日本一小さな村の2年間
大川村の挑戦

「議会がなくなるかもしれない?」
おととし、四国の山あいの小さな村が全国の注目を集めた。高知県大川村。およそ400人の人口は、離島を除けば全国最少。村議会議員のなり手不足が深刻化し、議会に代わって住民が直接議案などを審議する「町村総会」の検討を始めたのだ。それから2年。来月に迫った村議会議員選挙を前に、自治に揺れた小さな村が出した結論は……
(取材 高知放送局記者/野中悠平)

人口400人の村

四国山地の中央に位置する高知県大川村。県都・高知市から、急峻(しゅん)な山道を越えながら車でおよそ1時間半。かつては鉱山の街として栄え、およそ4000人の人口を誇った。

しかし、昭和47年に鉱山が閉鎖。それと時期を同じくして、「四国の水がめ」と呼ばれる早明浦(さめうら)ダムの建設に伴い村の中心が水没。急激な人口減少に見舞われた。

その後も減り続けた人口は、ことし2月末時点で406人。離島を除けば全国最少だ。

定数は6人 それでも…

人口減少は、村の自治の根幹を担う村議会に影響を及ぼした。平成15年に10だった議員定数は、段階的に6まで縮小。前回(平成27年)の選挙では、新人の立候補はなかった。
当時、現職議員の平均年齢はおよそ68歳。75歳を超える議員が半数を占め、引退を希望する者もいる中、「議会をなくす訳にはいかない」と全員が立候補。無投票で再選する道を選ばざるを得なかった。

法律では議員の欠員が定数の6分の1を超えた場合、再選挙を行うことを定めている。定員が6の大川村では、4人しか立候補しなかった場合には再選挙となる。

もし次の選挙で2人以上が引退し、新たななり手が出てこなければ、村はどうなるのか。例え再選挙をしたとしても、議員のなり手は現れてくれるのか。

議会をなくす?

次の選挙まで残り2年を過ぎた、おととし5月。この小さな村の村長・和田知士の発言が、全国から注目を集めることになった。

「私は議会がベストだと思っている。しかし、議会が成り立たなくなった時にどうするかということは、準備しておかなければならない。行政や議会に対し、住民の関心が薄れているのではないか。村を守るために、村民が一丸となる必要がある」

次の村議会議員選挙の立候補者が定数に満たない事態に備えようと、議会に代わり有権者が議案などを審議する「町村総会」の検討を示唆したのだ。

「町村総会」は、議会に代わる議決機関として地方自治法で規定されている。しかし、現行法上での前例は一つだけ。戦後まもない昭和26年から4年間、東京 八丈小島にあった村で行われたのが唯一の事例となっていた。

高かった障壁

およそ1か月後、6月の村議会で和田村長は、議会の維持を前提としながらも、「町村総会」の設置を検討していることを正式に表明した。

「あと2年に迫った村議会議員選挙で、立候補者が定足数に足らない事態と仮になった場合に備え、『町村総会』の調査、研究、勉強を始めることを指示した」

この日、小さな村の小さな議場には、高知県内だけでなく、全国各地から報道関係者が殺到。和田村長の発言は、瞬く間に全国を駆け巡った。

しかし、「町村総会」は本当に設置できるのだろうか。「総会」の実施方法は、法律では明確に規定されていないのだ。

「数百人規模の採決を行う方法は?」
「有権者の交通手段はどう確保するのか?」

村が実施に向けた課題を整理していくと、さまざまな障壁が明らかになった。課題の洗い出しは40項目を超え、総会開催の難しさを暗示していた。

一方で、和田村長の覚悟は村民の心を少しずつ動かしていた。

村がすべての村民を対象に行ったアンケート調査。この中で、「将来、議員に立候補してもいい」という人が複数いることも判明したのだ。こうしたことから和田村長は、その年の9月議会で「町村総会」の検討中断を公表した。

誰なら立候補できるのか?

「町村総会」の検討中断を受け、村や村議会などは現在の議会の維持に全力を注ぐことになった。2年後の選挙に向けて、新たな世代の議員のなり手確保が引き続き課題となった。

その中で、立候補に関係する1つの要件に注目が集まった。

それは、「議員との兼業が認められる職場はどこなのか」。

地方自治法では、村から仕事を請け負う関係にある団体や企業の役員などが、議員と兼業することを規制している。しかし大川村では働き口は限られている。農家などの自営業や公務員を除けば、ほとんどの村民が村と何らかの関係を持つ職場で働いているからだ。

議論の中では、法律が定めるこの規制の範囲が分かりにくいことへの指摘が相次いだ。

「もしかしたら、この要件が立候補の大きな足かせになっているのではないか」

「町村総会」の検討中断から1年余りが過ぎた去年12月。次の村議会議員選挙が4か月後に迫る中、和田村長は動いた。

「村民が立候補しやすい環境作りを議会で議論してほしい」

村の定例議会の初日、請負の範囲なども含めて、議員との兼業ができる職場を明確にする条例を作るための議論を要請したのだ。

村に欠かせない仕事とは

「村に欠かせない事業を担う場合、兼業にはあたらないとできないのか」
「村に土地を貸す住民も、兼業規制の対象となってしまうのか」

どういった仕事であれば立候補ができるのかは、個別具体的に見ていく必要がある。一体、どうすれば住民に、自分は規制の対象ではないと分かってもらえるのか。なかなか妙案が出てこないまま、議員による話し合いは繰り返された。

ことし1月。まとまった条例案にはこう記されていた。
「村づくりに欠かせない事業は兼業にあたらない」
具体的にどの企業や団体が兼業にあたらないかは、明確にすることができなかった。

兼業できる職場を村長が公表へ

議会が作成した条例案を受けた和田村長は、高知県のアドバイスを踏まえながら、さらに検討を重ねた。そして、2月27日。6人の議員全員が出席した話し合いの場で、村長はひとつの解決策を提示した。

“毎年、村長が議員とほかの仕事との兼業が認められる企業や団体を公表する”

村長の提案に、議会側も同意した。

最終的に固まった条例案は6条からなっていた。

その第1条では「議会議員のなり手不足をできるかぎり補うため、議会議員の兼業禁止について明確化を図り、村議会を維持することを目的とする」と、議員のなり手不足への対策であることが明記されている。

その上で、議員との兼業規制については、第3条で次のようにまとめられた。
村内の企業や団体の役員のうち、
「村の運営上、必要性が高い事業を補助金を受けながら担っている場合」や、「村から指定され施設の管理を行っていたりする場合」、また、「村と土地の貸し借りの取り引きを行う際に営利目的ではない場合」などは、規制の対象にはならないと定められた。

さらに第4条では、「企業や団体が村から仕事を請け負っていたとしても、それが議員活動を公正・適正に行う妨げにはならないと考えられる場合」も、兼業規制の対象から除外した。
これは、企業や団体が村から請け負う業務のうち、村の指定を受けて施設の管理を行う場合などの認められているものを除いた金額が、その組織の収入全体の50%を下回る場合、議員と役員などの兼業が認められるという考えに基づいている。

そして、第5条では「条件を満たす企業や団体を、毎年、村長が公表する」、最後の第6条では「関連する地方自治法の条文に違反しない形で運用する」という趣旨の条文が盛り込まれた。

3月4日に開かれた村議会。傍聴席を埋め尽くす報道陣の前で、議会側から条例案が提出された。
「原案に賛成の諸君に、起立を求めます」

議長の声に、残る5人の議員が勢いよく立ち上がる。全会一致での可決・成立。小さな村が挑み続けた議員のなり手確保に向けた議論が、ひとつの大きな節目を迎えた瞬間だった。

「なり手不足の解消に向け、一歩進んだと思っている」

議会のあと和田村長は、なり手不足解消への期待を口にした。

しかし、その表情は決して安心しているようには見えない。むしろ、これからが本番だと、決意を新たにしているようにさえ感じられた。

2年間の集大成

条例は平成に代わる新たな元号が発表される4月1日に施行され、4月16日に告示される村議会議員選挙でも適用される。

和田村長は、できるだけ早い時期に兼業が認められる企業や団体を公表するべく、対象となる企業や団体の整理を進めている。

「400人の村を何が何でも守る」

2年間取材を続ける中で、村長や村議が繰り返し訴えてきた言葉だ。その背景には、1人でも多くの住民と共に村づくりをしていきたいという願いが込められていた。

「わが村の議会がなくなるのではないか」

その危機感から生まれた新たな条例。小さな村が挑んだ2年間の集大成だ。

選挙まで残された時間はあとわずか。次の定例議会は6月。果たしてその場に、新たな議員の姿はあるのだろうか。

日本一小さな村の村議会議員選挙が、全国から大きな注目を集めようとしている。

野中 悠平

高知放送局

野中 悠平

平成26年入局。初任地・高知局で選挙や行政取材などを担当。ビールを愛し、高知の食に魅了されて早5年。日々、体重増加と戦う。

リポート一覧