議員の“やりがい”はどこへ

「政治への無関心が以前より進んでいる」「地域のために汗を流してもなかなか評価されない」…そんな思いを抱えたまま引退した地方議員たち。議員の“やりがい”は、どこへいったのか。市議会議員選挙が初めて無投票選挙になったことをきっかけに、議員を取り巻く現状を見つめた。

無投票の衝撃

人口3万5000の島根県大田市。去年4月の市議会議員選挙(定員20)で、昭和29年に市が誕生して初めて、有権者が1票を投じることなく「無投票」で当選者が決まった。

「まさか、こんな事になるとは予想もしていなかった」

平成2年に39歳で議員になり、以降30年近く続ける石橋秀利議長は衝撃を受けた。

「議員になった当時は、島根県のどの議会でも若い議員が『地域をよくしたい』と活発に議論し、互いに刺激を与えあっていた」

石橋さんは、いまは若者と地域の関わりが薄れ、それが議会への無関心にもつながっているのではと感じている。

実際、若いなり手が増えない大田市議会では議員が高齢化。60歳以上の議員の割合は、30年前は2割だったが、今では7割を占めている。

“やりがい”はあったはずなのに…

なぜ、議員のなり手不足は深刻化するのか。

去年4月、後継者を探すことなく引退した大田市の元議員、松葉昌修さん(70)を訪ねた。

松葉さんはサラリーマンなどを経て13年前に議員に。荒れ放題だった池を景観スポットに変えるなど、3期12年、地元の声に耳を傾け、困り事や課題の解決に取り組んできた。

地元の人たちが喜ぶ姿を見て、仕事に誇りを感じてきた。一方で、議員の仕事は行政に比べて成果が見えづらく、認めてもらえないもどかしさを感じることもしばしばだったという。

松葉さんは振り返る。

「『議員は何をしているか分からない』『どうせ暇だろう』という評判を聞くこともあったし、『日頃、世話になるのは松葉さんだが、選挙で投票するのは別の人』と聞いてショックを受けたこともあった」

さらに、大田市の議員報酬は月に31万円、政務活動費は月に換算すると1万円。その一方、松葉さんは12年間で800近い葬儀に参列するなど、市民と顔をつなぐ活動にかかる金銭的な負担は大きく、報酬がほとんど手元に残らないことも多かったという。

松葉さんは引退後、気持ちを吐露した。

「地域の潤滑油の役割を果たす議員の存在を、市民の皆様に少しでも理解して頂ければありがたかった」

島根県の19市町村の議会議長に行ったアンケートでも、なり手不足を感じている議会は12に上った。複数回答でその理由を尋ねると、10の議会が「地方政治への無関心」や「議員報酬などの待遇面」を挙げ、6の議会が「議員の仕事に魅力がない」を挙げた。

議員を取り巻く環境の厳しさが重くのしかかり、いつしか“やりがい”を失わせている現状が浮き彫りになった。

議員がいなくなると困る

松葉さんがいなくなることで、初めて地元選出の議員を失った大田市三瓶町では、議員の存在の大きさを痛感する出来事が起きた。

無投票で議員が決まった日からおよそ1週間後の去年4月9日。大田市を震度5強の地震が襲った。三瓶町は建物が全壊するなど、特に大きな被害を受けた。

住民たちは途方に暮れたが、市内のほかの地域の議員から救いの手はほとんどなかったという。

「もし、身近に議員がいたら被害の実情を市に訴えてもらったり、復旧に必要な事を相談したりできただろうに」

自治会長の藤井さんは当時を振り返った。議員の数が減れば、それだけ地域の声は自治体に届きにくくなる。なり手不足の影響が、はっきりと現れた出来事だった。

議会はどうあるべきか

大田市議会は今回の地震を教訓に、災害時には個々の議員が別々に活動するのではなく、自治体が「災害対策本部」を設置するのと同様に議会も対策本部を立ち上げ、一丸となって市全域の問題の対応にあたることになった。

地方議会は、地域の課題を解決したり、行政の税金の使い道をチェックしたりと、重要な役割を担う。なり手が不足したとしても、現状ではその役割を果たさねばならない。

なり手不足をいかに食い止めるか。そして、議会の機能を果たすために、どんな対策を講じるべきなのか。

この課題は議会だけでなく、われわれ住民に対しても突きつけられているのでないか。

川田 侑彦

松江放送局浜田支局

川田 侑彦

平成28年入局(神奈川県出身)松江放送局を経て去年夏から浜田支局に赴任 行政・社会問題・スポーツなど島根県西部を幅広く取材

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