ページの本文へ

静岡WEB特集

  1. NHK静岡
  2. 静岡WEB特集
  3. 静岡 焼津市の “粘菌少女” 生物学オリンピックを目指す!

静岡 焼津市の “粘菌少女” 生物学オリンピックを目指す!

  • 2023年04月05日

焼津市の高校1年生、“粘菌少女”こと、水澤紗良さんです。彼女の写真の後ろに見える黄色い模様を形作っているのが“粘菌”です。名前に“菌”とありますが、カビやキノコの仲間ではなく人類誕生以前から地球上に生息する単細胞生物です。この微生物との出会いが、ひとりの高校生の世界を大きく広げようとしています。

ほんとに単細胞?粘菌の奥深い魅力

水澤さんは、静岡大学が高校生の研究を支援するプログラムに自ら申し込み、いま大学生の指導のもと、粘菌の増殖に取り組んでいます。水澤さんがそこまで没頭する粘菌の魅力とは一体何なのでしょうか。

水澤紗良さん
粘菌はけっこう食にうるさいんですよ。オートミールがエサですが、個体によって好みが違ったりとか環境に適応する能力が違ったり。それぞれ違った個性を持っているところがすごくかわいい。粘菌はとても賢くて、人間味があります。

じつは、粘菌の魅力に注目しているのは水澤さんだけではありません。脳も神経さえもない粘菌ですが、驚異の情報処理能力を持つことが近年、明らかになってきたのです。日本の研究者が行った「粘菌に迷路を解かせる」という前代未聞の実験は、世界中の研究者を驚かせました。そこから発展し、いまでは粘菌の能力を活用した新型コンピューターの開発まで始まっているのです。

このテーマについて詳しく知りたい方はコチラ

コロナ禍で身近な粘菌に気づく

水澤さんが粘菌に出会ったのは、中学1年生のときです。コロナ禍で外出ができないなか、自宅の庭を観察して過ごしていたときのことでした。

水澤紗良さん
庭を虫眼鏡で観察していたら、黄色い生き物を発見して。いままで生きていた中で、見たことのない形や色をしていて、すぐに気になりました。

じつは粘菌は、住宅街の並木や公園など、どこにでもいる生物でした。これまで気づかなかった粘菌の存在を身近に感じた水澤さんは「自分でも飼えるのではないか」と粘菌を取り寄せて育ててみたり、近くの山で粘菌を探すようになったといいます。

高校に入り、水澤さんの“粘菌熱”は高まる一方ですが、話題についてきてくれる友達はなかなかできません。

クラスメイト
“ネンキン”にハマっているみたいな話を聞いていたけど、“年金”の話じゃないの?“ネンキン”違い?

どうやら入学から1年の間、話が食い違っていたようです。

めざせ!世界生物学オリンピック

そんな水澤さんにも、ようやく粘菌きっかけの友達ができるかもしれません。その舞台となるのが、世界各地の高校生などが生物学の知識を競う「国際生物学オリンピック」、そしてその日本代表を決める国内大会です。ことし8月、「日本生物学オリンピック」が初めて静岡県で開かれることになり、説明会に水澤さんも参加しました。

説明したのは、18年前、静岡出身で初めて国際生物学オリンピック日本代表になった、文部科学省の久保田唯史さんです。

文部科学省 久保田唯史さん
世界中にたくさんの生物好きがいて、彼らとずっと生物の話をしていました。英語が話せなくて、なんなら彼らの方が詳しくて、ちょっとうれしいようなくやしいような気持ちで帰ってきました。生物学オリンピックは、生物学は面白い、好きという気持ちを必ず確かめさせてくれます。

目を輝かせて聴いていた水澤さんは、久保田さんに、粘菌の研究についての悩みを初めて打ち明けました。

水澤さん

誰かの役に立つような研究って面白いと思うんですけど、粘菌は自分の自己満足や知りたい欲求のために研究しているところがあって。自分の研究に自信を持てないです…。

久保田さん

粘菌で見つけたことはずっと将来のどこかにつながっていたり、人間が知っていることを広げる。それだけで財産なので、必ず貢献していると自信をもっていいです。せっかく高校生なので、好きなものは思いっきりぶつけてほしい。

“好き”が開く可能性の扉

憧れの大会出場者である久保田さんに、粘菌の研究にお墨付きをもらった水澤さん。
生物学オリンピックへの挑戦で思いは広がります。

水澤紗良さん
生物学オリンピックはテストを解いたり、実験をやったりするだけだと思っていましたが、自分の研究している世界をいろいろな人に話せたりして自分の世界が一歩広がると思います。将来は生物や化学の楽しさをいろいろな人に伝える仕事に就きたいです。

生物学オリンピックの日本代表を決める大会は、8月に静岡大学で行われます。そこで代表に選ばれれば、来年7月にカザフスタンで行われる国際生物学オリンピックに出場となります。
コロナ禍の中で、粘菌という新たな世界を知った水澤さん。たとえオリンピック出場がかなわなくとも、“粘菌好き”を突き詰めることで水澤さんの人生の扉はきっとどこかに通じていく、そう感じました。

動画はこちらからご覧ください。

ページトップに戻る