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静岡で幻のアジを追う 気候変動で本当に幻に?

「しず海ひろば」 アジ1匹数万円! 静岡・倉沢定置網
  • 2022年12月19日
幻のアジを捕る 望月保志船長

大衆魚とされるアジ。刺身もフライもおいしいですよね。中でも駿河湾のサクラエビや深海のいわしをエサにした特別なアジがいるそうです。取材すると、本当に幻でした!

え!これがアジ? 1匹数万円? 

幻のアジがいると聞いたのは、10月27日。秋のサクラエビ漁について、静岡市清水区の由比漁協を取材で訪ねたときでした。同じ漁協の倉沢地区にある定置網に1匹数万円のアジが入るというのです。

もともと倉沢のアジは、岩礁域に生息する「倉澤アジ」としてブランド化されています。中でも破格なのが「根つき」とされるアジ。いわゆるメタボサイズで、見た目だけでなく、味もみな驚くようなうまみがあるそうです。

根つきのアジ(提供写真)
1匹数万円になるという(提供写真) 

幻のアジ 見てみたい! 

シマアジのような見た目。ちょっと太りすぎ?うーん、でも食べてみたい。さっそく定置網漁をしている「第十一光洋丸」の船長の望月保志さんに会いに行きました。

 定置網漁 望月保志船長

根つきのアジは、毎年、春と冬にあがります。しかし、ことしは大型連休のころに数匹しか捕れていません。海水温が18度以下になったら、アジは網に入らなくなるけれど、まだまだ12月まで可能性はあります。この時期は東の風が吹いたときに網に入るので、捕れたら連絡しますよ」(望月保志さん)

しかし なかなか捕れず

それから1ヶ月半。こちらも風向きが気になり、毎日天気予報でチェックしますが、なかなか連絡がありません。時折電話するものの「入らんねぇ」との答え。我慢しきれず、直撃することにしました。

我慢できず 港に行ってみた!

港に行ったのは、12月16日。午前6時半すぎに定置網漁を終えた漁船が戻ってきました。

望月さんは開口一番「きょうはことし一番の不漁!」

あらら残念。この日の漁獲は250キロとふだんの半分。多い日の4分の1程度だそうです。それでも魚を見せてもらいました。

ハタ、タイ、カワハギなどなど、もちろんアジやサバも捕れています。

これは深海のユウレイイカだそう。発光器があって青白く光るといいます。

そして大量に捕れたのは、カタボシイワシ。漁協によると、倉沢の定置網に入り始めのはこの1、2年です。みな名前も知らなかったとのこと。主に水温が温かい海の魚だそうです。気候変動の影響でしょうか。明らかに捕れる魚種が変わっているということです。

数多く見られるのがカタボシイワシ

気になるのは、やはりアジ。たくさん捕れた中から10匹あまりが並べられていました。体調は20センチほど。この中に「根つき」のようなやや体高のよい、やや太めのアジがいました。

右上のアジが予備軍? ほかのアジよりちょっと太め

「体高はありますけど、全く物足りません。根つきとは言わんね。まあ予備軍やね」(望月保志さん)

望月さんによると、大きさはもちろん、身の厚みもまだまだ薄いそうです。「根つき」はこの倍以上の大きさです。

根つきのアジとは?

そもそも「根つきのアジ」とは、どんな魚なのでしょうか?仕掛けている定置網は、西倉沢地区の沖に800メートル×600メートル。深さはおよそ40メートル。以前は60メートルでしたが、台風が多くなったため、網が傷まないよう浅くしたということです。

ブイがあるところに定置網 向こうは伊豆半島

この海底は岩礁帯でくぼみが多く、魚がたまりやすいといわれています。望月さんや仲買人の方によると、「倉澤アジ」は、サクラエビや深海のハダカイワシなど良質なエサを食べているため脂がのっているといいます。「根つきのアジ」をさばくと、胃の中からサクラエビなどが出てくるそうです。

通常のアジは海を回遊していますが、中には、エサが豊富なため岩礁や瀬のまわりに生息し、遠くには移動しない「根つき」がいるのではないかとされています。

地元では体高と厚みがよいもの、それに海底の深いところに生息する色が白い「白アジ」と呼ばれるものが「根つき」とされています。

気になる値段は?

海鮮料理店を営む望月和也さん 根つきアジを扱っている

漁協の競りで出会ったのが、富士宮市で海鮮料理店を営む望月和也さんです。

行商から始め、仕入れに40年。この2、3年は特に「根つきのアジ」の数が少ないといいます。ことし捕れた3匹をすべて買い取りました。

1匹800グラムで1万円だったそうです。やや小ぶりだったそうで、1キロの場合は1万2000円。競争相手がいた去年までは、高いときには1キロ2万5000円になることもあったといいます。

「いくら欲しくてもものがない。外には流通せず、値段はあってないようなもの。味も幻で門外不出だね」(望月和也さん)

その味は?

どんな身質で、どんな味なのか、詳しく聞くため、富士宮市にある望月さんの海鮮料理店を訪ねました。写真は「根つきアジ」の刺身。血合いにまで脂がまわってピンク色だといいます。

食べた客はみな最初は「なんだこれ!」とびっくりするそうです。味はさっぱりとした脂とうまみ。人気メニューはフライで都内からも食べに訪れるといいます。

(写真 望月和也さん提供)

「シマアジのような、サシが入ったトロアジの中でも、しつこさがない。さっぱりとした脂のうまみ。アジを超えています」(望月和也さん)

天然ものにこだわる望月さん、捕れる魚の変化を実感しています。

「ことしは、特産のシラスも少ないしイワシの種類も例年とは違うようです。タチウオもひれが黄色い南方系のものに変わってきています。黒潮の蛇行の影響なのか。根つきがこれだけ捕れないことしは、特に異常かなあ。まあ根つきが捕れたら連絡するから食べにおいで!」(望月和也さん)

幻のアジは、宣伝文句ではなく、本当に幻になってしまったのでしょうか。

本当に幻になるのか?

ふたたび定置網漁の望月さんを訪ねました。(ちなみに海鮮料理店の望月さんとは親せきではありません)望月さんは港近くの広場で網を修理していました。

「根つきのアジ」は捕れなくなるのか気になって聞いてみました。

「ことしは全国的にアジが少ない。根つきはほかの回遊するアジに交じって水深の比較的浅いところに上がって来て、網に入るんじゃないかと思っています。根つきが単体で網に入ることはないから。だから回遊のアジが少ないと根つきも捕れなくなる。温暖化のせいじゃないかな」(望月保志さん)

倉沢の定置網はサクラエビ漁よりも歴史が古く、昔はブリが大漁だったそうです。しかし望月さんがこの世界に入った30年前には、すでにブリは目立たなくなり、今ではこの時期であれば、カンパチやクサフグ、カマスが主な魚に変わっています。

定置網も4つから1つに減ったといいます。海の変化とともに浜で働く人たちの営みも変わっています。

「根つきのアジ」も、かごいっぱいに捕れる日が相次ぐこともあったそうですが、この先は不透明です。でも望月さんは笑顔で次のように語りました。

「わたしらは、捕れる魚を捕るだけです。子どもの頃から親しんだ富士山とこの海が好きですから」(望月保志さん)

次に「根つきのアジ」が捕れる可能性があるのは春。水揚げされたら、望月さんとともにその味をご報告したいと思います。

  • 長尾吉郎

    静岡局 ニュースデスク

    長尾吉郎

    1992年NHK入局
    初任地大分局で釣り覚える
    報道局社会部・広報局など
    ヤエンによるイカ釣り好き

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