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東京目黒出身の上智大生が漁師を目指すわけ

コロナ禍で見つめ直した人生 静岡伊東市定置網漁 23歳の選択「わくわくする!」
  • 2023年02月21日

江戸時代に徳川家に魚を運んだとされる静岡県伊東市の歴史ある定置網漁。社員12人が働いています。ここに、この春大学を卒業する梶原真さん(23)が入社します。話を聞くと、コロナ禍で悩み続ける中、人生の選択に向けて心が震えたそうです。

伊東市富戸漁港 定置網漁の漁船

資源に優しい伝統の漁業!

梶原真さんが就職するのは、静岡県伊東市の富戸漁港からおよそ800メートルの沖合で定置網漁をしている会社です。漁協から独立し、活魚を直接、スーパーに卸したり、定置網で取れた小さな魚を養殖する「畜養」を手がけたりするなど新たな漁業に取り組んでいます。

訪れたこの日は、イワシが大漁かもしれないと、予定より1時間早く午前4時半に港を出発しました。

前日にダイバーが定置網の中で撮影したイワシの大群
(城ヶ崎海岸富戸定置網 提供)

網を引き揚げると、イワシやサバ、イカなど。この日はキハダマグロも入っていました。

しかしイワシの大群は逃げ出していました。網の入り口で魚が自由に出入りできるため、魚を取りすぎない資源にやさしい漁業だとされています。

2隻の漁船が連携して網を手繰ります

公務員を目指してた!

梶原さんは東京・目黒区で育ち、上智大学の法学部に進学しました。公害問題などを学び、将来は公務員になって法律を運用しながら、都市や住環境を守る仕事をしたいと考えていました。

梶原真さん 法律を勉強していました!

大学時代のアルバイトは、スーパーマーケット。ケースに並ぶ魚や野菜などを見ても加工品が多く、その生産現場を全く知らないなと感じたといいます。

「スーパーには、サーモンなど海外の魚も多く、値段も安い。日本の漁業は大丈夫かなぁと。今の漁業が成り立っているのかと気になり始めました」

そこで、インターネットで漁業のことを調べたり、漁師の仕事を勉強したりしたそうです。

きっかけはコロナ禍の生活!

大きなきっかけは、コロナ禍の生活でした。友人や部活の仲間とのつながりも薄れ、自宅で考えることが多かったそうです。そこで漁業体験に今の富戸の定置網を訪れたとき、最初から“これだなぁ”と感じたそうです。

「体を動かしたり、人と接することが減っていたので、その大切さがすっと体に入ってきました。船が揺れたり、海のにおいだったり、魚がバタバタとはねる姿だったり、自然の中に人がいる、人間がいるのを感じたんです。生きているモノと向き合っていることに、わくわくし、心が震えたというか、喜びを感じました」

その日に漁師を選択!

その漁業体験の日に、社長から「やってみないか」と問われました。梶原さんは、「これからの時代、食料は大事だと思う」と答え、その場で就職を決めたそうです。

去年11月からの研修では知らないことばかりで、苦労も多いといいます。

特に難題だったのが漁師ことば

「れっこ」はロープや網を放せ。先輩から「れっこ」「れっこ」と叫ばれ、最初は戸惑ったそうです。

「カミカクシしてヘイガシラ」は、1本のロープを使って、ある結び方で漁具をつなぐことをそう呼ぶそうです。

確かに覚えにくいですよね。

早朝からの仕事で体力は徐々についてきたものの、漁師ことばは、先輩の本を借りるなどして勉強中だそうです。

それでも、少しずつみなの間に溶け込んでいるようでした。

漁のあと みんなで網の手入れです

「定置網漁はチームプレーでいろんな人に教えてもらうことができます。先輩は怖いんだろうと覚悟していましたが、ここはすごくオープンな人が多く、安心しています。まずは一人前になって、仕事を任せてもらえるようになりたいです」

梶原さんは、若さを買われてSNS担当の任務も与えられました。

「農作物は人が育てることができますが、ここにいると、漁業は海の恵みに支えられていることがよくわかります。その一方で、これからは逆に消費者が見えなくなるんじゃないかと心配しています。そうならないよう、漁だけではなく、だれがどうやって食べるだろうと想像できるよう、流通や売り方も学んでいきたいです!」

岐路に立つ漁業!

社長の日吉直人さんは、漁業は今、岐路に立っているといいます。

社長の日吉直人さん

「定置網は魚が網に入ってくるのを待つ“待ちの漁業”で、資源にやさしい漁業ですが、海外に輸出するために、あちこちで小さな天然魚まで取るようになっています。魚がいなくなり、漁師の生活だけでなく、次の世代が魚を食べられなくなるんじゃないか。“待ちの漁業”だからこそ、資源管理が大切なんです」

この会社では、漁の日常を見学するツアーをこの春にも始める見通しです。多くの人に未来に残せる漁業のあり方を感じてもらうためです。

コロナ禍で人生を見つめ直した若き人材。

食料の安定供給・食糧安保が問われる今、心の震えを忘れずに、海の恵みと仕事を守って欲しいと思います。

頑張って!

  • 長尾吉郎

    静岡局 ニュースデスク

    長尾吉郎

    1992年NHK入局
    初任地大分局で釣り覚える
    報道局社会部・広報局など
    ヤエンによるイカ釣り好き

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