2020年09月02日 (水)どの漢字を使うのか 【 三上 弥 】
こんにちは。
シニア・アナウンサーの三上弥(みかみ・わたる)です。
暑さの厳しい日がまだ続いています。
感染症対策、熱中症対策、日焼け対策と気遣うことが多々あるのが
ことし・令和2年の特徴です。
職場の近くを歩いていたら、
絶妙な位置に月が出ていました。
新型コロナウイルスについての情報は、
「『新型コロナウイルス』特設サイト」をご活用ください。
三上弥の「現場のことば」
第22回は、「どの漢字を使うのか」です。
感染拡大の影響
新型コロナウイルスの感染拡大がなければ、
いまごろは、東京オリンピックが終わって、
これから東京パラリンピックが開かれるという時期でした。
東京大会は延期され、
この記事が公開された時点では、
東日本大震災をもたらした
巨大地震・津波の発生から10年の節目を迎えたあと、
令和3年8月にオリンピックが、
9月にパラリンピックが開催される予定です。
総理大臣官邸には、
マスコットの「ミライトワ」と「ソメイティ」が置かれています。
収束か、終息か
新型コロナウイルスの感染拡大が進むなか、
日々のニュースで
「『しゅうそく』に向けて」や「『しゅうそく』を願って」と表現するとき、
最初のうちは「収束」と「終息」が混在していました。
同じニュース番組の中に双方が登場することもあって、
どちらが適切なのか気になった人もいるかと思います。
辞書の説明によると、
「収束」は「収まる」こと、「終息」は「終わる」ことに力点が置かれます。
ある意味、文字通りです。
インフルエンザの例を考えれば分かるように、
ウイルスが完全に制圧されてなくなることはなかなかありません。
新型コロナウイルスに限らず、
感染者数の多寡を繰り返しながら
ウイルスが多方面に影響を与え続けている実情は、
日々発表される感染者数の表やグラフが示している通りです。
望ましいのは、ウイルスが根絶して、感染拡大が完全に終わることです。
だからこそ、祭祀(さいし)や神事で「終息」を祈ることはあります。
しかし、実社会においては、
ウイルスが根絶して「終息」の状態になるのはかなり難しく、
「『収束』に向けて」や「『収束』を願う」ことのほうが現実に即しているため、
終息よりも収束が「主流」となっています。
「しゅうそく」の漢字を使うときは、
どちらがふさわしいのか意味をよく考えて使うのが肝要です。
召集か、招集か
毎年「終戦の日」前後や、政治の動きがあると、
「しょうしゅう」という言葉がよく登場します。
漢字で書くとどうなるか、
毎回よく考えた上でひらがなから変換することばです。
NHKでは、放送上の表記が決まっています。
【召集】
日本の国会、旧日本軍(きゅう・にほんぐん)に限定される。
【招集】
地方議会、自衛隊、外国の議会、外国軍隊など一般的には、この表記を使う。
「NHKことばのハンドブック 第2版」には、
国会の召集、(旧日本軍の)召集令状、会議を招集する
といった用例が載っています。
漢字テストで出題した場合、場合分けが難しいので、
出題者もよく考える必要のある事例です。
放送メディアの特性
放送メディアでは、
漢字を正確に表記すれば終わりというわけではありません。
音声面でも正確を期す必要があります。
「しゅうそく」や「しょうしゅう」のように判断の迷う漢字、
難しい表記の漢字、熟語の読みは、しばしば逡巡(しゅんじゅん)の対象です。
ためらったり、しりごみしたりしていては仕事にならないので、
「こう読む」という瞬時の判断が欠かせません。
放送メディアの場合、音声で伝えるのが必須なので、
行政の発表文や資料に「市町」ということばがあっても、
「市と町(しとまち)」と伝えるような具合です。
町村名における「まち/ちょう」、「むら/そん」なのかの確認も、
放送メディアでは新人時代から日常的に行っています。
人名や組織名に代表される固有名詞、地名などで、
「どう読むんだっけ?」と迷ったときにはすぐに確認する日常です。
記者、ディレクター、カメラマン、映像編集、アナウンサーとも、
放送メディアでは、正しい読み方の確認が「必須の作法」となっています。
NEWS WEB EASY
小・中学生や外国人のために、NHKのウェブサイトには、
やさしい日本語で書いたニュース「NEWS WEB EASY」があります。
漢字には、ひらがなの「振り仮名」付きです。
多くの学びの場では、2学期が始まりました。
国語・日本語学習はもちろん、
ニュースの理解にも役立つので、
ぜひご活用ください。
投稿者:三上 弥 | 投稿時間:11:50