2019年11月06日 (水)令和元年の台風19号 【 三上 弥 】
こんにちは。
シニア・アナウンサーの三上弥(みかみ・わたる)です。
「小諸(こもろ)なる 古城(こじょう)のほとり」で始まる島崎藤村の詩、
「水の流れに 花びらを」で始まる歌謡曲は、
いずれも「千曲川(ちくまがわ)」とゆかりが深い。
こうした印象があって、
平成10年に冬季オリンピックが開かれた土地の
県庁所在地をふだん流れる川の様子は悠々としています。
「まさか長野市内で堤防が決壊するとは思わなかった」
――こんな趣旨の話をタクシーのドライバーから聞きました。
三上弥の「現場のことば」
第14回は、「令和元年の台風19号」です。
台風のアジア名
令和元年の台風19号は、
静岡県や東日本の広い範囲に被害をもたらしています。
同じ台風には発生順の番号による呼び名と、アジア名という呼び名の2種類があって、
今回の台風19号のアジア名は「Hagibis(ハギビス)」です。
アジア名は、
北西太平洋または東シナ海で発生する台風の防災に関する政府間組織
「台風委員会」を構成する国や地域が、順につけることになっています。
「Hagibis」の命名はフィリピンで、「すばやい」という意味です。
国は、各地で相次いだ災害について、
大規模災害復興法に基づく「非常災害」、そして「激甚災害」にも指定しました。
公布・施行は11月1日です。
大規模災害復興法・非常災害・激甚災害
大規模災害復興法は、東日本大震災を受けて平成25年に作られた法律です。
「非常災害」として指定されると、被災した自治体からの要請に基づいて、
道路などの復旧工事を自治体に代わって国が行えるようになります。
法律に基づく「非常災害」として指定された災害は、
平成28年の熊本地震に次いで2番目です。
大規模な復旧工事では、自治体の負担軽減が期待できます。
「激甚災害」に指定されると、土木施設や農業施設、
公立学校などにかかる復旧費用のほか、
図書館などの公共施設や私立の学校などについても支援の対象になります。
大規模災害時には
規模の大きな災害があると、NHKでは、
全国各地にある放送局から職員の支援・応援の態勢をとります。
アナウンサーや記者、カメラマン、ディレクター、
映像制作、技術職員、後方支援業務を担う職員など
ほとんどの職種の要員が協力して、
被害を受けた地域の放送を長時間にわたって担う仕組みです。
台風19号の被害は甚大で、
10月12日(土)の接近・上陸に関する放送にかかわったあと、
最初の被害が発生してから半月余りたった時期に、
静岡県に隣接している長野県に支援業務で出張しました。
各地の放送局で、
ふだん見慣れないアナウンサーや記者が
かわるがわる伝えていると感じた場合は、
大規模災害といった特別な状況である場合がほとんどです。
災害時には、NHKの放送を頼りにしてくださる方が多いので、
被害を受けた地域に情報を的確に届けることを意識しながら丁寧に伝えています。
これまで「台風19号」といえば、平成3年の台風19号が、
全国各地で猛烈な風による犠牲者や家屋の被害、倒木、高潮などの
被害をもたらしたことから、戦後の災害史に刻まれています。
当時、津軽をはじめとする東北地方の果樹園では、
収穫前のりんごが大量に落下したことから、
気象庁が命名した正式名称ではない「りんご台風」と呼ばれることもあります。
令和元年の台風19号でも、りんごに被害が出ました。
今回の台風による増水で千曲川の堤防が決壊した地域は、
りんごの栽培が盛んな地域です。
地域を貫く国道には、「アップルライン」という愛称もあります。
台風に襲われてから半月余り経った時点でも、
信州では、画像のように、
根から幹にかけて水に浸かったままのりんご畑もありました。
被災した人々の生活支援や、農業などの産業、
インフラの整備などについては、
国や県による復旧・復興の方針がすでに示されています。
りんご畑と同じ日の「長野新幹線車両センター」周辺です。
水はすでに引いていました。
千曲川が流れているのは、写真の中央より上、奥の方向です。
写真のように、
撮影地点から遠くを眺めても、川の位置はよく分かりません。
新幹線の車両が水に浸かった映像を最初に見たときは、
すぐ近くを川が流れているのかと感じたものの、
現場に行くと、車両基地と川の距離感は思った以上にありました。
ふだんからできること
台風19号の報道を通じて、自分の生活している地域が
浸水や土砂災害の被害を受ける可能性がどのくらいあるかについては、
ハザードマップなどで
ふだんから確認するのが欠かせないということを痛感しています。
いざというとき、どこに避難すればいいか把握しておくことも重要です。
NHKのウェブサイトには、
ハザードマップの見方も掲載されているので、今後の防災に生かしましょう。
https://www3.nhk.or.jp/news/special/saigai/basic-knowledge/basic-knowledge_20190517_05.html
台風19号による被害の状況、復旧・復興に向けた動きは刻々と変わっています。
最新の情報は「NHK NEWS WEB」をご覧ください。
https://www3.nhk.or.jp/news
心の支え・勇気も
戦後の復興期に
並木路子(なみき・みちこ)さんの「リンゴの唄」で人々が勇気づけられた話や、
平成16年の新潟県中越地震の復旧・復興期に
平原綾香さんの「Jupiter」で心が和んだ話、
平成23年の巨大地震・津波に端を発する東日本大震災で、
いくつかの歌謡曲や音楽が
心の平穏を保つ上で一定の役割を果たしたことはよく知られています。
冒頭で触れた歌謡曲「千曲川」は、
NHK紅白歌合戦で五木ひろしさんが初めて白組のトリを務めた昭和50年の流行歌です。
冬季オリンピックを控えた平成9年12月31日の「紅白歌合戦」では、大トリで披露されました。
こうした経緯を振り返ると、
信濃國・信州にゆかりが深く、
地元に力を与える象徴のような曲であることが分かります。
統計上あらわれるものではないものの、きっと、復旧・復興に向けて、
この「千曲川」という曲から勇気をもらっている人は決して少なくないと思いました。
令和元年の台風19号「Hagibis」について
今回の「現場のことば」で取り上げた被災地はごく一部です。
物心ともに、国内の各地で復旧・復興が進むことを願っています。
投稿者:三上 弥 | 投稿時間:16:20