法” 受給者の訴え認める判決
- 2023年05月31日
生活保護費が2013年から段階的に引き下げられたことについて、静岡県内の受給者6人が「憲法で保障された最低限度の生活を下回る生活を強いられた」と訴えた裁判で、静岡地方裁判所は国の対応を違法だと判断して、引き下げを取り消す判決を言い渡しました。
「命を守れ!」 裁判の経緯
国は2013年から2015年までの3年間、生活保護費のうち食費や光熱費など生活費部分の基準額について、当時の物価の下落などを反映させる形で、段階的に引き下げました。引き下げ幅は最大で10%。引き下げの総額は670億円にのぼりました。
これについて、静岡県内に住む受給者6人は「憲法で保障された『健康で文化的な最低限度の生活』以下の生活を強いられた」として、自治体が行った引き下げの取り消しを求める訴えを起こしました。
支給額は月6万5000円
原告の代表で浜松市の山本定男さん(78)は、とび職をしていましたが、腰を痛めて仕事を続けられなくなったため、およそ15年前から生活保護を受給しています。
2013年以降の引き下げで、生活保護の支給額が1か月あたり2000円近く減額され、今は毎月およそ6万5000円で日々の生活を賄っています。
山本定男さん
生活保護の受給者にとって500円の減額でも生活への影響は大きいです。月に6万5000円というのは本当に苦しいです。でもこれでやっていかないといけない。
山本さんは少しでも食費を切り詰めようと、食事は1日2回にし、外食はほとんどしていません。スーパーで値引きが始まる時間帯を選んで買い物をしていますが、このところの物価高でやりくりは苦しくなっているといいます。また光熱費も上昇しているため、風呂に入る回数も減らしています。今の暮らしは「健康で文化的な最低限度の生活」とはいえず、生活保護費の引き下げの影響は大きいと感じています。
山本定男さん
月末になると、お金はほとんどありません。スーパーで買い物をするたびに物価がすごく上がっていると感じます。食費を削るのは一番つらいですが、そこを削るしかありません。普通の生活はできないです。食べ物のことを考えると本当に疲れますし、頭がおかしくなりそうです。
“引き下げは違法” 静岡地裁
そして今月30日、静岡地方裁判所は引き下げにあたって国が行った物価の下落に関する調整について、以下のように指摘しました。
静岡地裁(国が行った物価下落に関する調整について)
当時の生活保護の基準額が一般の低所得世帯の消費の実態と比べて高くなっていたと直ちにいうことはできず、生活必需品の物価はむしろ上昇していた。統計などの客観的数値との合理的な関連性を欠き、専門的知見との整合性もないといわざるをえない。
その上で「厚生労働大臣の判断には裁量の逸脱や乱用が認められ違法だ」として、生活保護費の引き下げを取り消しました。
全国29か所で起こされた同様の裁判で、引き下げを取り消す1審判決は11件目です。
政府に異を唱えた民衆の勝利
判決のあと、原告と弁護団が静岡市内で集会を開きました。
原告側 大橋昭夫 弁護団長
これは政府の決めたことに対して異を唱えた民衆の裁判です。月に500円や1000円の引き下げが、生活保護を受給している人たちの日々の生活にとってどれだけ大変なことなのか、私たちはこの裁判で訴えてきました。勝つことができて本当によかったと思います。
山本定男さん
こんなに喜ばしいことは何十年ぶりですし、闘ってきて本当によかったと心から感じています。勝訴を受けて、生活が良くなるわけではありませんが、ほっとしています。
判決について厚生労働省は「判決内容の詳細を精査し、関係省庁や被告の自治体と協議した上、今後の対応を決定したい」とコメントしています。また、被告となった自治体の1つの浜松市は「法務省や厚生労働省と調整して今後の対応を判断したい」とコメントしています。