富山県第2の都市、高岡市。

高岡市ではおととし11月、40億円もの財源不足が突如明らかになった。このため今では、市民サービスを切り詰める動きが相次ぐ事態になっている。

65歳以上は1回100円で利用できた市のコミュニティーバスも、財政難を理由に廃止された。長年このバスを利用していた82歳の女性は、街なかまで出かけるのに、今では片道1000円以上かかるタクシーを使わなければならなくなり、外出の機会は減った。

「年金生活だし、ショックというか、楽しみがなくなったいうか…なんか足がもぎとられたような」

市民に身近な施設にも影響が及んでいる。半世紀にわたり文化活動の拠点として親しまれてきた市民会館は、改修費が捻出できず、無期限で休館になった。さらに市の49の施設の利用料金を、最大1.5倍に値上げすることも検討されている。

なぜこれほどまでの財政難に陥ったのか。

背景には、高岡市の悲願だった北陸新幹線の開業が挙げられている。

市は、新幹線の金沢延伸までの10年間を投資のチャンスと捉えて「黄金の10年」と銘打ち、関連の大型公共事業などを次々に押し進めた。

なかでも力を入れたのが、新幹線の新駅に加えて、在来線の高岡駅周辺の整備だった。高岡駅も開業効果の恩恵を受けようと、およそ150億円を投じて都心にも負けない施設が作られた。

市の借金は、新幹線が延伸した平成26年度には1100億円を超えた。その一方、貯金にあたる基金は、財源の穴埋めのため、昨年度には底を尽きかけた。

こうした行政の施策に対して市議会では、一部の会派が反対することはあったものの、すべての予算を認めてきた。チェック機能は働かなかった。

おととしまで22年間にわたって市議会議員を務め、議長も経験した荒木泰行さん(76)は、新幹線開業などで市全体が沸き立つなか、高岡駅周辺の整備も必要だと考えていたと言う。

「新幹線の開設を含めて、高岡がいよいよ大きく広い舞台に上っていくんだよという一つの期待感を持たせる。嫌なことは、なかなか地域の中でも言いたくないわけ、基本的には。責任がないと言ったらうそになりますよ。お互いに悪いときは悪い。行政だけに一方的に押しつけるんじゃなしに」

地方議会に詳しい東北大学大学院の河村和徳准教授は別の背景も指摘する。

「雰囲気の問題に加えて、もう1つあるのが地方議員の『能力』の問題になるわけです。現在の行政の水準っていうのは非常に上がっていて、予算も複雑化しているわけです。専門的な知識がある議員がチェックするという環境に切り替えていかないと、今回のような状況は再び起こるだろう」
(動画リポート 富山放送局記者:桑原阿希)

「納得できないものは可決しない」

行政に「NO」と言えなかった高岡市議会は特殊な事例ではない。

全国の地方議会を調査している早稲田大学マニフェスト研究所によると、大多数の議会が、高岡市のように行政側が提出した予算案を否決したことがないとみられるという。議会が正常にチェック機能を果たすためにはどうすればいいのか。

議会の改革に、先進的な取り組みを進めている福島県会津若松市のケースを見てみたい。

 
    

現在はオフィスビルの建設が進む土地がある。3年前、会津若松市はIT企業の誘致のため、6億円をかけて取得を目指していた。

市では最重要施策としていたが、議会は一度、関連する予算案を否決した。市議会の目黒議長は当時の経緯をこう振り返る。

「巨費を投じるものだから、成功するのかどうなのか…執行部側の答えが非常に窮するというか、そういう場面がたびたびあった。納得できないものはとりあえず可決しない、と」

実は20年ほど前、会津若松市も高岡市のように、財政難で市民サービスを切り詰めなければならなかった。この経験を契機に、議会改革の取り組みが始まった。

市が提出した予算案を厳しくチェックできるよう、財政の専門家などを招き、議員が専門的な知識を持った職員と対等に議論できる力を養った。

取り組みで特に重視しているのが「説明責任」。すべての議員が参加して行う市民との意見交換会では、議決した議案についてみずから説明し、市民からの質問にも答えなければならない。

「いい意味でのプレッシャーでもあるし、背筋がしゃんとするというか、議員としての自覚というか…議会としての形が変わってきたんだと思う」(議長)

(動画リポート 福島放送局記者:桜田拓弥)

議会に本来の大切な役割を果たしてもらうために、私たちはどう1票を投じるのか。統一地方選挙は、道府県と政令指定都市の議員の選挙は4月7日に、市区町村の議員の選挙は21日に行われる。

【おはよう日本 2月21日放送】

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