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静岡日本一の“海中林” 復活への挑戦! 天敵はアイゴ

藤井聡太五冠勝負メシ 幻のとろろ ふるさとの味「サガラメ」 第二弾!
  • 2023年01月27日

今は消えたふるさとの味としてご紹介したコンブの仲間「サガラメ」。藤井聡太五冠の勝負メシにも添えられたふるさとの味です。今回は「幻のとろろ」第二弾として、その復活への取り組みをご報告します。

静岡県牧之原市周辺の海底に、サガラメなどの日本一の海藻の林「海中林」がありました。規模はなんと東京ドーム約1700個分。しかし磯焼けの影響で消滅してしまいました。復活に向けてようやく希望が見え始めていますが、ある魚が邪魔をするというのです。現場を訪ねてみました。

どう復活させる? いざ海へ

日本一の海中林があったのは、静岡県牧之原市から御前崎市にかけての海底。ここでサガラメなどの復活事業が行われています。向かったのは、海越しに富士山を望む小さな港、相良港です。

牧之原市の相良港(坂井平田地区)
うっすらと富士山が見えませんか?

1月11日の朝、ダイバーたちがサガラメの若い芽を植える準備をしていました。およそ1週間かけて2000本を植えるそうです。

作業内容と安全の確認中

植えるのは、港の堤防のすぐ外。水深5メートル前後の岩盤に釘で打ち付けるそうです。

サガラメの若い芽は袋の中
サガラメの若い芽は白いマットに根付く
(静岡県水産・海洋技術研究所提供)

簡単そうに見えるかもしれません。でもサガラメが生息するのはおおむね水深5メートルより浅いところで、大型の船は座礁の恐れがあって入ることができません。このため若い芽を植えたブロックごと海に沈めることができず、すべて手作業なんです。さらに自然が相手。植えても流されたり、台風が来たりすると台無しになるそうです。

でも作業するダイバー仲間の1人はこう声をかけてくれました。

「だいぶ光が見えてきています。ことしは期待できそうですよ」

なぜ日本一の藻場が?

この海域には、静岡県水産・海洋技術研究所によると、7891ヘクタール(東京ドーム約1700個分)にわたるサガラメやカジメなどの大型海藻の海中林が広がっていました。日本一の規模だったといいます。

磯焼け前の海中林(静岡県水産・海洋技術研究所提供)

駿河湾の中でも、この牧之原市から御前崎市にかけての海域には、特に起伏のある岩盤が浅瀬に広がり、海藻が生えやすい環境が整っているそうです。広い駿河湾の中でも貴重な場所なんです。

しかし静岡県水産・海洋技術研究所によると、30年以上前の1985年ごろから「磯焼け」(主に海水温の上昇などで海藻が枯れること)と呼ばれる現象で、一斉に見られなくなったといいます。すると海藻をエサとするアワビやサザエも激減し、地元の漁業に大きな影響を与えています。

磯焼け後は海中林が見えなくなる(静岡県水産・海洋技術研究所提供)

復活への光 ようやく見え始める!

復活事業を手がけているのは静岡県。2002年から20年以上も取り組んでいます。技術開発は、県水産・海洋技術研究所が担当。現在、中心となっているのが吉川康夫さんです。

サガラメ復活の中心人物 
静岡県水産・海洋技術研究所 吉川康夫深層水科長

「もともと牧之原市などを含む地域の担当で、なんとか地域を元気にしたいと復活事業に取り組んでいます。いろいろアイデアはあっても、自然との闘いは簡単ではありません」

研究所を見せてもらうと、大きな水槽の中に育てられたサガラメが浮かんでいました。日光がまんべんなく当たるようにサガラメが水の勢いで回っています。水は水深270メートルの駿河湾からくみ上げた深層水。高い栄養分が種苗に適しているといいます。

最初はカジメと呼ばれるコンブの仲間を移植しました。次第に根づき始め、人工的に135ヘクタールの人工藻場に植えたカジメは自然に繁殖し、今では870ヘクタールにまで広がっています。

難題だったのは、サガラメです。水深が浅い場所で育つため、冒頭のダイバーのように人海戦術で若い芽を植えるしかないといいます。植え付けてもなかなか根づかず、この10年あまり何度も岩盤に植え付ける工夫や実験を繰り返しました。

「サガラメは人海戦術なので移植する量は多くありません。植え付けにマットを使うようになってから成果が出始めています。去年は数パーセントが初冬(11月ごろ)になっても根づいていました。年々根づく割合が増えていて、植え付けの方法は確立できたと考えています。光が見えつつあると言っていいんじゃないでしょうか」(静岡県水産・海洋技術研究所 吉川さん)

マットとともに根づいたサガラメ 去年8月撮影
(静岡県水産・海洋技術研究所提供)

ある魚が邪魔を?

しかし問題が残っています。
冬の時期に植えた若い芽は、夏ごろには成長を始めます。でも夏から秋にかけて天敵が増えてくるといいます。その名はアイゴ。身近な海にいる魚です。海藻をかじってしまいますが、中でもサガラメを好むというのです。このためサガラメが一定数増えたとしても、アイゴの被害でなかなか定着が進まないということです。

アイゴがサガラメをかじる様子
 (静岡県水産・海洋技術研究所提供)

対策として地元の漁協は定置網などで取れたアイゴを1キロ50円で水揚げしています。以前は海に戻していましたが、少しでも数を減らそうとしています。

しかし、今のところ、効果的な打開策は見つからず、担当の吉川さんも頭を悩ませています。

「日本一の海中林を復活させたい、ふるさとの味を取り戻したいと思っています。アイゴ対策はこれからで、かかしのようなものを海の中に立てるなど、いろいろ妄想をしていますが、具体的な対策は見つかっていません。あと2年で定年ですが、それまでには、効果的な方法を見つけたいと思っています」

「定年までにサガラメの自生を見てみたい」と話す吉川さん

残るアイゴ対策。なにか有効な手立てはないものでしょうか。

次の世代へつなぐ

こうした海藻を復活させる取り組みは、「海の森づくり体験教室」として子どもたちに伝えられています。サガラメが自生する藻場がなくなったことなどを紹介し、豊かな静岡の海をどう未来につなぐのか考えてもらうためです。

サガラメを手に取って観察
(MaOI機構提供・2020年の様子)

去年12月のイベントに参加したのは小学生とその保護者ら24人。子どもたちは、磯焼けの怖さや、藻場は生き物たちに欠かせない大切な場所だということを感じたそうです。この体験教室は3年前から続けられています。

駿河湾の豊かさを示す海藻たち、生物あふれる海とふるさとの味を残すためにも、子どもたちとともに復活を願っています。

  • 長尾吉郎

    静岡局 ニュースデスク

    長尾吉郎

    1992年NHK入局
    初任地大分局で釣り覚える
    報道局社会部・広報局など
    ヤエンによるイカ釣り好き

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