静岡「幻のアジ」季節外れに取れた驚きの味!
- 2023年02月02日

2023年1月31日午前7時55分、ある取材先に向かう途中、突然、携帯電話が鳴りました。
「それっぽいの取れたよ。大きいよ。食べに来れば」電話の相手は、幻のアジを買い取った料理人からでした。
「静岡で幻のアジを追う」という記事で去年12月にご紹介した静岡市倉沢の定置網で取れる根つきアジ。当時は結局出会えず、次は春先だと思っていたのに、思わぬうれしい知らせでした。どんな味なのかわくわくしながら食べると、さあ困った。
料理人を前にうなってしまいました。
とうとう取れた幻のアジ
向かったのは富士宮市の海鮮料理店。別の取材のため水揚げには間に合いませんでした。見せていただいたのは、42センチ、717グラムのアジです。

望月和也さんは、開口一番こう話しました。
「根つきのアジ100%かと言われると、そうじゃない。黒目が大きいし、もっと体高があってもいい。あとは脂がのっているかどうか、でもうまみは変わらないよ」
うん?電話の「それっぽい」ということばがよみがえりました。わたしの早とちりか。
これから刺身とフライに調理してくれるそうです。初めての「それっぽい根つきアジ」どんな味なのか、すごく楽しみです。

根つきのアジとは?
そもそも根つきのアジとはなんのか、簡単におさらいです。
静岡市の西倉沢地区の沖合で取れるアジは、サクラエビやハダカイワシなどの良質なエサを食べているため脂がのっていると、ブランド化されています。
通常のアジは回遊していますが、中にはエサが豊富な岩礁や瀬のまわりに生息し、遠くには移動しない「根つき」がいるとされています。
この根つきのアジは、いわゆるメタボサイズで、見た目だけでなく、味も驚くようなうまみがあるそうです。

おいしいアジの見分け方 教えて!
その根つきアジをただ今調理中です。

おいしいアジの見分け方の基本は2つだそうです。
①「背びれからおへそのラインが太いこと」おなかではなく、おへその部分は直前にエサを食べたかどうかと関係ないため、日頃のあぶらののりが見分けられるそうです。
②「目の黒目が小さいこと」目が白く濁ったものは日にちが立っていると考えられますが、新鮮な魚の場合、白目が大きく黒目が小さいほどあぶらが多いというのです。

そして調理のポイントは?
刺身は、薄皮を残すこと。ふぐ料理で言う「とおとうみ」。ここはうまみが詰まっているそうです。
フライは、うろこやぜいご(しっぽ近くのかたい部分)をとるだけでもちろん皮はついたままがよいそうです。

「きょう取れたばかりで、さしが回るのはこれからかな。でもいいよ」(望月和也さん)
幻のアジ さあ食べるぞ!
そう望月さんからあれこれ教わっていると、お客さんが入ってきました。
根つきアジの料理もできたようです。

こちらは親子3世代のご家族。ご主人以外は、根つきのアジは食べたことがないそうです。
「ふつうのアジと違う。あまみが多いです」(お孫さん)

こちらは、根つきアジが目的の男性。日本酒とともにゆっくり楽しんでいます。
「根つきは身がしまり、おいいしいです。最近は取れないから、年に何回食べるかどうか。おいしさの秘密はアジが食べるエサでしょう。まさに駿河湾の味がする」
駿河湾の味。絶妙な表現です。
うなってしまいました!
いよいよわたしの番です。望月さんは料理をしていますが、わたしがどう表現するのか耳がこちらを向いているのがカウンター越しに感じられます。

まずは刺身をひと切れ。口に入れるとびっくり「うーん、アジじゃない」
シマアジのようだと聞いていたので、そうイメージをしていましたが、「シマアジでもない。何これ」うーんとうなってしまいました。
子どものころからアジをよく食べ、初任地の大分県でもブランド魚「関アジ」を食べましたが、はじめての味でした。
そしてハラミの部分。うわーとあぶらのあまみが広がります。「うまっ!」
身はコリコリでアジの香りがベースになっていますが、においは少ない感じです。
あわせてフライもパクリ。

「これ、最高!」でもいつものアジフライとは全く違います。ふわふわでわたしはさっぱりしたお肉のようにも感じました。
能力の限界でした!
なんと表現すれば、根つきアジの味を伝えられるのか、食べたことのない味にお手上げ状態です。能力の限界を感じました。
きょうは食べたのはその日に取れたアジで、コリコリ派の望月さんが言うには、2日目くらいの方がよいそうです。

お忙しいのに望月さん、連絡ありがとうございました! ごちそうさまでした!おいしかったです。
わたしの中の暦が変わっている!
食べたあと、根つきアジを取った倉沢地区の定置網漁「第十一光洋丸」の船長、望月保志さんに電話しました。

「あれは100点満点ではないよ、70点くらい。身の盛り上がりがしっぽまで太ってない。でもハダカイワシを食べているのは間違いない」
そうなのか。100点の味はどんなだろう。
「100点のものは、わたしらも刺身をかみ続け、飲み込みたくなくなります。フライの方がおいしかったなら、あぶらはまだまだかなあ」
ではいつごろ100点のアジは取れるのでしょう。
「気候変動で海が変わっていて、自分の中の暦も変わっています。いつ取れるのかまったくわかりません。そもそもこの時期に取れるのは珍しい。一緒に小さなアジも入っていて、産卵の時期が変わっているんじゃないでしょうか」
「100点の根つき。強いて言うなら、桜が散ってみかんの花が咲くころ。5月から6月かなあ」
最後に「味の表現が難しいなら難しいといえばいい、そう慰めてくれました」
そういわれても、表現しないと。。。

100%の根つきアジを食べるのは次は、春から初夏。
そのきにはきちんと味を表現できるように頑張ります!