2021年01月20日 (水) 1000羽のムクドリ 専用ライトで対策してみた【高栁秀平】
【わたしとムクドリの出会い】
日曜日の夕方。
スーパーに寄った帰りにふと空を見上げると、
黒くて大きな影が。
虫の羽音にしては大きくて、
そして聞きなれない音が耳に入ってきます。
「なんだろう・・・あれ・・・」
黒い影の正体は、ムクドリでした。
だいたい200羽くらい。
私が学生時代を過ごした首都圏でも、
こんな風に無数の鳥が飛んでいたこともあったなと思いながら、
各地のムクドリの様子を調べてみると。
全国の350以上の都市部にムクドリはやってくるというデータが。
ふんの被害が深刻なところも多く、
爆竹を鳴らしたり、
鷹を放ったり、
木を叩いてみたり・・・
自治体によっていろいろな対策をとっているようです。
しかし手間がかかる割には、すぐに戻ってきてしまうそう。
このブログを読んでいるあなたの町も、
“こまりごと”になっているかもしれません。
【救世主“ムクドリライト”】
そうしたなか、ムクドリ対策の救世主が。
静岡県浜松市のベンチャー企業が開発した“ムクドリ専用ライト”です。
2リットルのペットボトルほどの大きさで、人が持ち歩けるほどの重さ。
スイッチを点けると、
縦に5個、横に5個のあわせて25個の光が照射されます。
(右の写真、木にあたっているのがその光です)
「一見普通のライト、本当に鳥は逃げていくのだろうか」
という私の心配をよそに、
その効果はてきめん。
市の実証実験で、
JR浜松駅前の木にライトを照射すると。
「バサバサバサバサバサバサ!!」
(水族館のイワシの大群が一瞬でバラバラになる感じです)
近くにいたムクドリ数千羽(おそらく3000羽くらい)が一斉に飛び立ちます。
初めのうちは何度か戻ってきましたが、
10分もすると1割以下の数になりました。
中には、
光に驚かない鳥もいるのか数羽が残っていましたが、
2か月以上たった今もムクドリの数は激減しているといいます。
ちなみに、
ライトの光は人や動物の目には無害。
一般のLEDを使っています。
開発したベンチャー企業によると・・・
詳しい仕組みは“企業秘密”でしたが、
なんでも「鳥が不快に感じる光」を生み出しているんだそう。
【ふん被害の男性は・・・】
私が浜松市で出会ったこちらの男性。
ビルのオーナーを務め、自ら管理をしています。
ムクドリのふん被害が深刻で、
ビルの屋上の排水溝が詰まり、
清掃・修繕費で60万円を自己負担したそうです。
「個人での対策はしているけど、限界もあって。
鳥たちが戻ってこないで、元いた場所に帰ってくれるといいな」
そうつぶやく男性。
私も一緒に実証実験を見守りました。
実証実験を取材した帰り道、
「ムクドリは都合よく山奥に帰ってくれるんだろうか。
隣町に引っ越しそうな気もする。
ムクドリの都合もあるから、
いたずらに追い出してしまうのもなんだかかわいそうかもしれない」
そんなことを思った私は、
ムクドリの専門家に意見を聞いてみることに。
【ムクドリとの共存を目指して】
早速、インターネットで「ムクドリ 専門家」と検索。
出てきた論文をひたすら読み込んでは、
連絡先が載っていたら電話をかける。
そんな取材を繰り返し、
ようやくたどり着いたのが、
都市鳥研究会の越川重治さん。
40年以上、首都圏を中心にムクドリの生態やふん害を調査しています。
越川さんによると、
「ムクドリをすべて山奥に帰すのは不可能。
都市部でも共存を考える必要がある」とのこと。
では、私たちは具体的にどうすればいいんでしょうか?
越川さんによると、私たちができることは大きく2つ。
1つは、
私たち市民が“ムクドリの居場所”に一定の理解をすること。
ムクドリたちは、11月から1月の冬の間に都市部にやってきます。
いたずらに追い払いをすると、
かえって町のあちらこちらにムクドリが散ってしまうそうです。
そこで、人の少ない公園や空き地など
「ここならムクドリがいてもいいだろう・・・」
と思える場所を、市民が話し合って決めておくことが大切です。
自分の家の近くを明け渡す人は少ないでしょうが、
まず話し合いをするのが第一歩ですね。
2つ目は、
行政や企業が同時に対策をすること。
対策をして一時的にいなくなったように見えるムクドリは、
実は隣の駅や町に引っ越しているだけなんだそう。
(実際、浜松市の実証実験でも、
すぐ近くのビルに鳥たちはお引越ししていました…)
そのため、自治体や企業の垣根を越えて、
同時に一斉に対策を行うことが大切になってきます。
実際は、街路樹は自治体の管轄で、
電線は電力会社、ビルの鉄骨は不動産と、
管轄が違うことで対策がバラバラに行われるという現状もあるようです。
(鳥は管轄とか人間の理屈は関係ないですからね)
実証実験に参加した浜松市役所のみなさんが
素敵な言葉を使っていました。
「ムクドリの問題は“新しい公共”で解決していきたい。
いままでのように行政が単独で対策するのではなくて、
民間の技術でライトを開発してもらい、
行政がそのライトが広く使われるような実験の場や人脈を提供していく。
最終的には
商店街の組合やくに住む住民のみなさんも一緒になって対策をしていきたい。
新しい公共として、浜松市のみんなで解決していきたいですね」
と口をそろえて話していました。
ムクドリを追いかけて始まった今回の取材。
鳥との共存は一朝一夕にはいきませんが、
まず私たち人間どうしが手を取り合って
解決への一歩を踏み出していきたいと感じました。
「あれ、新しい公共って他のことでも大切になってきそうだなあ」
これからも取材を続けていこうと思います。
投稿者:高栁 秀平 | 投稿時間:11:30